現代人の複雑な感情を鋭く描く冒頭の歌詞
ボーカルのACAねを中心として活動する『ずっと真夜中でいいのに。』(通称・ずとまよ)。『残機』や『秒針を噛む』などのヒット曲を連発し、国内外問わず、若者を中心に絶大な人気を集めています。
そんな『ずとまよ』が2024年8月29日にリリースした楽曲『海馬成長痛』。
歌詞の中では、人々が寝静まった後の「真夜中」を踊り明かす何者かが描かれます。
では、彼らは一体誰なのか?そしてなぜ踊るのか?歌詞の意味を考察します。
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寝溜めしたって 意味ないの知ってる
ぼーっと他人のダンス スクロール人生
機嫌取って礼典 変わり映えない失点
怠惰くるまって 論理集中プレイゲーム
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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スタートから心地よく韻を踏んでいる冒頭の歌詞。
他人がダンスをする様子を、スクロールしながらぼーっと眺めている主人公。
意味や目的もなくTikTokを見ているような様子が想像できます。
では、この主人公はどのような気持ちで、その時間を過ごしているのでしょうか。
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街灯の明かり 照らして my pain
誰かのハッピー 祝ってる 僻んで
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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「my pain」、つまり主人公が抱える痛みや苦しみのようなものが、「街灯」によって照らされている様子から、モヤッとした気持ちを抱えて、SNSをスクロールして眺めているのでしょう。
その心情は、「祝ってる」一方で「僻んで」いるという、一見矛盾を含んだものになっています。
しかしながら、現代において、インターネットを通して表示される他人の様子に、憧れ、羨むような気持ちでいながら、心のどこかで「僻んで」いる複雑な心情は多くの人が理解できるものではないでしょうか。
つまり、主人公は夜中にダラダラとSNSをスクロールし表示された「誰かのハッピー」な様子を、眺めつつ、どこかで僻んでいる人物であることが窺えます。
「焦り」と「だる重」を抱える、真夜中の心境
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焦りが はみ出した
かと言って 日差しが眩しいほど
体は だる重じゃん
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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真夜中に何もせず、誰かの幸せな様子を見て、僻んでいるだけの自分に、どこかで焦りを覚える主人公。
ここで何かを決心し、行動に移すのかと思いきや、「体はだる重」で、そこまでのやる気も出ません。
「深夜テンション」でふと何かを思い立つも、結局何をすればいいのかわからない…という状況は、誰しも一度経験したことがあるのではないでしょうか。
「僕」がした決心とは?
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踊ったとて 何者でもない
でも今更 引き下がれない
"皆が寝静まれば 僕の出番来る"
冴えないリズムで 踊り明かすからね
海馬まで 灰だらけ
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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しかし、歌詞の主人公は、ここから引き下がることをしません。
覚悟を決め、街灯に照らされる夜中こそ「僕の出番」であると言い切る主人公。
たとえそれがカッコのつかない「冴えないリズム」であったとしても、これまでの僻みに満たされた怠惰な自分からは生まれ変わり、この夜を「踊り明かす」決心をします。
歌詞にある、「海馬」とは、人間の脳において、記憶を司っている器官のこと。
この海馬までもが「灰だらけ」になるほど、全てを燃やし、「成長」しようとする「痛み」を感じている主人公からは、過去を振り切って、自分の中での迷いや焦りに区切りをつけ、何か行動を始める覚悟が窺えます。
この後の歌詞には
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誰が僕を わかった気になれんのかね
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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ネット上で息してる 結んで開いて
顔も見えないやつの 助言なんて0点
≪海馬成長痛 歌詞より抜粋≫
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というフレーズが登場するように、誰かと比較し、僻みを感じていた感情からは吹っ切れ、誰かに理解されたり、助言されたりする評価の中から離れ、自分と向き合う強い決心をしたのではないでしょうか。
悩みを超え、覚悟を決めて「踊り明かす」
夜を踊り明かす人々を描いたポップな楽曲にも聴こえる『海馬成長痛』。その歌詞の意味は、他人と比較をしがちな現代にあって、僻んだり、焦ったりする感情に区切りをつけ、自分と向き合い、悩みを乗り越える様子を描いています。
真夜中に、誰かと比較して、自分に悩んでしまったとき、新しいステップを踏み出す覚悟を決めるきっかけとなってくれる。
『海馬成長痛』はそんな楽曲なのではないでしょうか。
ずっと真夜中でいいのに。は作詞・作曲・ボーカルのACAねによる、特定の形をもたない音楽バンド。 YouTubeチャンネル登録数175万人を超え、YouTubeの総再生回数は4.2億回、初投稿楽曲「秒針を噛む」は現在9,500万回再生を突破。 1st mini ALBUM『正しい偽りからの起床』は第11回CDショップ大···