歪んだ正義を振りかざす王には罰を
ドラマー・作曲家・シンガーソングライターでもあるマイキといえば、“マイキP”名義で行われているボカロPとしての活動でも注目されるマルチな才能を持つアーティスト。そんなマイキPが2023年8月23日にリリースしたボカロ曲が『キングスレイヤー』です。
ノリの良いロックな音楽と初音ミクのクリアな歌声が交わり、心地よくてかっこいいボカロ曲としてファンを魅了しています。
MVのイラストと動画はくろうめが担当しており、タイトルの「キングスレイヤー」らしく王冠を突き刺して笑う女性の姿が印象的なMVとなっています。
主人公はなぜ王を刈り取る者となったのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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SLAY.
お前の態度は何様?
歪み切った思想で語る正義
お前の態度は何様?
腐り切った理想で笑う支配者
お前の態度は何様?
甘え切った思考で曲がる正義
お前の程度で王様?
汚れ切った思想で楽しそうね
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭では「お前の態度は何様?」と問いかけています。
さらに「お前の程度で王様?」ともあるため、主人公が王の人格や物事の扱い方を見て不満を持っていることが垣間見えるでしょう。
自分本位の「歪み切った思想で語る正義」や「腐り切った思想」に何の意味があるのかと考えているようです。
さらに「甘え切った思考」により本来あるべき形の正義は曲げられ、その中で「汚れ切った思想で楽しそう」にしている王に嫌気が差していると思われます。
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古だぬきさっさと
そこどきなさい
馬鹿馬鹿しい
あんたの何が正しい?
見らぬ猿?聞かぬ猿?
言わぬ猿?敵わざる。
正義さえも暴力だって
もうかったるいな本当
わかってないんだって
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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主人公は王を「古だぬき」と呼び、振りかざす歪んだ正義の「何が正しい?」と問います。
正義だと思って行ったことが暴力であることにも気づかないまま、自分の正義を押し通そうとしていることを強い言葉で糾弾していますね。
マイキPのボカロ処女作『アンチジョーカー』では、SNSに囚われた現代人のことが歌われていました。
この点をふまえると、『キングスレイヤー』ではSNSを含め自分の思う正義を振りかざす現代の過激な風潮のことを指していると考察できます。
そして、これは王を糾弾する主人公自身のことも揶揄していると解釈できるでしょう。
冒頭の「SLAY.」には「殺害する」という意味以外にも、スラングとして「完璧」や「成功を収める」などの意味があります。
そのため、主人公が王を討ち取った自身の仕事ぶりを自画自賛しているようにも、そのさまを称えて皮肉っているようにも聞こえます。
つまり、これは正義の在り方や示し方について問題提起する曲なのではないでしょうか。
恥晒しな王が君臨する世界にチェックメイト
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どーせ バッドエンド バッドエンド
はいはい偉いね チェックメイト
しょーもない どうしょーもないね
小さい世界の奴隷ですね
デッドエンド デッドエンド
バイバイ、 レジェンド(笑)
チェックメイト
黙れ黙れ黙れ黙れ
お前は何もわかっちゃいない
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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主人公は、王様が支配する結末を「バッドエンド」や「デッドエンド」と称しています。
また、頂点に立ったつもりでいても所詮「小さい世界の奴隷」に過ぎないとも表現していますね。
さらに、ここでは「チェックメイト」とチェスに例えたフレーズが登場します。
MVで主人公が手にしているのもチェスの駒であることから、これは重要なモチーフだと考えられるでしょう。
手にしている駒はポーンのように見えますが、上部に飾りがあるためキングと見ても違和感がないように思えます。
歩兵であるポーンは、人に操られる者や手先を意味する存在です。
そこでこの駒がポーンであるとすれば、主人公自身も他者から見れば正義を振りかざし他者を操る王だということを示しているのかもしれません。
一方、駒がキングだとすれば王を操る影の黒幕のような立ち位置にいることを描写しているとも考えられそうです。
どちらにしても、たとえこの主人公が頂点に立っても世界は変わらないでしょう。
しかし、その事実を突きつける人には「黙れ黙れ黙れ黙れ お前は何もわかっちゃいない」と喚いているようです。
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はいチーズでさあ笑って
嘘のファンサービスで媚び売って
1、2、3ほら踊って
ウケる ドヤった顔して恥晒し
I came to crush the guy who's strutting around,
SLAY.
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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主人公は王が「嘘のファンサービスで媚び売って」いるのを馬鹿にしています。
「1、2、3 ほら踊って ウケる ドヤった顔して恥晒し」とあることからすると、もしかしたらダンスを投稿する一部の動画配信者のことを含めているのかもしれません。
続く部分の英語詞は「闊歩する奴を潰しに来た」と訳せるでしょう。
配信者に関連しているとするなら、主人公は配信者のトップを妬み引きずり下ろしたいと願っている人物とも考えられそうです。
姑息な手段で邪魔する奴は大嫌いだ
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1、2、3
またwhat do you sing
笑わせんな
ほら スゲ~(笑)ヤべ~(笑)
曲も書いちゃいないから分かっちゃいない
デマカセのハイトーン
スゲ~(笑)ヤべ~(笑)
(LATATATA)
裸の王子剥がされるメッキ
(LATATATA)
掌返し暴かれるFake music
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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この部分では「またwhat do you sing(何を歌ってるの)」とあるため、歌ってみた動画を投稿している配信者に言及していると思われます。
「曲も書いちゃいないから分かっちゃいない」というフレーズから、曲作りについて何も知らないのに流行りの乗って歌っている人たちを指していると解釈できるでしょう。
「デマカセのハイトーン」の表現は、実際は出ていないのに加工で出ているように見せかけた動画があることを示しているように思えます。
マイキPは自身でも歌唱しているため、良い評価を受けたいがために自分を偽る人たちに問題提起したかったのかもしれません。
しかし姑息な手段で良い評価を得ようとしても、周囲からは「スゲ~(笑) ヤべ~(笑)」と皮肉に笑われることになるでしょう。
どんなに気取ってもそのうち「裸の王子」のメッキは剥がされ、関係者に掌を返されて事実が明るみになります。
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黎明 テイクオーバー
ずっと 大嫌いだ大嫌いだ
奪って追いてったくせに
黙れ黙れ黙れ黙れ
お前はどうなんだい
≪キングスレイヤー 歌詞より抜粋≫
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「黎明」は明け方や夜明けのことで、新しいことが始まることを指す言葉です。
また「テイクオーバー」は、義務や責任などを引き受ける意味で使われます。
これらの言葉を組み合わせると、主人公が配信者の上位に君臨する人たちに対し、もう世代交代の時期だと言っていると解釈できます。
「ずっと大嫌いだ大嫌いだ」という直接的なフレーズは、主人公の本心でしょう。
「奪って追いてったくせに」と続いているため、過去に上位を争った経験があり、今やいくら追いかけても手が届かなくなってしまったことにいら立っていると推察できるでしょう。
また相手はそのことを気にも留めておらず、何事もないように接してきたことを怒っているとも考えられます。
しかしそれは理不尽ないら立ちでしかありません。
この部分の最後にある「お前はどうなんだい」の一言で、自分の考えを絶対的な正義として押し通そうとすることの危険性を問いかけられているように感じます。
マイキによるセルフカバーも必見!
マイキPの『キングスレイヤー』は、歪んでいく正義を現代らしい表現で描写した楽曲でした。マイキ自身によるセルフカバー動画も公開されており、ボカロとは一味違った魅力を感じることができるでしょう。
ぜひどちらの動画も楽しみながら、楽曲に込められたメッセージを感じ取ってみてください。