全国で定番となった合唱曲の誕生秘話を解説!
2010年代後半から学校の卒業式や合唱コンクールの合唱曲として定着している『群青』が誕生した経緯をご存じでしょうか?
この楽曲は2011年に東日本大震災を経験した福島県南相馬市立小高中学校の平成24年度卒業生と同校の音楽教諭によって作られました。
制作に携わった生徒たちは2011年当時中学1年生で、106名いた生徒のうち2名が津波の犠牲になり、97名が原発事故による避難のために全国に散り散りになってしまいました。
学校再開後、小高中学校の2年生として進級したわずか7名の生徒たちは日本地図に仲間たちの顔写真を貼りつけ、口々に思いを呟いていたそうです。
小高中学校では毎年、卒業式で卒業生が希望や未来を語った歌を合唱するのが恒例となっていましたが、皆が震災の不安や心痛から歌うことそのものを難しく感じていました。
そんな中、当時の音楽教師だった小田美樹先生が生徒たちの言葉から思いを拾い上げて歌詞にし、曲をつけて2013年2月に完成したのが『群青』です。
そして翌月に京都府長岡京市で行われた東日本大震災復興支援コンサート「Harmony for JAPAN 2013」にて、小高中学校特設合唱団がオリジナルバージョンの『群青』を歌唱したところ大反響を呼びました。
その歌唱を会場で聴いていた合唱指揮者の本山秀毅は、同席していた作曲家・編曲家の信長高富にこの楽曲の編曲を勧めます。
そして混声3部合唱・混声4部合唱・同声2部合唱の3バージョンの楽譜が2013年8月に発行され、今や日本全国で合唱曲として浸透しています。
つらい経験を乗り越えた子どもたちの思いが詰まった歌詞の意味を考察していきましょう。
どこかで同じ空を見上げている君へ
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ああ あの街で生まれて君と出会い
たくさんの想い抱いて 一緒に時を過ごしたね
今旅立つ日 見える景色は違っても
遠い場所で 君も同じ空
きっと見上げてるはず
≪群青 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭では、同じ街で生まれ出会った友との楽しい日々を振り返っています。
離れ離れになることなんて想像もせずただ笑い合った日々は、全ての子どもたちにとって大切な思い出です。
そしてそれぞれの場所で今、卒業という「旅立つ日」を迎えています。
同じ学校の卒業式で一緒に卒業することは叶いませんでしたが、「見える景色は違っても遠い場所で君も同じ空 きっと見上げてるはず」と考えれば寂しくはありません。
距離は遠く離れていても空はどこまでも繋がっています。
独りぼっちに感じても、空を見上げれば見知らぬ土地で頑張っている友のことを思い出せます。
その気持ちは歌が生まれた小高中学校の生徒たちだけでなく、卒業を迎え別れを経験する全ての子どもたちを力づけてくれるでしょう。
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「またね」と手を振るけど
明日も会えるのかな
遠ざかる 君の笑顔今でも忘れない
≪群青 歌詞より抜粋≫
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「またね」と手を振って翌日再会できるのは、当たり前のようでいて奇跡のように尊いことです。
いつ突然の別れが降りかかってくるか分かりません。
だからこそ友の笑顔をずっと忘れないように、一緒に過ごす毎日をもっと大切に生きようという思いがあふれてきます。
群青色を見て思う当たり前の幸せ
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あの日見た夕日 あの日見た花火
いつでも君がいたね
当たり前が幸せと知った
自転車をこいで 君と行った海
鮮やかな記憶が
目を閉じれば 群青に染まる
≪群青 歌詞より抜粋≫
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夕日や花火は1人で見ても美しい景色ですが、大切な人と共に見てその感動する気持ちを共有すればもっと幸せな気持ちになれるものです。
「あの日見た」や「いつでも君がいたね」という言葉から、彼らもそうやってかけがえのない時間を共有してきたことが伝わってきます。
どこで生活していても当たり前にそこにある景色の中で、大切な友との関係もまた当たり前に感じるほど身近にありました。
しかし失って初めてその「当たり前が幸せ」だったことを知りました。
友と自転車を走らせて見に行った海の青さが今でも鮮明に思い出されます。
ここではタイトルでもある「群青」のフレーズが登場します。
小高中学校のスクールカラーは小高区の紅梅をイメージしたえんじ色ですが、校歌に「浪群青に踊るとき」という歌詞があることから群青も重要な色とされてきました。
彼らにとって群青は美しい海の色であると同時に、仲間との絆を示す色でもあります。
目を閉じれば、今なおそこにいるかのように仲間たちの姿を思い出し、互いに結んだ絆をはっきりと感じている様子が伝わってきます。
きっとまたあの街で会おう
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あれから二年の日が 僕らの中を過ぎて
三月の風に吹かれ 君を今でも想う
響けこの歌声
響け遠くまでも あの空の彼方へも
大切な全てに届け
≪群青 歌詞より抜粋≫
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中学1年生で経験した震災から2年が経ち、卒業の時を迎えた生徒たち。
あの時笑い合った友のほとんどが隣にはいませんが、「君を今でも想う」と歌われています。
この「君」には遠い地で同じ空を見上げて生きる友も、もう二度と会えない空の上にいる友も含まれています。
「大切な全てに届け」と願いながら響かせる歌声が風に乗って広がっていくのをイメージすると、胸の奥に熱いものがこみ上げてくるのではないでしょうか。
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涙のあとにも 見上げた夜空に
希望が光ってるよ
僕らを待つ群青の街で
≪群青 歌詞より抜粋≫
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この2年の間に彼らが流した涙は、とてもつらく苦しい気持ちを伴っていたはずです。
それでも見上げた夜空には美しい星が光り輝いています。
それは彼らにとって暗い闇のような日々を照らす希望の光に見えたのでしょう。
彼らが生まれ育った「群青の街」は、生徒たちが散り散りになった後もずっと彼らの帰りを待っています。
もしかしたらそこで再会した彼らの笑顔の瞬間を待っているのかもしれません。
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きっとまた会おう
あの街で会おう 僕らの約束は
消えはしない 群青の絆
また 会おう
群青の街で
≪群青 歌詞より抜粋≫
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彼らは「きっとまた会おう あの街で会おう」と約束します。
強く結び合わされた「群青の絆」があるので、その約束はいつまでも消えることはありません。
卒業生たちが大切な友との約束を胸に旅立っていく力強い姿に勇気づけられますね。
別れる友への想いが伝わる卒業ソング!
合唱曲『群青』は、震災に遭い苦しい時間を過ごした卒業生たちが抱く友への純粋な想いを詰め込んだ卒業ソングです。この歌詞に込められた気持ちは、どの地でどのような日々を過ごした生徒たちにとっても自分の境遇に置き換えて共感できるでしょう。
歌詞と調和した穏やかで美しいメロディに乗せて、大切な友の姿や思い出を頭に浮かべながら歌ってくださいね。