橋本奈々未センター曲は切ない別れの歌
人気アイドルグループ・乃木坂46の16thシングルとして2016年11月9日にリリースされた『サヨナラの意味』は、杉山勝彦作曲のピアノの旋律が美しく響くメロディが心に残るミディアムナンバーです。選抜メンバーは過去最多の19人で、2017年2月で乃木坂46からの卒業と芸能界引退を発表していた橋本奈々未が最初で最後のセンターを務め、2017年末卒業の中元日芽香もこの楽曲が最後の選抜入りとなりました。
第67回NHK紅白歌合戦に出場した際にはこの楽曲が出場曲となり、冠番組の『乃木坂工事中』内で発表されたファン10万人が選ぶ乃木坂46ベストソングランキングでも1位を獲得するほどの人気曲です。
どのようなメッセージが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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電車が近づく
気配が好きなんだ
高架線のその下で耳を澄ましてた
柱の落書き
数字とイニシャルは
誰が誰に何を残そうとしたのだろう
歳月の流れは(歳月の流れは)
教えてくれる(教えてくれる)
過ぎ去った普通の日々が
かけがえのない足跡と…
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭で、主人公は「電車が近づく気配が好きなんだ」と告白しています。
恋人との待ち合わせ場所である高架線の下で、恋人を乗せた電車が近づいてくるのを感じて心をときめかせているからなのでしょう。
ふと見つけた柱に記された数字とイニシャルの落書きは、きっと書いた本人には重要な意味があるはずですが主人公にはその意味が分かりません。
これは、大切な想いがあっても相手に伝わらなければ意味がなくなってしまうことを表しているように感じます。
何気ない「普通の日々」を過ごしていると、退屈に思えることがあるでしょう。
しかし歳月が流れ振り返ってみると、その「普通の日々」こそ「かけがえのない足跡」だったと気づきます。
味気ないと思っていた青春時代が、大人になってみると色づいて感じるのと似ているかもしれません。
どことなく寂しさを感じる歌詞から「サヨナラ」の予感を感じ取っていることが伝わってきます。
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サヨナラに強くなれ
この出会いに意味がある
悲しみの先に続く
僕たちの未来
始まりはいつだって
そう何かが終わること
もう一度君を抱きしめて
守りたかった
愛に代わるもの
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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別れは悲しいものですが、別れの後にもそれぞれの人生は続いていきます。
だから、別れよりも出会えたことの意味を大切にするという意味で「サヨナラに強くなれ」と自分の気持ちを奮い立たせていると解釈できます。
では「愛に代わるもの」とは何でしょうか?
この楽曲を橋本奈々未の卒業ソングと位置づけて考察すると、その答えが見えてきます。
その場合、主人公はファンを、主人公に別れを告げる恋人は橋本奈々未を表していると仮定できます。
ファンにとって好きなメンバーの卒業は当然悲しいですが、彼女の未来を思って見送るのではないでしょうか。
実際、主人公はそれを「守りたかった」と言っているので、自分が相手を愛する気持ちよりも相手が別れることで羽ばたける未来を大切にしたいという想いが込められているのでしょう。
それでも「もう一度君を抱きしめて」という行動には、引き止めたい気持ちが表れているように感じます。
別れは強くなるための手段
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電車が通過する
轟音と風の中
君の唇が動いたけど
聴こえない
静寂が戻り
答えを待つ君に
僕は目を見て微笑みながら
大切なもの(大切なもの)
大切なもの(大切なもの)
遠ざかっても(遠ざかっても)
新しい出会いがまた
いつかはきっとやって来る
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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電車が通過すると、轟音と風によって周囲の音がかき消されます。
その中で恋人の唇が動き何かを言ったのが分かりますが、その内容は聞き取れません。
電車が通り過ぎた後、恋人は主人公の答えを待っています。
主人公は聞き返すこともできましたが、理由がどうあれ恋人が別れを告げようとしていることに気づいていたので「目を見て微笑みながら」頷きました。
おそらく別れを告げる側のつらい気持ちを気遣い、聞き返さなかったのでしょう。
愛する人という「大切なもの」が自分の元から遠ざかっても、「新しい出会いがまたいつかはきっとやって来る」と前向きな気持ちでこの別れを受け入れています。
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サヨナラを振り向くな
追いかけてもしょうがない
思い出は
今いる場所に置いて行こうよ
終わることためらって
人は皆立ち止まるけど
僕たちは抱き合ってた
腕を離して
もっと強くなる
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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別れてしまった関係を振り返ってもどうにもなりません。
それで「思い出は今いる場所に置いて行こうよ」と語りかけてきます。
これは別れたら全てを捨てなくてはならないという意味ではなく、過去に縛られず前を向いて未来を生きていこうというメッセージだと考察できるでしょう。
関係が壊れることを怖がって、正直な気持ちを伝えたり行動するのをためらったりする人は多いはずです。
しかし出会ってからずっと、まるで抱き合っていたかのように温かく尊い時間を過ごしてきました。
相手の腕の中に閉じ込められたままでは、お互いに窮屈で成長できません。
だから今度は腕を離して1人で立ち、もっと強くなる時なのです。
好きだけどちゃんと言わなくちゃいけない
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陽は沈む(切なく)
遠くに見える鉄塔
ぼやけてく(確かな距離)
君が好きだけど(君が好きだけど)
ちゃんと言わなくちゃいけない
見つめあった瞳が星空になる
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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最後の別れの言葉を切り出せないまま、気づけば陽は沈んでしまいました。
暗くなりぼやけていく風景は、主人公の寂しい心の内を表しているかのようです。
自分の好きな気持ちを優先させるなら、引き止めるのが普通でしょう。
しかしそれが恋人にとって最善の答えではないことが分かっているので、引き止める選択肢は最初からありません。
「君が好きだけどちゃんと言わなくちゃいけない」という言葉に、せめぎ合う気持ちが読み取れますね。
時間はさらに経過し、お互いの瞳に星が映って星空のように輝きます。
なおも見つめ合う2人の間にある深い愛と絆が感じられる素敵な表現です。
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サヨナラは通過点
これからだって何度もある
後ろ手でピースしながら
歩き出せるだろう
君らしく…
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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主人公は、この別れは人生の「通過点」だと考えます。
きっとこれからもこんなに悲しくつらい別れを何度も経験することになるでしょう。
それでも、別れがあるからこそたどり着ける未来もあるはずです。
そのため、主人公は別々に進んだ道の先で「君らしく」人生を楽しめるよう願っています。
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もう一度君を抱きしめて
本当の気持ち問いかけた
失いたくない
守りたかった
愛に代わるもの
≪サヨナラの意味 歌詞より抜粋≫
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最後にもう一度抱きしめたのは、自分の「本当の気持ち」を問いかけるためです。
そうして「失いたくない」と思っていることに改めて気づきました。
本心では失いたくないけれど、愛しているからこそ送り出してあげたい。
つらくても相手を想って行動できる気持ちこそが本当の愛なのかもしれませんね。
MVに隠されたものとは?
『サヨナラの意味』のMVは、感情の起伏によって身体に棘が出る人種・棘人(しじん)と人間のやり取りを描くドラマ仕立ての作品となっています。
このMVの中には様々な要素が散りばめられており、ファンの間ではその意味にも注目が集まっています。
まず棘人の設定は、橋本の写真集のタイトル『やさしい棘』から生まれたものでしょう。
また劇中で印象的に登場する本『棘人とネコ』のページには、「それでも、御三家は永遠だから」という一文があります。
棘人と人間の儀式・棘刀式のシーンでは乃木坂の御三家と呼ばれた白石麻衣・松村沙友里・橋本奈々未が棘人側で並んでおり、橋本が卒業しても御三家の存在は永遠にファンの心の中で輝き続けるとの想いが伝わってきますね。
さらに、橋本が尊敬する桑田真澄の名言である「マイナスはプラスにする為の準備期間」という言葉も見えます。
卒業の悲しみをマイナスと考えると、橋本にとってもファンにとってもきっとここから新たな喜びが見い出せるということを意味しているのかもしれません。
そして橋本の本の栞代わりに使われていた帝都ユキの切符には「第二章」と書かれてあり、これは彼女自身の卒業後の人生を指しているのでしょう。
儀式の後に彼女が去るのは、ただの慣習としてではなく彼女の意思を尊重し受け止めてくれる存在を見つけられたことで前に進む決意ができたからなのではないでしょうか。
別れは終わりではなく新たな始まりです。
『サヨナラの意味』には大切な人と別れなければならない時にも前向きな気持ちでエールを送れるよう、心を整えてくれるメッセージが込められていました。
ぜひ歌詞とMVをさらに深く読み解きながら、乃木坂46の名曲をますます楽しんでくださいね。