小説「白山通り炎上の件」を楽曲化
YOASOBIといえば、原作小説や漫画を楽曲にすることで有名なユニット。小説を元にしたデビュー曲「夜に駆ける」や人気漫画を題材にした「アイドル」など、原作の世界観を表現した楽曲を発表し、多くのファンの心を掴んできました。
今回紹介する『New me』も小説を題材にした楽曲の1つです。
原作は新人文学賞で大賞を受賞した有手窓(ありて・まど)の「白山通り炎上の件」。
生きづらさを感じている主人公の女性が、マッチングアプリでとある人物と出会ったことで非日常的な事件に巻き込まれていく、というストーリーです。
果たしてYOASOBIはこの小説からどのような楽曲を作り上げたのでしょうか。
さっそく歌詞を見ていきましょう。
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お決まりの今日が
退屈な日々が
変わり始めた
ある日の物語
ここからきっと
これまでのどんな私よりずっと
私になる New me
≪New me 歌詞より抜粋≫
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曲の冒頭はこれまでの自分を振り返る様子から始まります。
「お決まりの今日が退屈な日々が」とあるように、主人公は今まで退屈でつまらない毎日を送っていたようです。
それが「これまでのどんな私よりもずっと私になる」とあるように、自分が変わり未来に希望を持つまでに変化しています。
主人公が変わったきっかけとは、一体なんなのでしょうか。
本当の自分なんて居ない毎日
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どんどん上手になっていく smile
いつも愛想良く
Day by day
擦り減らした
本当の自分なんて居ない
≪New me 歌詞より抜粋≫
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「どんどん上手くなっていくsmile」とありますが、これは自然な笑みではなく愛想笑いを指しています。
人の機嫌を取るため、周囲の雰囲気を悪くしないため、自分の印象を良くするため⋯⋯
愛想笑いをする理由は様々ですが、心から笑っていないため無理しているように感じられます。
「Day by day」とは「日に日に」「日ごとに」といった意味ですが、主人公は笑いたくもないのに笑う毎日に疲れを感じているようです。
「擦り減らした」「本当の自分なんて居ない」という歌詞が主人公の本音なのでしょう。
「心を擦り減らしてでも笑って愛想を振りまく自分は、本当の自分と言えるの?」と、心のどこかで疑問に感じているのかもしれません。
さらに「I’m feeling good」は「いい感じ」、「I’m feeling you」は「その気持ち、分かるよ」という意味になります。
これらの言葉も主人公が本心ではなく、印象を悪くしないために言っているに過ぎないようです。
本当の自分ではない自分を演じる日々に心底うんざりしている主人公は、「たまらないわ」と辛辣に吐き捨てています。
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Hey you 恋人は?
出会いとかはどう?
始まった
Bad day
Bad things
My boss
Oh, oh...
嫌いなの
話しかけないで
≪New me 歌詞より抜粋≫
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さらに主人公の頭を悩ませているのが上司の存在です。
「boss」は「上司」を意味し、その上司が主人公に恋人の有無や出会いはあるのかと訊いているようです。
プライベートなことをずけずけと尋ねられるのは、誰だって嫌なはず。
主人公にとっては「Bat things」、「最悪な出来事」と思えるぐらい憂鬱なことのようです。
心底嫌がっている様子が、「嫌いなの話しかけないで」という歌詞からひしひしと伝わってきます。
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不愉快なお節介で決まった
憂鬱な約束
そんな一日が始まる
≪New me 歌詞より抜粋≫
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主人公の気持ちも知らずに上司は勝手な約束を決めてしまったようです。
歌詞から察するに、おそらく主人公の出会いに関するものなのでしょう。
「いい人がいるから会ってみないか」等と言われ、出会いの場をセッティングしたのではないでしょうか。
主人公にとっては「憂鬱な約束」以外のなにものでもありませんが、社内で孤立しないため、あるいは波風を立てないため、「断る」選択肢はなかったのでしょう。
こうして主人公の気乗りしない約束の日が幕を開けます。
未知との遭遇で世界が変わる?
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待ち合わせは朝の station
いつもよりも着飾る
But not special
浮き足立つ私の
名前を呼ぶその声に
顔上げた
≪New me 歌詞より抜粋≫
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主人公は待ち合わせ場所の駅にやってきます。
いつもより着飾っているのは人と会うための最低限のマナーであり、この日を楽しみにしていたからではありません。
むしろ「But not special」とあるように、主人公が望む特別な日ではない印象が強いです。
「浮き足立つ私の」という歌詞から期待でワクワクしているイメージがあるかもしれませんが、それは間違いです。
「浮き足立つ」とは本来「不安や恐れの気持ちで落ち着かず、そわそわした感じ」を意味します。
浮足とはかかとが地面についていない状態で、今にもその場から逃げ出したい気持ちの表れです。
このことからも主人公にとって今日の予定は、今すぐにでも帰りたいくらい嫌なものだと解釈できます。
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I’ve met the unknown
I don’t know what you mean at all
Oh, I’ve met the unknown
長い前髪の
I’ve met the unknown
I’ve met him
He’s mysterious
まさかの出会いから始まる物語
≪New me 歌詞より抜粋≫
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気乗りしない予定にうんざりしていた主人公でしたが、約束していた相手と出会い衝撃を受けます。
「I’ve met the unknown」を直訳すると「私は未知の存在と出会った」です。
さらに「I don't know what you mean at all」は、「あなたの言っていることが全く分からない」となります。
これらの歌詞から考察するに、主人公はまるで宇宙人にでも遭遇したかのような衝撃を受けたようです。
主人公と出会った人物に関しての描写は少ないですが、例えば歌詞に「長い前髪の」とあるように、予想外のビジュアルをしていたのかもしれません。
また「あなたの言っていることが全く分からない」とあることから、主人公がこれまで信じてきた「常識」の斜め上を行く発言をしたとも考えられます。
「unknown」は「未知」「不明」などを意味しますが、相手は主人公とは異なる未知の存在のようです。
おそらく主人公がこれまで信じてきた常識や当たり前を打ち壊すような、考え・価値観を持った相手なのでしょう。
主人公は「He’s mysterious」、「謎めいた彼」と出会ったことで心境が大きく変わることになります。
新しい発見が私を変えていく
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初めましてを交わしてから
あっという間に今
風切り駆け出した
ありきたりな日々を背に二人
街を抜ける
そう I’ve met the unknown
I don’t know what you mean at all
Oh, I’ve met the unknown
I’ve met the unknown
Don't know what path I'd call my own
≪New me 歌詞より抜粋≫
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「初めましてを交わしてからあっという言う間に今、風切り駆け出した」とありますが、彼との出会いで主人公の考えが瞬く間に変わっていく様子がうかがえます。
2人が出会ってまだほんの僅かな時間しか経っていませんが、それだけ相手の印象が強かったのでしょう。
これまでにない価値観や考えを前に主人公の内面が変化する様子を、「ありきたりな日々を背に二人街を抜ける」という疾走感溢れる歌詞で表現しています。
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そう I’ve met the unknown
I don’t know what you mean at all
Oh, I’ve met the unknown
ダボついたシャツの
I’ve met the unknown
≪New me 歌詞より抜粋≫
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曲の前半と同じ歌詞のように思えますが、主人公の心情は大きく異なります。
前半の「I’ve met the unknown」は未知の存在と出会ってしまった驚きや戸惑いを表現していますが、後半の「そうI’ve met the unknown」では新しい物事を知っていく主人公の感動や興奮を表しています。
まるで目から鱗が落ちたような、気付きや発見を与えてくれたのではないでしょうか。
主人公の心が変わっていく様子が、歌詞を通して伝ってきます。
私が本当に嫌いだったものは?
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Don't know what path I'd call my own
ありえない展開
でも
あなたがくれた
驚きに満ちた
慌ただしい今日が
気付かせてくれた
≪New me 歌詞より抜粋≫
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彼との出会いにより主人公の中で何かが変わっていきますが、その一方で悩みも抱えています。
「Don’t know what path I’d call my own」は「自分が進む道が分からない」という意味です。
「path」は「人生の進むべき道」「自分が進むべき方向」といった意味を持ちますが、これまで自分を偽って生きてきた主人公とリンクします。
周囲から孤立しないように愛想笑いをしたり、心にもないことを言ったりして生きてきた主人公は、自分がどう生きたいのか分からなくなっていたのではないでしょうか。
自分の道=生き方が分からず途方に暮れている主人公。
ですが不思議な彼と出会ったことで一筋の光が見え、そしてあることに気付きます。
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私がずっと
本当に嫌いだったのはきっと
私自身だった
新しい毎日に Take off
いつもの私ごと
全部壊して oh, oh
どんな明日が来ようと
私は私を生きると
そう決めたの
≪New me 歌詞より抜粋≫
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主人公が本当に嫌いだったのは自分自身。
余計なお節介をする上司ではなく、愛想笑いを振りまき自分に嘘をつく自分自身が嫌いだったと初めて気が付きます。
そして主人公はそんな自分を「全部壊して」と決意。
古い自分の殻を打ち壊し、新しい一歩を踏み出そうとする希望や勇気が感じられる歌詞です。
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そう I’ve met the unknown
Unlocking doors all of my own
Oh, I’ll meet new unknowns
お決まりの今日を
退屈な日々を
変えるのは今日だ
振り返らないで
ここから始まる
私の物語
≪New me 歌詞より抜粋≫
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「Unlocking doors all of my own」は「自分のドアをすべて開けている」という意味です。
そして「Oh, I’ll meet new unknowns」は、「私は新しい未知と出会う」と訳します。
この場合の「ドア」とは主人公の可能性ではないかと思われます。
どこに通じているか分からない可能性のドア。
でももし勇気を出して可能性のドアを開けてみたらどうでしょう?
そこで胸が躍るような、新しい未知との出会いが待っているのかもしれません。
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お決まりの今日を
退屈な日々を
変えるのは今日だ
振り返らないで
ここから始まる
私の物語
≪New me 歌詞より抜粋≫
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新しい自分を生きると決めた主人公には、不安や恐れといった気持ちは感じられません。
また「振り返らないで」とあるように未練もないようです。
新しく始まる自分だけの物語にワクワクしている、そんなイメージで曲が締めくくられています。
新しい自分になる勇気をくれる一曲
YOASOBIの『New me』は、これまでの自分から新しい自分に生まれ変わっていく様子を歌った楽曲です。人生を変えるものは人との出会いや本、音楽など様々ありますが、この『New me』ももしかしたら人生を変えるきっかけの1つになるかもしれません。
「今の自分から新しい自分になりたい」と願っている人に、ぜひ聴いてほしい一曲です。