"一番綺麗なとき"って?
「一番綺麗な私を抱いたのはあなたでしょう」。
中島美嘉『一番綺麗な私を』のサビは、こんな衝撃的な歌詞から始まる。「一番綺麗な私」。女が一番綺麗なときって、いったいどんなときだろう?
『一番綺麗な私を』の冒頭の歌詞をみてみよう。
一番綺麗な私を
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もしもあの春にあなたと出逢わなければ
舞い散る花びらはただ白く見えていたでしょうか?
もしもあの夏を二人で過ごさなければ
花火の輝きも残らずに消えていたでしょうか?
≪一番綺麗な私を 歌詞より抜粋≫
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「もしもあの春にあなたと出逢わなければ 舞い散る花びらはただ白く見えていたでしょうか?」
これは、逆説の表現だ。この歌詞の彼女は、実際にはあなたと出逢っている。あなたと出逢い、舞い散る桜の花びらが、今まで見ていたものよりもずっと色づいて見えた。愛する人と出逢った幸せで、世界は色づいて見えたのだ。
次の部分も逆説。「もしもあの夏をふたりで過ごさなければ 花火の輝きも残らずに消えていたでしょうか?」
実際にふたりで過ごした夏は、花火の輝きもいつまでも残って、彼女のまぶたに焼き付いていた。それだけ、彼女にとって愛した人と過ごした夏は、かけがえのないものだった。
心から好きな人と恋愛しているときは、世界が輝いて見える。そして、輝くのは周りの景色ばかりではない。大好きな人から愛されると、女は内側から輝くばかりに綺麗になる。女が自分史上一番綺麗になるときは、幸せな恋愛をしているときなのだ。
しかし、この歌では、その幸せは終わりを告げられたようだ。
素晴らしい出会いを歌った曲
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一番綺麗な私を抱いたのはあなたでしょう
消えない涙の記憶を 運命と人は呼ぶのでしょう
≪一番綺麗な私を 歌詞より抜粋≫
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恋人と別れてしまった女。もしかしたら、一方的な別れ方をされたのかもしれない。心底好きだった人と別れるつらさ。相手との幸せな記憶は、素晴らしいものであるほど、別れたあとの心を苦しめる。
その涙の記憶はいつまでも消えることがなく、いつしか、恋人との日々は、通るべくして通った運命の道だと思うようになった…。
しかし私は、この歌の女性をしあわせだと思う。世の中で、そんなに強い未練が残るほど大好きな人に出会える女性は、いったいどのくらいいるだろう。大好きな人とそれほどしあわせな日々を過ごせたということは、とても意味のあることだったのではないだろうか。
この曲の歌詞を通して表現されているのは、女性の未練なのかもしれない。けれど、裏で描かれているのは、女性を「一番綺麗な私」にしたほどの、素晴らしい記憶なのである。
TEXT 緑の瞳