「さくら」が思い起こさせるあの日の記憶
多くのアーティストがテーマとして用いる「桜」。この植物を描写した曲はバラード調で構成されることが多いのですが、ケツメイシの楽曲ではラップも交えた軽快なアップテンポ調の曲となっています。
この曲では、散り始めている桜を描いており、その描写の中で起きた二人の男女の出会い、過ごした日々、そして別れの記憶を大人の男性目線で丁寧に綴っているのが印象的です。
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さくら舞い散る中に忘れた記憶と君の声が戻ってくる
吹き止まない春の風 あの頃のままで
君が風に舞う髪かき分けた時の淡い香り戻ってくる
二人約束した あの頃のままで
≪さくら 歌詞より抜粋≫
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歌い出しで桜に関する風景描写がありますが、ここから読み取れるのは、既に満開になった桜が散り始める頃合いということです。
「吹き止まない春の風」という言葉もあるので、かなり沢山の花びらが舞っているのではないでしょうか。
この短い言葉だけで圧巻の情景が目に浮かびますね。
『さくら』のサビは、一言一句同じ言葉を繰り返しています。
過去の恋人を思い出す様を描いていますが、最初のフレーズでは「君の声」といった聴覚から、次のフレーズでは「君が風に舞う髪かき分けた時の」といった視覚から記憶がだんだんと蘇っていきます。
そしてこのサビを曲の冒頭に入れたのは、それだけ「桜」との関係を印象付けたかったのではないかと思われます。
また『さくら』とひらがな表記なのは桜という植物単体だけを指すのではなく、その桜の木の佇まいや花びらの舞う様子などまで含めたかったのではないかと考察してみました。
メロディとラップの使い分けが意図するもの
メインメロディであるサビでは全て同じ歌詞を用いている『さくら』。
一方ラップパートでは、
●「あの頃を思い出す」
●「君が隣にいないことを実感する」
●「自分が未熟だったことを改めて実感する」
という男性目線の恋心を繊細に綴っています。
それは現実にはもう戻ることのない日々だけれど、ラップで歌い上げることで「今も切ない」ではなく「今なら楽しかったと思える」と、過去の思い出を懐かしむ印象を受けました。
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そっと僕の肩に 舞い落ちたひとひらの花びら
手に取り 目をつむれば君が傍にいる
≪さくら 歌詞より抜粋≫
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メロディラインの中で、こちらの歌詞の部分はあまりビートを刻まずにゆったりと進みます。
ノスタルジックだけれど、全体的にアップテンポで軽快に進んできたメロディの中で、一瞬だけ言葉数を減らすことで蘇った思い出をじっくりと噛み締めることができます。
音楽と歌詞が絶妙な構成になっていることに、ケツメイシの素晴らしさが詰まっていますね。
個性的な言い回し「ヒュルリーラ」
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ヒュルリーラ ヒュルリーラ
花びら舞い散る 記憶 舞い戻る
花びら舞い散る
≪さくら 歌詞より抜粋≫
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ケツメイシの『さくら』の歌詞でなんと言っても印象的なのは、この「ヒュルリーラ」ではないでしょうか。
この表現は春の風を表す「ヒュルリ」と花びらが舞う「ヒラヒラ」が合わさったケツメイシならではの造語ではないかと感じました。
さらにこの曲の最後はこの「ヒュルリーラ」をベースに「花びら舞い散る」「記憶舞い戻る」という歌詞が重なります。
桜の花びらが散る風景と、過去の記憶が巡っていく様子が目に浮かびました。
2005年のMVでも歌に合わせて現代の二人と過去の思い出が交差し、最後は現代の情景になります。
思い出から現実に帰ってきたような感覚になりますね。
いつまでも変わらない風景があるから人は変わっていける
桜の季節は出会いも多いですが、「別れ」が多い季節でもあります。それでもそんな季節に咲く桜を嫌いという人が少ない理由は、楽しかった思い出の日々にも変わらず咲いているからではないでしょうか。
人間関係、学校生活、仕事など人生には変化がつきものです。
人や環境はどんどん変わっていくけれど、桜の木は変わらずにいつまでもそこにある。
変わっていかざるを得ない日々を送る中で、いつも変わらぬ姿で見守ってくれる桜を見ると不思議と力が湧いてきますよね。
『さくら』を聴いて、”あの頃の風景”を思い出してみてはいかがでしょうか。