サザンのデビュー曲タイトルの由来は?
一時は活動休止で世間を騒がせながらも人気が衰えることはなく、幅広い世代に長年愛され続ける国民的ロックバンド・サザンオールスターズ。彼らの華々しいアーティスト人生は、1978年に発売されたデビューシングルにして名曲『勝手にシンドバッド』から始まりました。
このタイトルは、沢田研二の『勝手にしやがれ』とピンクレディーの『渚のシンドバッド』をミックスしたものとして知られています。
しかし、実はザ・ドリフターズの人気番組『8時だョ!全員集合』で志村けんが行ったコントネタにインスパイアされたものなのだそう。
志村けんが亡くなった後に、桑田佳祐自ら「パクリのパクリ」だったと明かしています。
つまりタイトルには特に意味がないということですが、歌詞を見てみるとこの2曲と通じる部分があることを感じます。
さっそく名曲『勝手にシンドバッド』の歌詞の意味を考察していきましょう。
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砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて
夏の日の思い出は
ちょいと瞳の中に消えたほどに
それにしても涙が
止まらないどうしよう
うぶな女みたいに
ちょっと今夜は熱く胸焦がす
≪勝手にシンドバッド 歌詞より抜粋≫
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冒頭の「砂まじりの茅ヶ崎」のフレーズから心を掴まれますよね。
茅ヶ崎は桑田佳祐の生まれ故郷ですが、リリース当時は茅ヶ崎はおろか湘南エリアさえメジャーな地域ではありませんでした。
それでもあえて茅ヶ崎の地名を出して勝負し、地方から音楽家として進んでいく意志を表していたと考えられます。
デビューアルバム『熱い胸さわぎ』の収録曲には『茅ヶ崎に背を向けて』という楽曲も含まれていたことからも、強い思い入れが伝わってきますね。
また具体的な地名を使うことで、この後出てくる情景がいかに主人公の心に残っているかを示す目的もあったのではないでしょうか。
改めて「砂まじりの茅ヶ崎」のフレーズを見てみると、「砂まじり」は実際に砂が混じった潮風を思わせると同時に、鮮明ではない様子から目の前の現実ではない思い出を回想していると解釈できます。
これは「夏の日の思い出」と続いている点からも明らかでしょう。
「ちょいと瞳の中に消えたほどに」些細な記憶ですが、その思い出の中では周囲の「人も波も消えて」しまうくらい何かに心を奪われていたことが窺えます。
「うぶな女みたいにちょっと今夜は熱く胸焦がす」という言葉を見ると、それが魅力的な女性との出会いのシーンだったと分かるでしょう。
主人公は「涙が止まらないどうしよう」と続けているため、一瞬にして虜になり深く愛したにも関わらず恋人とはなれなかった不器用な恋模様が垣間見えます。
「今何時 そうねだいたいね」のやり取りの意味
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さっきまで俺ひとり
あんた思い出してた時
シャイナ ハートにルージュの色が
ただ浮かぶ
好きにならずにいられない
お目にかかれて
≪勝手にシンドバッド 歌詞より抜粋≫
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一人でぼんやりと恋した女性のことを思い返していた主人公の頭には、彼女のルージュの色が焼きついています。
しかし「シャイナ ハート」とあるため、プレイボーイのように振る舞うことはできず触れるのをためらってしまったのでしょう。
だからこそ「ルージュの色がただ浮かぶ」と、視覚の記憶についてしか歌われていないと考察できます。
彼女の美しさを前にして「好きにならずにいられない」ほど、強く心を惹かれている様子が見えてきます。
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今何時 そうねだいたいね
今何時 ちょっと待っててオー
今何時 まだはやい
不思議なものね あんたを見れば
胸さわぎの腰つき 胸さわぎの腰つき
胸さわぎの腰つき
≪勝手にシンドバッド 歌詞より抜粋≫
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サビの「今何時 そうねだいたいね」のやり取りは、ライブのコール&レスポンスとしておなじみですよね。
このやり取りは、思い切ってナンパした主人公と女性のやり取りを表していると理解できるでしょう。
女性は繰り返し「今何時」と問いますが、主人公はその度にはぐらかして彼女を帰したくない気持ちを表現しています。
男女の駆け引きの様子が、この単純な言葉のやり取りで巧みに描写されていますね。
またサビの最後に出てくる「胸さわぎの腰つき」というフレーズは、正しい日本語ではないとして制作段階で否定的な見方をされていたそうです。
しかし桑田佳祐は語感を重視していたようで、このフレーズはそのまま残されました。
「砂まじりの茅ヶ崎」と同じく10音で、どちらも接続詞に「の」が使われた近しい音感となっているのが特徴です。
注目したいのは、これが誰の行動なのかという点です。
その「腰つき」が主人公のものか女性のものかによって、歌詞の見え方は変わってきます。
これがシャイな主人公の回想である点と「ルージュの色」を思い返していた点をふまえると、歌詞全体で主人公の見た情景が表現されていると考察できます。
したがって、「胸さわぎの腰つき」をしているのも女性側と解釈できそうです。
おそらく彼女は時間を気にして話を切り上げようとしている一方で、その佇まいが色っぽく自分を誘っているように見えるため、主人公は胸を高鳴らせたのでしょう。
本来、胸騒ぎという言葉は心配ごとや凶事の予感などにより不安が高まっているときの心持ちを指して使われますが、ここでは恋の予感へのドキドキ感を表していると思われます。
いわゆる“桑田語”と称されるポップス史上に残る名フレーズであると共に、日本語ロックを確立した代表的なフレーズです。
夏の夜にあの胸騒ぎの腰つきを思い出す
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いつになれば湘南 恋人に逢えるの
おたがいに身を寄せて
行っちまうような瞳からませて
江の島が見えてきた 俺の家も近い
ゆきずりの女なんて
夢を見るように忘れてしまう
≪勝手にシンドバッド 歌詞より抜粋≫
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2番では「湘南」が登場し、さらに情景をリアルに表現しています。
「いつになれば湘南 恋人に逢えるの」という歌詞は、主人公が良い出会いを探しているのになかなかうまくいっていないことを示していると考えられます。
親密に寄り添い見つめ合える素敵な恋人は、いつになったら見つかるのでしょうか。
続く「江の島が見えてきた 俺の家も近い」のフレーズで、2番が現実のシーンであることが読み取れます。
もしかしたら湘南エリアでナンパをし、江の島方面の自宅に帰る途中なのかもしれません。
いつもなら「ゆきずりの女なんて夢を見るように忘れてしまう」関係です。
しかしいつか出会った女性のことは度々思い返して涙を流しているため、簡単には忘れられないほど心を囚われる本気の恋だったことが伝わってきます。
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心なしか今夜 波の音がしたわ
男心誘う 胸さわぎの腰つき
胸さわぎの腰つき 胸さわぎの腰つき
≪勝手にシンドバッド 歌詞より抜粋≫
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自宅に帰り一人で過ごしていると、聞こえないはずの「波の音」を感じます。
それはきっと彼女との出会いの瞬間に聞こえた音なのでしょう。
夏を象徴するような波の音は、主人公にとっては恋の音でもあります。
「男心誘う 胸さわぎの腰つき」を思い出すとあの時の気持ちがありありと蘇り、何とも言えない複雑な感情にさせられます。
もう二度と会えないであろう女性に胸を焦がす夏の夜の切ない雰囲気が心に残りますね。
サザンの歌詞の魅力を感じよう
サザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』は、夏の小さな恋に心惹かれる男性の想いが綴られた楽曲でした。『勝手にしやがれ』で歌われているようなあと一歩が踏み出せない情けない男心と、『渚のシンドバッド』で描かれているようなひと夏の恋物語がかけ合わされていて、絶妙なタイトルだったといえるのではないでしょうか。
年月を経ても色褪せない魅力を持つサザンのアーティスト人生の始まりを、サンバの明るい音楽と巧みな歌詞表現と共に感じてくださいね。
1978年6月25日にシングル『勝手にシンドバッド』でデビュー。 1979年『いとしのエリー』の大ヒットをきっかけに、日本を代表するロックグループとして名実ともに評価を受ける。 以降数々の記録と記憶に残る作品を世に送り続け、時代とともに新たなアプローチで常に音楽界をリードする国民的ロ···