ポップで恐ろしいボカロ曲「ビノミ」を徹底解釈
2024年3月23日にリリースされたMARETU feat.初音ミクのボカロ曲『ビノミ』。YouTubeに投稿されているMVの動画再生回数は、投稿から約4ヶ月で1000万回再生を突破しています。
これまで重厚感があるダークな楽曲でファンを魅了してきたMARETUですが、今作はポップさを感じるメロディなのが印象的です。
それでも、讃美歌のごとく高らかに歌う男性のような声や歌詞の強烈なフレーズに圧倒された方も多いのではないでしょうか。
どのようなシチュエーションを描いた作品なのか、MVもふまえながら歌詞の意味を考察していきましょう。
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血管蕎麦大盛り爪散らし
肉体嗜み一世一代
鼓膜 筋膜 横隔の膜
五臓に六腑が染み渡る
血管蕎麦大盛り爪散らし
肉林喰み喰み一世一代
皮膜 脳膜 一等の膜
五臓に六腑が染み渡る
≪ビノミ 歌詞より抜粋≫
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楽曲はドアベルの音と「イラッシャイマセ」という声から始まるため、何かの店へ来店する様子を捉えていることは明らかです。
この点でMVにはナイフとフォークが描かれていることと歌詞に食事のメニューらしきフレーズが出てくることを考えれば、ここはレストランだと考察できますね。
ここで出てくるメニュー名は「血管蕎麦大盛り爪散らし」。
「肉体嗜み一世一代」「肉林喰み喰み一世一代」とあるように、ほとんどの人間は様々な動物の肉体を頂いて一生涯を生きていきます。
とはいえ「鼓膜」や「被膜」といったフレーズも登場することから、普通のレストランとは思えません。
また「一等の膜」とは、おそらく処女膜のことです。
他の動物でも有している固有種はいますが、一般的に知られているのは人間である点をふまえると、若い女性を食べるカニバリズムを題材にしていると解釈できるでしょう。
さらに、「五臓に六腑が染み渡る」というフレーズも特徴的です。
五臓は心臓・肝臓・肺臓・脾臓・腎臓を、六腑は大腸・小腸・胆・胃・三焦・膀胱を表します。
そもそも「五臓六腑に染み渡る」という言葉は漢方に由来する言葉で、飲んだものが内臓全体に広がっているさまを示します。
体全体に染み込むように美味しく感じられたり、それが渇望しているものであったりした場合に多く用いられるため、この歌詞も「五臓六腑に染み渡る」としても何ら問題はないでしょう。
しかし、あえて「五臓に六腑が染み渡る」となっているところを見ると、食べた「六腑」が生命活動に重要な「五臓」に染み渡っていく様子が連想できます。
しかも客がそれを渇望し、好んで食べているというグロさも衝撃的です。
他では味わえない料理へ未曾有の賛辞を
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骨端線固ゆで味噌炒め
発狂せんばかりに喉を掻く
鼻骨 頸骨 肩甲の骨
未曾有の賛辞がゆきわたる
骨端線固ゆで味噌炒め
昏倒せんばかりに胃を撫でる
耳骨 頬骨 蝶形の骨
未曾有の耽美が跳び廻る
≪ビノミ 歌詞より抜粋≫
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この部分では次の料理「骨端線固ゆで味噌炒め」が登場します。
「骨端線」とは、成長期にみられる骨が成長するために必要な成長軟骨のことです。
思春期が終わる頃には活性化が止まるため、やはり思春期までの少女が食べられていると解釈してよいでしょう。
そして「鼻骨」や「耳骨」など、様々な骨が食されていきます。
客は「発狂せんばかりに喉を掻く」「昏倒せんばかりに胃を撫でる」とあり、普通なら気が狂ってしまいそうな料理を楽しみ、喉から胃へと通過していく様子が見られます。
そして「未曾有の賛辞がゆきわたる」「未曾有の耽美が跳び廻る」と歌われるように、他では決して味わえない料理に魅了されていることが垣間見えるでしょう。
ちなみに、MVにあるようにナイフとフォークをクロスさせるのはイギリス式で食事休みのサインとして使われ、「私はあなたをナイフで傷つけることはしません」という意思表示の意味があるとされています。
しかし通常フォークが上になるように置かれるのが一般的ですが、イラストではナイフが上になっているようです。
これではむしろ傷つける意図を持っているようにさえ感じられます。
また、このナイフは食事に使われるナイフというよりもサバイバルナイフのような形状をしています。
単に調理されている料理を食べているわけではない、独特な雰囲気を感じさせますね。
忘れた景色を呼び覚ます美の味
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喰らう喰らう喰らう感動
美の味 美の味
恋の美味
≪ビノミ 歌詞より抜粋≫
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このフレーズから、タイトルの「ビノミ」は「美の味」のことと解釈できます。
「喰らう喰らう喰らう感動」と繰り返されていて、客が夢中で料理を食べてはその美味しさに感動している情景がイメージできるでしょう。
また「恋の美味」のフレーズは恋するほどに美味しいか、または客が食べているのが彼が恋した少女であることを表しているとも考えられます。
短い期間しかない麗しい少女の“美の身”を喰らう狂気が表現されています。
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肉眼串潮焼き涙漬け
愛くるしく口元揉みしだく
硬く 根深く また温かく
失う景色を思い知る
肉眼串潮焼き涙漬け
慌ただしく喉元弛ませる
重く 慈悲深く 丁度良く
忘れた景色を呼び覚ます
≪ビノミ 歌詞より抜粋≫
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ここで登場するメニューは「肉眼串潮焼き涙漬け」。
「涙漬け」の表現から、少女が恐怖のあまりたくさんの涙を流したと考察できます。
最後に眼球を食べていることや「失う景色を思い知る」というフレーズは、少女がこの直前まで生きていたことを表しているのかもしれません。
まだ温かいその料理を、客は「慌ただしく喉元緩ませ」必死に喰らいつきます。
「忘れた景色を呼び覚ます」のフレーズは客自身のことと考えると、過去にも誰かを食した経験があるのかもしれません。
たとえば、MARETUの過去曲『あいしていたのに』では、自分を裏切った恋人を殺害して食べているような描写がありました。
恋人を食べた経験からその味に魅了され、遂に人肉を扱うレストランを見つけた主人公の物語と考えると、このフレーズにも納得がいくように感じます。
その後の映像が暗転した後に注目すると、ナイフとフォークが様々な言葉で構成されているのが分かります。
よく見ると体の各部位の名称や調理の工程に関わるワードが使われていますが、この中に「六腑」は含まれていません。
1番で「五臓に六腑が染み渡る」とあったことから、六腑はすでに食べられた後のためここに含まれていないと考えられます。
このように細部にわたり細かく作り込まれていることにより、狂気的で恐ろしいテーマでありながら不思議と惹きつけられる作品に仕上がっています。
MARETUにしか生み出せない世界を味わおう
MARETUの『ビノミ』は、ストレートなワードが詰まった歌詞からカニバリズムをテーマにした楽曲と考察しました。一度聴くと頭から離れないキャッチーなメロディとリスナーの想像を膨らませる歌詞が、味わい深い世界観を表現しています。
さらに注目すると過去の様々な作品と関連しているとも考えられるため、よりじっくりと読み解いて味わい尽くしてみてくださいね。