シグナルPのボカロ代表曲!
数多くのボカロ曲を世に送り出してきたDios/シグナルP。彼の代表曲とも言えるのが2008年に公開された『サンドリヨン』です。
『サンドリヨン』とはフランス語で「シンデレラ」を意味し、この楽曲もシンデレラがモチーフとなっています。
ただし1つだけ童話と違う点があります。
それは「シンデレラが王子の命を狙う暗殺者」であること。
暗殺者として舞踏会に潜り込んだシンデレラと王子の物語が、初音ミクとKAITOがドラマチックに歌い上げます。
ニコニコ動画で390万回以上再生された本作の歌詞をさっそく見ていきましょう。
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朝まで踊る夢だけ見せて
時計の鐘が解く魔法
曖昧な指誘う階段
三段飛ばしに跳ねていく
馬車の中で震えてた
みじめな古着めくり廻れ夜の舞踏
≪サンドリヨン(Cendrillon) 歌詞より抜粋≫
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曲は舞踏会に向かうシーンからスタートします。
童話ならこれから始まる舞踏会に心躍らせる場面ですが、本作のシンデレラは「馬車の中で震えてた」とあるように恐れを感じているようです。
その理由は王子の暗殺でしょう。
なぜそのようなことになったのかは曲中で言及されていませんが、おそらくシンデレラをプリンセスに仕立て上げた人物が黒幕だと考えられます。
例えば童話では心優しい魔法使いが登場しますが、この物語に出てくるのは悪い魔法使いで、シンデレラにこう囁いたのかもしれません。
「王子を殺したらこの環境からお前を開放してやるぞ」と。
童話のシンデレラは意地悪な継母や姉たちに意地悪され、辛い日々を送っていました。
歌詞にある「みじめな古着」が彼女の辛い立場を物語っています。
シンデレラにとって今の環境から開放され自由になることは、たとえ人の命を奪うことになっても叶えたい願いだったのでしょう。
シンデレラは願いと罪の意識の間で葛藤しながらも、王子の暗殺を請け負ったと解釈しました。
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見知らぬ顔探す
囁くあの声が
握り締めた 刃 衝きたて
すべてを奪えと
≪サンドリヨン(Cendrillon) 歌詞より抜粋≫
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城に着いたシンデレラが王子を探すシーンが描かれています。
顔も知らない相手を殺さなければならないシンデレラの心情は、想像以上に暗く重いものでしょう。
ですが「笑み仮面に描いて」とあるように、暗殺がバレないよう偽物の笑みを作り姫を演じます。
歌詞の「熾天使」とはキリスト教における最高位の天使のことで、もしかしたら舞踏会の会場に熾天使の像や絵が飾られているのかもしれません。
光が強ければ影が濃くなるように、天使が見守る華やかな舞踏会とは裏腹にシンデレラの心には暗い影が落ちていることでしょう。
溶けた硝子の靴の意味とは?
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灰の中で赤く溶けて混じる硝子の靴
今更帰る震えているの
あなたが目をやる時計
靴脱ぎ踊るスロープ抜けて
喉まで伸びる指の先で
すくう雫口付けて
走る衝動背骨抜けていく刹那
≪サンドリヨン(Cendrillon) 歌詞より抜粋≫
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シンデレラのシンボルといえば硝子の靴ではないでしょうか。
「灰の中で赤く溶けて混じる硝子の靴」とありますが、この硝子の靴はシンデレラの良心であり、その良心を捨てる決心をしたのだと解釈します。
どのような理由があろうとも人の命を奪うことは大罪であり、シンデレラも罪を背負う覚悟で城にやって来たはずです。
しかしいざ王子を目の前にして覚悟が揺らぐ様子が「今更帰る震えているの」という歌詞からも伝わってきます。
舞踏会でのひとときは苦しい日々を送るシンデレラにとって、まさに夢の時間だったはずです。
それを王子の暗殺で終わらせなければならないシンデレラの心情は、想像を絶するほど辛いものでしょう。
歌詞に出てくる「雫」はシンデレラが葛藤の末に流した涙であり、彼女の迷いや苦しみが痛いほど伝わってきます。
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鐘は鳴らさないで
あなたにひざまずき
まだダメと叫んだ右手が
突き刺すサヨナラ
消せない硝煙を香水にまとう姫
強い瞳僕の凍った仮面ごと撃ち抜く
≪サンドリヨン(Cendrillon) 歌詞より抜粋≫
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暗殺を決行できないまま、タイムリミットの鐘が鳴り響いてしまいます。
「まだダメ」とは暗殺が完了していないこと、そして王子との時間が終わってほしくないことを指していると解釈しました。
王子は自分から去ろうとするシンデレラを追いますが、右手で制されてしまいます。
その際に漂ったのが「硝煙」でしょう。
硝煙とは弾丸を発砲したときの煙のことですが、ここでは「灰」を指していると思われます。
シンデレラの和名は「灰被り姫」で、いつも灰で汚れてすす臭い様子を表しています。
いくら魔法できれいに着飾っても、体に染み付いた灰の匂いまでは消せなかったようです。
きらびやかなドレスに不釣り合いな灰の匂いをまとい涙を流すシンデレラに、王子は心を奪われます。
ここで登場する「僕の凍った仮面」とは、王子の心を意味しているのではないでしょうか?
王子として立派な振る舞いを求められるため自分の感情を押し殺し、いつしか感情そのものが凍りついてしまった王子。
ですがシンデレラの複雑な感情が入り交じる「強い瞳」に、王子の凍った心はついに溶けていきます。
その心とは誰かを欲しいと強く願う、炎のように情熱的な愛だったのかもしれません。
魔法の終わりと愛の始まり
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ドレス膝で裂いて
ティアラは投げ捨てて
見つめあう瞳と瞳が
火花を放つ
孤独な魂が炎あげ惹かれあう
その涙すくえないならまるで一人遊び
≪サンドリヨン(Cendrillon) 歌詞より抜粋≫
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「ドレス膝で裂いて」「ティアラは投げ捨てて」とあるように、シンデレラは自らの手で偽りの姫であることをやめます。
あるいは魔法が解けて元のみすぼらしい格好に戻ったとも考えられます。
ですがシンデレラにとっても王子にとっても、見た目など些細な問題に過ぎないでしょう。
「孤独な魂が炎あげ惹かれあう」とあるように、お互いを魂から惹かれる相手として意識しているためです。
果たしてシンデレラは王子の暗殺を実行したのか、それとも放棄したのか?
2人の結末は曲を聴いた人の想像に委ねられています。
結末はあなたの解釈次第!
『サンドリヨン』は童話のシンデレラをモチーフとしながらも、「暗殺者シンデレラ」の物語がドラマチックなメロディで展開します。あなたが思い浮かべるのはハッピーエンドですか?
それともバッドエンドですか?
物語の結末はあなた次第です。
ぜひ自分だけのおとぎばなしを楽しんでくださいね。