ボカロP・とあの代表曲に込められた意味を徹底解釈
心に沁みるボカロ曲を生み出してきたボカロP・とあの代表曲といえば、2014年公開の初音ミク7周年記念企画で配信された作品の1つである初音ミクオリジナル曲『ツギハギスタッカート』でしょう。ストリングスとピアノを軸にした美しいメロディーラインと大切な人への不器用な想いが綴られた歌詞が注目され、本作で自身初のニコニコ動画の殿堂入りとミリオンを達成し、YouTubeテンミリオン達成曲ともなりました。
MVで描かれている初音ミクの後ろ姿のイラストも、楽曲の雰囲気と相まってどことなく切ない印象を与えます。
どのような内容なのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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ツギハギだらけの君との時間も
そろそろ終わりにしよう
この糸 ちぎるの
色とりどり散らばるでしょ
ねぇ ほら あの時の言葉
重ねた 無駄な時間
この糸 ちぎるだけ
不揃いだね 笑えるでしょ
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭の「君との時間もそろそろ終わりにしよう」という言葉から、主人公が大切な人に別れを切り出そうとしている状況だと解釈できます。
また、この別れは主人公が一方的に相手を捨てようとしているわけではないようです。
「ツギハギだらけの君との時間」というフレーズは、2人の時間が寄せ集めてツギハギしなければ振り返れないような短くて間隔の空いたものだったことを想像させます。
たとえば1ヶ月に数回しか会えない関係なら、その人と交際していることに疑問を抱いたり疲れたりしても不思議ではありません。
主人公は2人の繋がりを「糸」になぞらえ、関係を断とうとしていることが窺えます。
しかも「ちぎる」とあるため、荒れた感情のまま引き裂くようなイメージが伝わってきます。
「色とりどり散らばるでしょ」のフレーズは解釈が難しいですが、続く部分に「重ねた無駄な時間」ともあり、この関係が終わればお互いに出会いや人生の新しい可能性が広がることを意味していると考察できそうです。
さらに「散らばる」という表現を用いていることからすると、この糸はただ真っ直ぐ伸びているものではなくビーズを通したネックレスのようなものなのかもしれません。
そう解釈すると、いつかプレゼントされたネックレスをちぎることで未練を断ち切ろうとしているとも考えられるでしょう。
「不揃いだね 笑えるでしょ」との呟きが、また好きなのに強がってこの不毛な関係を終わらせようとしている主人公の切ない心情を伝えてきます。
いっそ居なくなれ
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ticktack ticktack 円を描いて
dingdong dingdong あそびましょ
ticktack ticktack 結んで開いて
dingdong dingdong じゃあまたね
解れた糸が囁く
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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「tick tack tick tack」は時計の針の音、「ding dong」は鐘の音を表します。
これは振り子時計を描写していて、別れへの決意から実行までに時間がかかっていることを示していると考察しました。
ちぎろうとして「解れた糸」に、あっさりと別れを受け入れる恋人の「じゃあまたね」の声が聞こえるような気がして、最後の一歩が踏み出せない様子を表現しているのではないでしょうか。
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君よ いっそいっそ いなくなれ
変わらない このままなら
たぶん きっときっと なんてことない
少し軽くなるだけ
ねぇ いっかいっか 捨てちゃえば
気づかない そのままなら
だけど ずっとずっと 好きかもな
少しだけ 痛いかな...
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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自分では踏ん切りがつかないから、相手に「いっそ居なくなれ」と願います。
このまま惰性で関係を続けても、何も変わらないことは分かり切っています。
別れても心が「少し軽くなるだけ」で「なんてことはない」から、自分の元からいなくなってほしいと思っているようです。
それでも「たぶん きっときっと」とあるため、本当は「なんてことはない」とは思えないのに必死でそう自分に言い聞かせようとしている様子が垣間見えます。
「ねえ いっかいっか 捨てちゃえば」というフレーズも一見軽く言っているように思えますが、そういう言葉を選ぶことで別れで崩れ落ちそうになる気持ちを何とか堪えているように感じます。
その本音が「だけど ずっとずっと 好きかもな 少しだけ 痛いかな...」の歌詞から伝わってきますね。
好きだったのは自分だけ?
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気づけば気にしてる画面も
そろそろ見飽きた
アレ抜き コレ抜き それじゃ
つまんないんでしょ 退屈でしょ
flick tap flick tap 面を滑って
swipe tap swipe tap 「A.R→T」
flicktap flicktap 開いて叩いて
swipe swipe swipe swipe もう嫌だな
ズルズル 糸が呟く
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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この部分では、2人の関係が如実に表れています。
「気づけば気にしてる画面もそろそろ見飽きた」というフレーズから、恋人からの連絡を待ち続ける日々にうんざりしていることが読み取れます。
後半の「A.R→T」は「Already Read → Through」を略したもので、「既読無視」を意味しています。
つまり、メッセージを送ってもいつも既読無視されて蔑ろにされているのでしょう。
だからその時間に虚しさを感じ、「…もう嫌だな」と別れを決意したことが理解できます。
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...だから...
いっそいっそ いなくなれ
変わらない このままだし
たぶん きっときっと なんてことない
少し寂しくなるけど
ねえ いいの?いいの?捨てちゃうよ?
気づかない?
まだ気づかないなら...
...そっかそっか好きなのは...
最初から 僕だけ
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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別れたら「少し寂しくなる」ものの、きっと今とそんなに変わらないと考えているようです。
それでもやはり嫌いにはなれず「ねえ いいの? いいの? 捨てちゃうよ?」、この気持ちに「気づかない?」と問いかけています。
こんなにしても気づかないのであれば、最初から好きなのは自分だけだったということ。
好き同士の関係だと信じていた主人公にとって、打ちのめされるような事実が見えてきます。
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ツギハギだらけの君との時間を
そろそろ終わりにしよう
この糸 ちぎるだけ
簡単でしょ?
笑えるよね?
≪ツギハギスタッカート 歌詞より抜粋≫
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楽曲の最後では冒頭の歌詞と似たフレーズが再び歌われます。
しかし「簡単でしょ?笑えるよね?」という問いかけは、こんなにも好きだったのにあっさりと関係を終わらせられてしまうことへの悲しみと、きっと君には笑いごとなんだろうと思える悔しさが表れているように感じますね。
ちなみに、タイトルにある「スタッカート」は音楽用語で一音一音を切り離して短く演奏することを指し、元々はイタリア語で「分離した、ばらばらになった」という意味がある言葉です。
2人の短い時間を繋ぎ合わせて何とか想いを継続してきた姿と、終わらせようとしながらもまだ修復への希望が捨てきれない姿の両面が見えてきて、心が苦しくなります。
失恋で傷ついた心に寄り添う名曲!
とあ feat.初音ミクの『ツギハギスタッカート』は、1つの恋の終わりを通して想いを通じ合わせる難しさや失恋に伴う悲しみが色濃く描かれた失恋ソングでした。楽曲の合間には息継ぎや咳払いが聞こえる箇所もあり、あえて人間っぽく歌唱させている点が感情の動きを際立たせて多くのリスナーの心を揺さぶるのでしょう。
今別れに直面している方もかつて失恋を経験した方も、きっとこの楽曲がつらい気持ちを昇華させてくれるはずです。