2013年放送の日テレ系ドラマ「泣くな、はらちゃん」主題歌『リリック』。この曲は、その「はらちゃん」として主演を務めたTOKIO・長瀬智也自身が作詞作曲を手掛けている。『LOVE, HOLIDAY.』『東京ドライブ』など、彼自身が手掛けた曲は多い。擬音語の多い歌詞に痛快なギターを響かせ、キャッチーな曲を作り出すのは彼の得意とするところである。
公開日:2016年4月27日
2013年放送の日テレ系ドラマ「泣くな、はらちゃん」主題歌『リリック』。この曲は、その「はらちゃん」として主演を務めたTOKIO・長瀬智也自身が作詞作曲を手掛けている。
『LOVE, HOLIDAY.』『東京ドライブ』など、彼自身が手掛けた曲は多い。擬音語の多い歌詞に痛快なギターを響かせ、キャッチーな曲を作り出すのは彼の得意とするところである。しかし、この『リリック』はそれらとは違ったパターンの曲だ。その詞は、純粋かつ、けして難しくはない言葉で出来ている。『リリック』に描かれる「はらちゃん」の世界は、ドラマ本編さながらのファンタジーらしさを含みつつ、単純なテーマと言葉で想像をかきたてる楽曲だ。
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このドラマはファンタジー要素の強いラブコメディだ。何しろ「漫画に描かれた男性が現実世界に飛び出してきて、描き手である女性に恋をしてしまう」という話である。『リリック』は曲のみでもピュアなラブソングとして胸が熱くなる歌だが、言葉が単純だからこそ想像力を働かせることで、それらが様々な意味を持ち始める。
ドラマ主題歌としては当然大幅にカットされて使用されており、そしてテレビで披露される際も滅多にフルサイズということはない。だが、『リリック』はフルで聴いてこそ真に「はらちゃんの物語」なのだ。
このドラマでは、挿入歌として、一話から『私の世界』という歌が登場する。「私」とはヒロインである越前さんのこと。『私の世界』では、彼女が他人と関わり傷つくことを恐れ、閉じた世界で生きていくことを望んでいる、そんな気持ちが描かれている。
“世界の誰の邪魔もしません 静かにしてます”
“世界の中の小さな場所だけ あればいい”
“おかしいですか? 人はそれぞれ 違うでしょ?”
現代において、この曲に共感する人も多いのではないだろうか。短くシンプルな歌だが、痛切に彼女の「世界への諦め」が伝わってくる曲である。
対し『リリック』はこう歌っている。
“僕らの間に何かがあるのなら それを乗り越えてみせるから”
“今 君に会いに行くから”
他人と関わらず生きたいと望む越前さんのもとへ、強烈な『非日常』として次元の壁をも越えて現れるはらちゃんの歌そのものと言える。物語が展開する前と後では、この部分の受け取り方も変わるだろう。それはぜひ、ドラマを見てからまたこの歌詞を見つめ直して聴いてほしい。
“瞬きの間に君が居たんだ 僕はどうかしているのか…”
“孤独なんて考えたこともない 君に会うまでは”
“想いを伝えなくちゃ 何も見えなくなる その前に”
漫画世界の住民は物語上、越前さんが漫画に描くこと以外の全てに関して無知である。現実世界に飛び出したことによって彼は、世界の広さや、美しさ、哀しさをも知ってゆく。そしてこのように、ドラマでは流れることがない詞の中で、はらちゃんがまだ何と呼ぶかも知らなかった感情の展開が繊細な『リリック』で表現されている。
ドラマ版では使用されなかった一番サビの最後は “夢の中で僕ら確かに手を繋いでいたんだ”。これだけ「愛」をテーマにした言葉を綴っていながら、「愛」のフレーズはドラマで流れていたサビでようやく登場する。
“明日も君に会えると願う 人はそれを愛と呼ぶのかな…”
この表現、少し不思議ではないだろうか。『会いたいと願う』ではないのだ。
つまり『会える』は前提ということ。『願う』とは『望み、求める』ということでもある。会えると知っていても願ってしまうほどに、『会いたい』のである。
恋も愛も、孤独も死も、はらちゃんにとっては現実世界で出会う全てのものが新鮮で、心を揺さぶるものであった。楽曲の最後にしかその言葉が使われないのは、その流れを汲むからだろう。当たり前のことさえ願ってしまうのは、それがより強い想いだということなのかもしれない。それをはらちゃんは「愛」なのだと理解するのだった。
この曲は、もはや「はらちゃん」が作ったと言っても差し支えないだろう。そしてそこに窺えるのは、長瀬智也のアーティストとして、俳優としての幅の広さでもある。
彼が「はらちゃん」でなければ、こんな『リリック』は生まれなかった。だってはらちゃんはいつも物語の中で、ギターを弾きながら愛を歌っているのだから。
TEXT:祈焔( https://twitter.com/kien_inori )