全員同級生の若きヒップホップクルー
SugLawd Familiarはメンバー全員が2008年生まれで沖縄出身という、非常に若いグループです。MCのOHZKEY(オハジキ)、Oichi(オイチ)、XF MENEW(エックスエフメニュー)、Vanity.K(バニティーケー)と、DJのcaster mild(キャスターマイルド)の5人で活動しています。
彼らが高校在学中に発表した『Longiness』は、「模倣=人の真似事ばかりすること」を痛烈に批判する歌詞が特徴です。
Spotifyを始めとした各音楽配信サービスで大ヒットし、YouTubeで公開されているMVは2800万回を超える再生回数を記録しています。
果たして本楽曲はどのような歌詞なのかさっそく見ていきましょう。
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リーズナブルな完成度+スケスケまくりのimitation
あいつになりたくてもがいても
底なし沼のように沈んでくよ
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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「リーズナブル」とはお手頃な価格帯の商品やサービスを指しますが、この場合「誰にでも思いつくようなありきたりなもの」と解釈できそうです。
続く「スケスケまくりのimitation」の「スケスケ」は透明で中身がない様子、「imitation」は模倣を意味します。
つまり誰もが思いつくような、中身のない真似事を意味しているのではないでしょうか。
真似ることは必ずしも悪いことではありませんが、そこにオリジナリティや真似した相手へのリスペクトはありません。
上記の歌詞はパクリや無断の模倣が横行する世の中に対し、「それってどうなの?」と疑問を投げかけているように感じます。
俺ら発展途上でもかっけえぞ
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ギリギリでフライできず地獄送りさ
君が飛べなかった理由を一つ教えたろうか
それは目の前のプロップスに心揺らぎ近道した結果
誰かの後をつけてるだけだったからさ
未だわからないか 最初は気づいてた
知らぬふりして自分の道だと言い聞かせた
他は騙せない オリジナルを奏でないと
過去の自分に足を引っ張られて退場
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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歌詞は「あいつ」と「君」の2人のラッパーの視点で展開され、模倣ばかりした結果苦しむ「君」に対し、「あいつ」はその理由を示します。
「プロップス」とは敬意や称賛を意味するスラングです。
誰でも「すごい」「最高」と言われると気分がいいものですよね。
自分も「あいつ」みたいに「すごい」と思われたい。
そう思った「君」は楽な方法を、つまり「imitation」模倣を選んだのでしょう。
ゼロから考えるよりも簡単で、ある程度の成果も望めます。
しかし「最初は気づいてた」とあるように、それは自分にとって良いことではないと分かっていたはずです。
「他は騙せない オリジナルを奏でないと」と「あいつ」は「君」に警告しますが、結局は賞賛欲しさにずるずると模倣を続けてしまったと思われます。
人間の欲深い部分、弱い部分を指摘する強烈な歌詞ではないでしょうか。
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俺とお前との差は遺伝子レベル
俺を狂わせた父母祖父母には感謝してる
さらに磨き上げた自分自身にも感謝してる
なのになんかしてる君 差が離れてくうちに
絶望を感じどうせラップやめるよ
5年後いや4年後?これは余命宣告
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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「君」が真似事に明け暮れる一方で、「あいつ」は自分のラップの腕を磨き続けてきた様子が歌詞からもうかがえます。
気づけば差は歴然で、追いつくのは困難でしょう。
絶望を感じる「君」に対して、「あいつ」は「どうせラップやめるよ」と冷たく言い放ちます。
同じラッパーとして真似ばかりする「君」のやり方が許せず、このような辛辣な歌詞になったのかもしれません。
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現状に満足して 威張ってんの?
俺ら発展途上でもかっけえぞ
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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「あいつ」は自分のことを「発展途上」と表現します。
これはまだ完成じゃない、もっと伸びしろがあるのだと解釈しました。
そして「かっけえぞ」という歌詞からも、まだまだ上を目指す自分に自信を持っている様子が伝わってきます。
自分たちのグループ名に未完成の聖堂の名前をつけた、SugLawd Familiarのメンバーの思いが込められているようにも感じますね。
全部お前のせい
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恋焦がれた男達と
時をかけた女達
上辺だけのお友達がお前の事甘やかし
命削りのらりくらり情熱だけを注ぐ歌詞
現実に頬濡らして 理想達が雨降らす
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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模倣ばかりする「君」の周りに集まる人々は、本当の意味で「君」のラップを愛しているわけではありません。
表面的な格好良さに惹かれているだけで、そこには深い尊敬や理解はないのでしょう。
いくら歌詞に情熱を注いでも単なる模倣のラップでは、聴いている人の心には届きません。
「現実に頬濡らして」とありますがこれらの事実に「君」は心から悲しみ、涙を流していると解釈できるでしょう。
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あれもカスでこれもカスで俺の歌詞で振り向かす
ムキになって無視したって
知らぬ内に街を這う
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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誰も心から自分のラップを求めていない事実に打ちのめされても、本当の自分のラップを聴いてほしいという願いはあるようです。
うまくいかない現実、求められていないことへの焦り、不安・怒りなどを「カス」と表現し周囲の注目を集めようとしますが、誰も相手にしてくれないようです。
そのようなネガティブな感情・現実を無視しようとしても、地を這うヘビのように「君」を取り囲み追い込んでいきます。
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体揺らし声を枯らしたって誰も聞いてない
導かれて聴いてみても耳は糸を引いてない
今日と明日明後日も白紙の中漁ってる
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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「耳は糸を引いてない」とありますが、この場合の「糸」とは関心や興味だと思われます。
声を枯らして歌っても誰も聴いてくれない、聴いてもらうことがあっても関心を持ってくれない。
きっと聴衆が求めているのはどこかで聴いたようなラップではなく、今まで聴いたことがないオリジナルのラップなのでしょう。
たとえ技術が未熟で言葉が洗練されていなくても、情熱とオリジナリティ溢れるラップならきっと心に響くはずです。
ですが模倣ばかりしてきた「君」には、自分の「オリジナル」を生み出す力はありません。
まさに「あいつ」が言っていた「他は騙せない オリジナルを奏でないと」の状況になっているようです。
歌詞に登場する「思想」とは、ラップに対する考え方や情熱だと思われますが、それすらも分からなくなっているようです。
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思想すらも曲がってるだけど顔は笑ってる
嘘だらけの肥溜めで逆上せるまで浸かってる
空に祈り捧げたって変えれるのは声だけ
何かあれば孤独気取りむしり取る金
指で擦りめくり表あれば裏探すだけ
歯止め聞かぬ無駄な愚痴も全て愛で砕けてる
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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焦りや不安が表に出ないように偽物の笑顔を貼り付けたり嘘をついたりして平気そうなふりをしますが、「変えられるのは声だけ」とあるように現実は変わりません。
内面はもはや崩壊寸前で、追い詰められていく様子が歌詞からもひしひしと伝わってきます。
現実に絶望し誰かのせいにしなければならないほど追い詰められた「君」は、とうとうこう吐き捨てます。
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もうこんな歌詞は書きたくない
全部お前のせい
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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自分だけのオリジナルを作り出すよりも、模倣していち早く称賛を手に入れたかった「君」。
その末路はあまりにも悲惨なものでした。
「もうこんな歌詞は書きたくない 全部お前のせい」には「君」の深い絶望や怒り、悲しみが生々しく表現されていて、聴く人の心に深く突き刺さったのではないでしょうか。
造語に込められた意味
この楽曲にはたびたび造語が登場します。
タイトルの『Longiness』も造語であり、キリストの物語に登場する「ロンギヌスの槍」から来ています。
ロンギヌスは兵士の名前であり、彼が持っていた槍がロンギヌスの槍です。
キリストが磔の刑に処されたとき、ロンギヌスはキリストの生死を確かめるため彼の脇腹に槍を突き刺します。
そのとき、脇腹から流れた血がロンギヌスの目に入ってしまいました。
ロンギヌスはもともと目が見えませんでしたが、キリストの血が目に入ったことで視力を取り戻します。
この出来事がきっかけでロンギヌスはキリスト教を信じるようになり、後に聖者となったそうです。
このエピソードは「君」にも当てはまるのではないでしょうか?
ラップに絶望した「君」は、まさに視界が届かない暗闇の中にいると思われます。
ロンギヌスと同じで何も見えていません。
さらに以下の歌詞にも注目してみます。
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NickelBurnして火つけて
君の心に落とすimagination
≪Longiness 歌詞より抜粋≫
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「NickelBurn」も造語であり、「Nicel」は金属のニッケルを、「Burn」は「燃やす」を意味していると思われます。
ニッケルはシルバーのような光沢をした金属で、酸化や腐食にも強いことから飛行機の部品など様々な用途に使われます。
このニッケルは「君」の心を表しているのではないかと解釈します。
金属のように冷たく固くなってしまった心では、オリジナリティ溢れるラップを作るのは難しいでしょう。
しかし固いニッケルも熱すれば加工できるように、「君」の心を熱くする何かがあればオリジナルのラップを作れるのではないでしょうか。
その何かとは「火」、燃えるような情熱やパッションなのだと考えます。
「君」もラッパーになるくらいなのでラップが好きだったはず。
純粋にラップが好きだったときの感情や情熱が「君」の心に再び灯れば、もう一度やり直せるはずです。
「imagination」の意味は「想像」。
盲目のロンギヌスが光を取り戻したように、絶望に沈んだ「君」にもいつか光が差し、模倣する側から想像する側へと変わっていくことでしょう。
生み出す者の心を抉る一曲
SugLawd Familiarの『Longiness』はオリジナリティを選んだ「お前」と、模倣を選んだ「君」の2人のラッパーの姿を描いています。ラッパーの物語ではありますが、何かを生み出すクリエイターやアーティストにも通じるものがあるのではないでしょうか。
この楽曲を生み出したSugLawd Familiarは、当時まだ高校生。
若い彼らの「模倣」には負けないという信念が詰まった一曲を、ぜひ聴いてみてくださいね。