産屋敷耀哉と鬼舞辻無惨の心情を歌う
2024年5月より放送のTVアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編のオープニング主題歌は、MY FIRST STORYとHYDEがタッグを組んだ新曲『夢幻』です。
作詞・作曲・編曲はMY FIRST STORYと音楽クリエイター集団のCHIMERAZが手がけており、ストーリーに寄り添うラウドロックとなっています。
歌詞と歌割りに注目するとHiroが鬼殺隊の最高責任者でお館様と呼ばれる産屋敷耀哉、HYDEが最強の敵である鬼舞辻無惨の気持ちを歌っていることが分かります。
どのような想いが込められているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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永遠の意味 知らぬ君に
答えを示す時だ
夢幻に続く螺旋の先へ
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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産屋敷は無惨を「永遠の意味 知らぬ君」と表現しています。
無惨は人間だった頃、病のために長く生きられないとされていたことから生への執着が強く、鬼になってからも永遠に生きることを追い求めています。
そんな彼を「永遠の意味 知らぬ君」と言い表しているのは、不滅の命を求める彼に永遠の意味を履き違えていることを伝える意図があるのでしょう。
タイトルでもある「夢幻」は今後登場する無限城とかけたフレーズだと思われます。
無限城が夢や幻のような不思議な場所である点からも「夢幻」という言葉がぴったりです。
ここで産屋敷が無惨に伝えたいのは、不滅の命は所詮夢や幻のように誰にも手が届かず、無惨が死んでしまえば全ての鬼も消えて途絶えてしまう儚いものであること。
そして本当の永遠とは、体が滅びてもなお、誰かの心を通して受け継がれていく人の想いであるというメッセージです。
生きることの先へと続く、人と人との深い結びつきについて考えさせられます。
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言い訳に聞こえた理由は
儚い未来手繰った弱さ
それを強さとはき違えている
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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鬼は強靭な身体能力と治癒能力をもつものの、太陽の光に弱い特性があります。
しかし、禰豆子が太陽の光を克服したことで、無惨はいよいよ自分の望む完全さに近づくと狂気的な喜びを露わにしました。
産屋敷はその無惨の想いを「言い訳」、「儚い未来手繰った弱さ」と表現します。
永遠の命のために鬼を増やしてきたというのは言い訳のようなもので、単に命を失うことを恐れているだけだという彼の「弱さ」に言及しているのでしょう。
いつ終わるか変わらない儚い未来を何とか手繰り寄せて命をつなげようとするのは、彼の意志を受け継いでくれる仲間がいないからです。
仲間との団結によって強さを見せる鬼殺隊だからこそ言える言葉ですね。
君さえ居なければ
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憎い 憎い
醜い 醜い
月を隠すほどの
黒く 黒く
淀む 心
君さえ居なければ
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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この部分では「憎い」「醜い」と繰り返されています。
これは無惨によって大切な人を奪われた鬼殺隊の心情でしょう。
夜を照らす明るい月は、暗闇のような人生の中の希望を指していると解釈できそうです。
無惨に対する彼らの憎しみは、希望を覆い隠すほどに厚く広がり、心を蝕んでいる状態です。
「君さえ居なければ」大切な人を失うことも、それによって苦しみ続けることもなかったのにという気持ちが伝わってきます。
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ゆらいでる ゆらいでいる
花のように意思をつなぐ
奪っていく 奪っていく
嵐のように心を裂く
永遠の意味 知らぬ君に
答えを示す時だ
夢幻に続く螺旋の先に
待つのは誰
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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散ってもまた咲く花のように、人の意思は死によって途絶えたとしても受け継いだ人の心で連鎖していきます。
その間には「嵐のように心を裂く」出来事に直面し、苦しむこともあるでしょう。
それでも鬼滅隊には決して途切れない永遠に続く想いがあるため、無惨に「答えを示す」ことができると信じています。
「夢幻に続く螺旋の先に待つのは誰」というフレーズでは、無限にも思えるほど先の未来まで続くのはどちらが信じる「永遠」なのか見てみようと語りかけているように感じます。
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生まれ落ちた運命を飲んだ
背負った数の名前を覚えた
爛れるほど 心燃やす感情
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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自分が置かれている状況が嘆かわしいと「生まれ落ちた運命」を呪いたくなることもあるでしょう。
しかし、ここでは「飲んだ」とあり、それも自分の人生だと受け入れていることが伝わってきます。
産屋敷は鬼殺隊士を個々に大切にしているため、彼らを名前で呼びます。
「背負った数の名前を覚えた」というフレーズから、名前を呼ぶ度に自分が彼らを背負っているのだと意識している様子が垣間見えますね。
「爛れるほど」熱く心を燃やし、無惨と戦い切る覚悟を言い表しています。
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憎い 憎い
醜い 醜い
世界を分かつほどの
怒り 怒り
燃やす 心
君さえ居なければ
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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鬼と鬼殺隊との相容れない心情により、互いに怒りを燃料にして心の火は大きくなっていきます。
無惨の方も産屋敷や鬼殺隊に対し、「君さえ居なければ」自分の望みはもっと早く叶っていたのにと、疎ましく思っていることが理解できますね。
花のように遠い未来へ想いをつなぐ
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鬼哭に耳を傾けた仕舞よ
この身に宿る万物で終いよ
夢幻を他者に託した弱き人
命の輝きは幾星霜に
祈りの瞬きが照らす斜陽に
千夜を身に宿し
解を押し付ける
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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「鬼哭」とは浮かばれない死者の魂が泣く声のことを指しており、この場合は鬼によって殺された大切な人たちを表現していると考えられるでしょう。
また「この身に宿る万物」は、一人ひとりに与えられた限りある命と解釈できます。
本来遺された者は浮かばれない死者の声に耳を傾けるだけでよく、自分の限りある命を精一杯生きるだけで十分です。
しかし無惨は「夢幻を他者に託した弱き人」とあるように、自分の儚い夢のために無関係な鬼を増やし続けてきました。
親戚である無惨の身勝手な振る舞いによって一族が短命になる天罰を身に受けたことや、多くの人々が苦しんでいるという事実は、産屋敷にとって簡単に見逃せるものではありません。
次の「命の輝きは幾星霜に」のフレーズは、漫画『鬼滅の刃』の最終話である第205話のサブタイトル「幾星霜を煌めく命」から取られていると思われます。
幾星霜とは苦労を経た上での長い年月という意味を指す言葉で、その言葉通り物語の舞台が大正時代から現代に移ります。
この曲の段階はまだ戦いの最中のため、遠い未来に生きる人たちの命に思いを馳せているのでしょう。
幸せを願う祈りはまばゆい夕日の光のように先を照らし、未来を形作っていきます。
その結果という「解」を知らない彼らは、がむしゃらに自分の想いを「解」と信じてぶつけ合います。
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枯らしていく 枯らしていく
夢幻の夜に花を裂く
繋いでいく繋いでいく
嵐に種を撒いていく
≪夢幻 歌詞より抜粋≫
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植物の種は風に乗って移動し、別の場所で根付くものです。
その植物の中には花が落とされ枯れていくものもありますが、意外な場所で力強く咲くこともあるでしょう。
その様子に鬼滅隊の想いを重ね、「嵐に種を撒いていく」ように死んでいった仲間たちの意志が拡散されて受け継がれていくことを表現しています。
何があっても鬼に食らいついていく鬼滅隊の信念の土台にある仲間との絆と想いが感じられる歌詞ですね。
物語の想いを乗せた名コラボ曲!
MY FIRST STORY × HYDEの『夢幻』の歌詞は「鬼滅の刃」柱稽古編のストーリーに沿い、登場人物たちのぶつかり合う心情を見事に表現していました。終幕へと向かう物語の核となる想いが疾走感のあるメロディと共に流れ込み、アニメへの期待をますます高めてくれるでしょう。
HiroとHYDEの美しい歌声によるかけ合いにも注目しながら、楽曲の世界観を堪能してくださいね。