集まるべくして集まったメンバーたち
「結束バンド」とは、テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』の中で出てくる女子高生4人組のバンドです。
メンバーは秀華高校1年生の後藤ひとり(ごとうひとり/ギター)と喜多郁代(きたいくよ/ヴォーカル&ギター)。
そして下北沢高校2年生の伊地知虹夏(いじちにじか/ドラム)と山田リョウ(やまだりょう/ベース)で構成されています。
アニメは2022年に放映され全12話と1クールだけですが、よくまとまっていてとても見やすいです。
またアニメのオープニングテーマ『青春コンプレックス』を筆頭に印象に残る曲が多々あり、それを聞くのも楽しみの一つになる作品です。
ひとりの想いを綴った歌詞
『月並みに輝け』は映画「劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!」の前編OP主題歌です。アニメのみならず作中で演奏された結束バンドの曲も絶大な人気があり、音楽からこの作品を知ったという方も少なくはありません。
そんな結束バンド新曲ということで、映画の公開日が発売だったにもかかわらず、翌日のデイリー売り上げでは見事1位を獲得しました。
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天才だって信じてた バカみたいだ
小さな自信 溢れ落ちて割れた
偶然がなかったなら わたしはまだ
孤独感と手を繋ぎ踊っていたかな
≪月並みに輝け 歌詞より抜粋≫
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この物語は主人公・後藤ひとりの一歩から始まります。
ずっと友達もできず、連絡ツールは家族からのメッセージのみ。
中学1年生のある日、テレビで音楽番組を見た際、4人組の男性バンドが演奏前にインタビューを受けていました。
その中の一人が「自分は友達がいなかった。バンドは陰キャでも輝ける。」と発し、その後素晴らしい演奏を奏でます。
猛烈な感動を受けたひとりは父のギターを借り、毎日部屋の押し入れの中で練習に明け暮れます。
たった一人で奏でていた音楽が段々と人と出会うことで重なり、成長していく物語です。
ひとりは幼少の頃から家族以外の人とコミュニケーションを取るのがかなり難しい子でした。
その一方で妄想力の高い子で、自分の音楽をネット上で公開するためのアカウントを持っていますが、そのアカウント名を「ギターヒーロー」とつけるほど妄想の中では自信に満ち溢れています。
今回、新曲のAメロの歌詞を聞いたときにアニメの1話のひとりの様子を思い浮かべました。
誰かとバンドを組みたい、ヒーローになりたいと思う反面、自分にはハードルが高く勇気が出ない、の繰り返し。
ですがそんなときに虹夏に出会うことでどんどん輪が広がっていきます。
歌詞の「偶然」は虹夏との出会いを指しているのではないでしょうか。
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いいな いいなと 欲しがってたのに
夢は遠くて 現実ばっかで
まだだ まだだ まだ足りないんだ
誰の胸にも届かない
≪月並みに輝け 歌詞より抜粋≫
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ひとりはアニメの中で自分には承認欲求があると言っていましたが、同時にとても努力型・没頭型の人間です。
そのため、褒められると素直に嬉しさが湧き上がりますが、すぐに「もっともっとやらないと!」と音楽と向き合います。
そんなひとりのひたむきな性格がこの箇所には込められています。
周りの人はひとりの音楽を聞くと「天才」と思いますが、ひとり自身はそんな周りの思っていることには気づかずに毎日部屋の押し入れの中で練習をします。
その交わらない様子が、見ていてとても面白い作品です。
決意を込め、未来を描くサビ
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一生存在証明 永遠を超えていけ
ちくしょう!どうやったって時は止まらない
間に合うかな見知らぬ世界の果て
いつかどうか
秒速340mを超えていけ
誰も聞いたことない旋律は鳴り止まない
変われなくても 代わりはいないから
鏡を閉じて
革命寸前の未来を睨んだ
≪月並みに輝け 歌詞より抜粋≫
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『月並みに輝け』はとても力強い曲となっています。
メロディもさながら歌詞がとても前向きなのです。
ギターヒーロー名義の動画ではプレイ回数がだんだんと多くなり、ひとりはそれに意気揚々となりますが、何気ないコメントを見て、充実していない自分の生活を省み、落ち込むことを繰り返します。
それでも未来を描いているのがこの曲です。
「秒速340m」は音の伝わる速さなのだそうです。
厳密に述べると天気によって少し変化はしますが、一般的にはこの数字だと言われています。
それを「越えていけ」と表現しているのは、一般的ではない、前例のないことをやっていこう!という決意のように思えます。
出会ったからこそ知ったこと
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天才だって信じてた 気付かされた
違う音、呼吸重ね合わせ負けた
必然だって信じたい わたしはもう
戻れないよ 無知で無敵だったヒーロー
どうする?どうしょう? 問いかけてみる
わたしの中のわたしが叫ぶ
「君は君だ誰かと同じ
未来なんて欲しくないでしょ」
≪月並みに輝け 歌詞より抜粋≫
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2番の歌詞は1番とは打って変わって、他人と関わり始めバンド活動をしていく中で、他人と自分を比較してしまうひとりの心境の変化を綴っているように思えます。
周りの人は敵でもなんでもない。
1番のライバルは自分であって、周りは味方、というシーンがアニメでありました。
この歌ではアニメ12話のひとりの成長をぎゅっと凝縮しているように思えます。
そしてこの2番の箇所は他のメンバーにも通ずる部分ともいえます。
最初はひとりのことを歌っていたように思えたのに、最終的には4人個々の想いを交えた歌なのではないでしょうか。
そして、この曲に歌という部分で命を吹き込んだのが喜多郁代の声優・長谷川育美です。
喜多郁代が作中でヴォーカルも務めるため、その声をあてていた長谷川自身も歌で参加しました。
今回の曲は映像でも配信されており、彼女の歌声がとても結束バンドの曲と相性がよく最高の神曲となっています。
結束バンドに彼女はなくてはならない存在です。
「月並み」でも・・・
『月並みに輝け』というタイトルはとても面白い言葉だと思いました。そもそも「月並み」は「ありふれた、平凡な」という意味で「輝け」という言葉と対比するところにあります。
ではなぜこのタイトルにしたのか。全体の歌詞や作品のストーリーを踏まえてこの言葉の意味を考察してみましたが、「月並みに(だとしても)輝け」と省略された言葉があるのではないかと感じました。
誰しも月並みでも輝ける。
むしろ自分が月並みだったとしても自分から輝いていけ。
そんな力強い想いがこの曲には込められているように思います。
自分の存在証明を自分自身でおこなっていく。
そんな前向きな彼女たちの今後の展開が楽しみですね。