音の怪異が伝える音楽への想い
TVアニメ『ダンダダン』は「少年ジャンプ+」に連載中の龍幸伸による人気漫画が原作で、幽霊を信じる女子高生・モモとUFOを信じるオカルトマニアの同級生・オカルンが怪奇現象と戦うオカルティック青春バトル作品です。そんな注目アニメのOPテーマは、Creepy Nutsが手がける新曲『オトノケ』です。
R-指定は「怪異や霊が人に憑依する時“痛みや悲しみに共鳴して結び着く”」という『ダンダダン』の解釈が、「自分の考える音楽の作り手と聴き手の関係にすごく似ているな」と感じ、作詞に反映したことを明かしています。
このことから自分たちを音楽の怪異と捉えて、タイトルの「オトノケ(音の怪)」という言葉が生まれたと考えられます。
また大ヒット曲『Bling-Bang-Bang-Born』でも使用されたジャージー・クラブのリズムを用い、疾走感あふれるビートと情緒的なフックで仕上げたDJ松永によるトラックも印象的です。
作品の世界観をどのように表現しているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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ダンダダンダンダダンダンダダンダンダダン…
諦めの悪い輩
アンタらなんかじゃ束なっても敵わん
くわばらくわばらくわばら目にも止まらん速さ
くたばらん黙らん下がらん押し通す我儘
そこどきな邪魔だ 俺はもう1人の貴方
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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歌詞冒頭を見てみると、自分を追い抜こうと手を尽くしている人たちを「諦めの悪い輩」と称し、「アンタらなんかじゃ束なっても敵わん」と強気に一蹴しています。
「くわばら」は落雷を避けるための呪文とされ、転じて災難や禍事が自分の身に降りかからないようにするためのおまじないとして広まっています。
これは必死になった「諦めの悪い輩」が起こす問題に巻き込まれたくないという意味かもしれません。
一方で自分は「目にも止まらん速さ」で駆け抜け、何があっても「くたばらん黙らん下がらん」決意をして自分の信念という我儘を押し通すつもりです。
さらに「俺はもう1人の貴方」の歌詞は、アーティストの想いが表現された音楽にリスナーが共感するのはどちらも似通った感情や考えを持っているからだということを表しているのでしょう。
オカルト要素が盛り沢山!
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貞ちゃん伽椰ちゃんわんさか黄泉の国wonderland
御祈祷中に何だが4時44分まわったら
四尺四寸四分様がカミナッチャbang around
呼ぶ声がしたんなら 文字通りお憑かれさまやん…
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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続く歌詞にはオカルト要素がふんだんに盛り込まれています。
「貞ちゃん伽椰ちゃん」は、『リング』の貞子(山村貞子)と『呪怨』の伽椰子(佐伯伽椰子)を指しています。
「4時44分」は「学校の怪談」で登場する不吉なことが起こるとされる時間のことです。
また「四尺四寸四分様」のフレーズは、2chオカルトスレッドで広まった身長が八尺ある八尺様という女性の妖怪を元ネタにしているようです。
四尺四寸四分をセンチで表すと168.2cmとなり、身長が169cmのR-指定のことを表していると解釈できます。
そして「カミナッチャ」は「Coming at you」をカタカナに置き換えたもので、「お前に襲いかかる」という意味になります。
つまりリスナーが新しい音楽を探そうとその世界に迷い込んだとき、R-指定が音楽を介して襲いかかるぞというメッセージが込められているのでしょう。
言い換えれば、自分の音楽でリスナーを魅了するという意気込みとも取れますね。
次の「お憑かれさま」は2chで投稿者がある画像URLをアップし、その画像を見たユーザーを救うために書き込まれた供養方法の最後に記された「おつかれさま」という言葉から取られています。
本来なら単なる労いの言葉ですが、実際には供養方法と見せかけた呪いの方法で“あなたは憑かれてしまった”と伝えていたのではないかと考えられ、ユーザーたちを震撼させました。
自分の音楽を耳にしたその瞬間、憑かれたように抗いようもなく魅了されてしまうだろうという考えが垣間見えます。
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ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ
必死で這い出た先で霧は晴れた
デコとボコが上手く噛み合ったら
痛みが重なったら
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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繰り返される「ハイレタ」は、2chのオカルトスレッドに寄せられた怪異「ヤマノケ」に由来しているようです。
ヤマノケは女性にとり憑く力があり、ヤマノケに憑かれてしまった女性は「はいれた」と繰り返し呟き、ヤマノケのようになってしまうとされています。
ここで「ハイレタ」と歌っているのは、彼自身も音楽に魅了されている1人だからなのかもしれません。
そして人の音楽ではなく自分の音楽を見つけるために必死に努力した結果、霧が晴れたように新しい世界を見渡すことができました。
アーティストが表現したいものとリスナーが欲しているものや見失っているものの「デコとボコが上手く噛み合ったら」、または互いが持つ「痛みが重なったら」両者の心は共鳴します。
他のジャンプ作品も登場?
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ココロカラダアタマ
みなぎってゆく何だか
背中に今羽が生えたならば
暗闇からおさらば
飛び立っていく彼方
ココロカラダアタマ
懐かしい暖かさ
足元に今花が咲いたならば
暗闇からおさらば
飛び立っていく彼方
何度だって生きる
お前や君の中
瞼の裏や耳の中
胸の奥に居着いてるメロディー、リズムに
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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良い音楽と出会ったとき、「ココロカラダアタマ」つまり全身に何かがみなぎってゆくのを感じます。
そして背中に羽が生えたように心が軽くなったら、暗闇のような状況からも抜け出せるでしょう。
またあるときは「懐かしい暖かさ」を感じ、足元に花が咲くように穏やかで温かい気持ちになれることもあります。
そのように音楽は聴く人に力や希望を与えてくれるものです。
一度聴いただけでもその音楽が自分にとって素晴らしいものであれば記憶に深く刻まれ、「胸の奥に居着いて」いつまでもその人を支えてくれます。
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今日も賽の河原ど真ん中
積み上げてくtop of top
鬼とチャンバラ
the lyrical chainsaw massacre
渡る大海原
鼻歌singin' sha-la-la
祓いたいのなら末代までの札束(okay?)
誰が開いたか禁后 後は何があっても知らんがな
何百年待ったか超久しぶりの娑婆だ
ガキや若葉
まだコッチ来んじゃねーよバカが
今確かに目が合ったな
こーゆーことかよ…シャマラン…
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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「賽の河原」は亡くなった子どもが行くとされる三途の川の河原のこと。
子どもは父母の供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとしますが、絶えず鬼に壊されてしまうことから無駄な努力のたとえとしても用いられています。
どんなに努力しても結果が伴わないように思えるときには「今日も賽の河原ど真ん中」と感じてしまうこともあります。
それでも「top of top」を目指して努力を積み上げていく姿勢こそが、生み出す音楽を魅力的にするのでしょう。
続く部分では『ダンダダン』以外のジャンプ作品を思わせるフレーズが登場します。
たとえば「鬼とチャンバラ」は『鬼滅の刃』、「the lyrical chainsaw massacre(叙情的なチェーンソー虐殺)」は『チェンソーマン』、「渡る大海原」は『ONEPIECE』、「祓いたいのなら」は『呪術廻戦』を想起させます。
漫画を開いてその世界に身を投げるように、音楽も聴き始めたらその世界の中で翻弄されるものです。
「シャマラン」はホラー映画の巨匠M・ナイト・シャマランのことで、新たに怪異のような強烈な音楽と出会った衝撃を伝えてきますね。
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ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ
眠り飽きた先で君が待ってた
盾と矛が肩を抱き合ったら
怒りが消え去ったら
≪オトノケ 歌詞より抜粋≫
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夢を追って日の目を見ていない間は眠っているかのよう。
もう「眠り飽きた」と感じた頃に、とうとう自分の音楽を理解してくれるリスナーが現れます。
「盾と矛」では決して決着はつきませんが、それらが「肩を抱き合ったら」きっと世界は平和になり、怒りすら消し去ることができるでしょう。
音楽はまさに、人々の違いを超えて心を繋ぎ合わせる力があります。
全身をそんな素晴らしい音楽に預けて、夢中になって楽しむようリスナーを手招きしているかのようです。
音楽の力を感じさせるユニークな歌詞が秀逸!
Creepy Nutsの『オトノケ』は、音楽が人の心に入り込んで思いに影響を与える様子を怪異に絡めて見事に表現した楽曲です。歌詞の韻のほとんどを作品タイトルの『ダンダダン』で踏んでいる点やオカルト要素をふんだんに盛り込んでいる点、またその他のジャンプ作品を連想させるフレーズを散りばめている点などこだわりが詰まっています。
心を惹きつけられるトラックと考え抜かれた歌詞から、音楽が持つ力を感じてくださいね。
日本三連覇のラッパー「R-指定」と、世界一のDJ「DJ 松永」による、HIP HOPユニット。 2017年Sony Musicよりメジャーデビューし、2020年8月に最新作「かつて天才だった俺たちへ」をリリース。 同年11月には武道館2Daysを開催し、チケットは即完売となった。 また、音楽のみならずCMやバラ···