映画「連合艦隊」主題歌に込めた親の想い
デビューから50年以上、数々の名曲を世に送り出したシンガーソングライターの谷村新司。
1981年にリリースされた4枚目のシングル『群青』は、同年公開の東宝映画『連合艦隊』の主題歌として書き下ろされました。
監督の松林宗恵から作曲の依頼を受けた谷村は、太平洋戦争が背景の重いテーマを扱った内容だったため一度は断ったのだそう。
しかし監督からの熱い要望により、映画のストーリーと見事にマッチした痛ましくも美しい名曲が誕生しました。
静かに始まる壮大なピアノソロと想いのこもった歌声が心に響き、多くのファンに愛されてきました。
歌詞は、特攻隊員として海に散った子を思う親の深い哀惜の念を綴っています。
どのように表現されているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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空を染めてゆく
この雪が静かに
海に積りて
波を凍らせる
空を染めてゆく
この雪が静かに
海を眠らせ
貴方を眠らせる
≪群青 歌詞より抜粋≫
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空を染めるように雲が立ち込め、そこから白い雪が次々と海へ降り続く様子が描写されています。
「波を凍らせる」という表現は、おそらく波が凍って動きを止めたかのように見えることを指しているのでしょう。
子を失った親が絶望により、周囲の動きを感じられないほど心を凍らせているさまを表現しているように思えます。
そして、そこにいる我が子が静かに眠れるように祈っていることも見て取れます。
「冬薔薇」で表現された主人公の気持ちとは
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手折れば散る 薄紫の
野辺に咲きたる 一輪の
花に似て儚きは
人の命か
せめて海に散れ
想いが届かば
せめて海に咲け
心の冬薔薇
≪群青 歌詞より抜粋≫
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野に美しく咲く花は、手折れば簡単に散ってしまう儚いものです。
主人公は亡くなった息子に手向けるために薄紫の花を一輪、手に取ったのかもしれません。
しかし手折った瞬間、花びらが散ってしまったのでしょう。
それを見て、その儚さは「人の命」と似ていると感じたようです。
どうせ散るなら風に吹かれるだけの地面ではなく、あの子が沈んだ海で散りわたしの想いを届けてほしいという気持ちが伝わってきます。
「冬薔薇」とは、温室で育てられた立派な花ではなく、冬枯れの中にぽつりと咲いた花のことです。
花言葉は「輝かしく」で、冷たい冬の風や雪の中で寂しくも凛と咲く薔薇の姿とぴったり合っていますよね。
歌詞には「心の冬薔薇」とあるため、大きな喪失感と悲しみの中でも最期まで誇り高く生きた息子の素晴らしさを冬薔薇と重ねたと解釈できそうです。
冬薔薇は俳句の冬の季語ともなっていて、風情のある佇まいが魅力の冬薔薇を用いた邦楽ならではの美しい日本語表現に魅せられます。
もうすぐ息子の元へ
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老いた足どりで
想いを巡らせ
海に向いて
一人立たずめば
我より先に逝く
不幸は許せど
残りて哀しみを
抱く身のつらさよ
≪群青 歌詞より抜粋≫
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主人公は自分の遅い足取りに老いを感じているようです。
海を見るといつでも、自分より先に亡くなってしまった息子が思い出されます。
息子のいない人生を悲しみを抱きながら生きなくてはならない現状に、身を裂かれるようなつらさを味わい続けていることが読み取れます。
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君を背おい
歩いた日の ぬくもり
背中に 消えかけて
泣けと如く群青の
海に降る雪
砂に腹這いて
海の声を聞く
待っていておくれ
もうすぐ還るよ
≪群青 歌詞より抜粋≫
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息子が幼かった頃は、彼を背負って散歩したこともありました。
そのとき背中に感じた温もりは、今やもう忘れてしまいそうなほど遠い記憶となっています。
「群青の海に降る雪」を見つめていると、「泣け」と語りかけられていると感じます。
砂浜にうつ伏せに寝転んで海の声を聞いていれば、それは息子の声のようにも思えるのでしょう。
主人公は年老い、いよいよ残り時間は短いことを悟っています。
だから海の中で眠る息子に「待っていておくれ もうすぐ還るよ」と告げています。
後世に残したい谷村新司の名曲に浸ろう
谷村新司の『群青』には、戦争で愛する子どもを失った親の無念さや深い悲しみが歌われています。特攻隊員として海に散り遺体さえ戻ってこなかった状況を考えると、海を見て息子を想う主人公の気持ちがさらに強く感じられるのではないでしょうか。
戦争の悲劇を忘れないためにも、いつまでも大切に残していきたい名曲です。