恋するヤバさ全開のダンスサウンド
現在も第一線で活躍し続けるボカロP・DECO*27。2024年11月27日には9枚目のアルバム「TRANSFORM」が発売されるなど、今も精力的に音楽活動を続けています。
今回紹介する『モニタリング』は上記のアルバムに収録された一曲。
好きな相手のことを知りたいと願う少女の一途さと危うさを、初音ミクが歌い上げています。
観察や監視といった意味を持つモニタリングですが、一体どのような歌詞なのかさっそく見ていきましょう。
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ねえあたし知ってるよ きみがひとり"XX"してるの知ってるよ
ビクンビクン震えてさ 声もダダ漏れなんだわ
正直に言っちゃえよ バレてるんだし言っちゃえよ 効いてんの?
普通普通 恥ずかしい?みんな隠しているだけ
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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冒頭から登場する「ねえあたし知ってるよ」というフレーズが非常に印象的です。
「”XX”」はおそらく誰にも言えない、見せたくない自分だけの秘密だと思われます。
そんな秘密を「知ってるよ」と言うミクは、まるでストーカーのような危うさがあるように感じられます。
ですがミク自身はただ相手が好きなだけで、そのような自覚はないのかもしれません。
相手の「”XX”」に対してバカにするわけでも軽蔑するわけでもなく「効いてんの?」と質問しているのは、ただ相手がどう感じているのかを知りたいだけなのでしょう。
それだけ「相手のことを隅々まで知り尽くしたい」という欲求が強いようです。
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ねえあたし知ってるよ きみがひとり"涙"してるの知ってるよ
グスングスン凹んでさ 弱音ヒトカラ in the night
朝が来るまで一緒コース もっと泣いたって
何度だって受け止めてあげる
もう我慢しないでいっぱい出してね
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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「弱音ヒトカラ」のヒトカラとは「ひとりカラオケ」のことで、愚痴や不満、失望などネガティブな考えが止まらない様子を表しています。
ミクはそんな「きみ」に対し一晩中そばにいて、愚痴も弱音も全部受け止めたいと言っています。
危うさはあるものの、相手の悲しみに寄り添いたいと願うミクの健気さが伝わる歌詞です。
一途さを感じさせる歌詞

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MWAH!
お願い きみが欲しいの
慰めさせてシェイクシェイク 愛の才能で
泣いてくれなきゃ 涸れてしまう 濡れていたい
ねえいいでしょう? 舐め取って 飲み干したいんだってば
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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「相手の弱さも秘密もすべてひっくるめて愛する」というミクの気持ちが、「お願いきみがほしいの」という歌詞に込められています。
また「泣いてくれなきゃ枯れてしまう」は、相手が泣くことを我慢して心がすり減っていく様子を心配していると解釈できます。
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MWAH!
お願い きみが欲しいの
頼り散らしてシックラブ なんて最高ね
分けてくれなきゃ 君の"痛い"感じていたい
ねえいいでしょう? 吸い取って 救いたいんだってば
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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歌詞に登場する「シック」とは、上品・おしゃれを意味する「chic」と思われます。
「弱っている相手に頼られている自分(ミク)」という関係性が、洒落てる恋愛のように思えて憧れているのかもしれません。
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MWAH!
お願い きみが欲しいの
名前を呼んでよ いつだって会いに参上
きみはひとりだ だから歌う「ひとりじゃない」
もういいでしょう
ソロプレイはお仕舞いなんだってば
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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愛情を隠さないミクですが「きみはひとりだ」とあるように、相手はミクの気持ちに気づいていないようです。
「ソロプレイはお仕舞いなんだってば」という歌詞からは、片思いのもどかしさや寂しさ、「早く自分の気持ちに気づいてほしい」という願望が感じられます。
意味がガラッと変わる歌詞

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きみが病めるときも あたし側にいるわ
いつも見守っているわ そうよ 怖くないのよ
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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「病めるときも」とは、結婚式の誓いの言葉でおなじみのフレーズです。
結婚式の場合「健やかなるときも」と続きますが、なぜかこの楽曲には登場しません。
それどころかミクは「相手が辛いときや弱っているときはそばにいる」と言っているのに、「楽しいときやうれしいときも一緒にいる」とは言っていません。
相手のことが好きなら楽しい時間も一緒に過ごしたいと思うはず。
なぜミクはそう思わないのでしょうか?
おそらくミクは「相手が苦しんでいるのをそばで支える自分」に強い憧れを持ち、すっかり溺れているのかもしれません。
もし相手が幸せなら、そばで支えるはずのミクの出番がなくなってしまいます。
そのため「きみ」には苦しんでもらわないと困るのです。
「いつも見守っているわ」という歌詞は、相手が苦しんでいるか、あるいは弱っているかを監視していると受け取れます。
監視や観測、すなわち「モニタリング」と言い換えても差し支えなさそうです。
「怖くないのよ」とあるのは、「もしかしたらちょっと歪んでいるかもしれないけれど、あなたを愛するあたし(ミク)を怖がらないで」と言っているのかもしれません。
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MWAH!
お願い きみが欲しいの
慰めさせてシェイクシェイク 愛の才能で
泣いてくれなきゃ 涸れてしまう 濡れていたい
ねえいいでしょう? 舐め取って 飲み干したいんだってば
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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ここで曲の前半と同じ歌詞が登場します。
ですがもしミクが上記のような歪んだ愛を持っていたとしたら、歌詞の意味はまるっきり違うものになるでしょう。
前半の「泣いてくれなきゃ枯れてしまう」ではミクが相手を心配していると解説しましたが、この場合枯れてしまうのはミク自身。
「泣いてくれなきゃ」=「きみが苦しんでくれなきゃ、きみを慰めるあたしでいられないでしょ?だから泣いて悲しんで」と言っているように感じられます。
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MWAH!
お願い きみが欲しいの
頼り散らしてシックラブ なんて最高ね
分けてくれなきゃ 君の"痛い"感じていたい 覗いていたい
吸い取って 救いたいんだってば
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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曲の前半では「シック」を「chic=上品、おしゃれ」と解釈しましたが、この場合は「sick=病気」と解釈できそうです。
相手を支える恋愛に憧れるあまり、知らないうちに不幸を願ってしまっているミク。
ミクの愛はもはや病的と言っていいでしょう。
モニタリングされているのは誰?

この曲の歌詞を詳しく見ていくと、1つ気になる部分が出てきます。
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分けてくれなきゃ 君の"痛い"感じていたい 覗いていたい
≪モニタリング 歌詞より抜粋≫
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サビに出てくるフレーズですが、なぜかこの部分だけ「きみ」が「君」となっています。
他の歌詞はすべて「きみ」となっているのになぜでしょうか?
おそらくこの「君」は現実の人物であり、「きみ」はミクの妄想の中の人物だと解釈しました。
ミクは「君」に片思いしていますが、気持ちを伝えるどころか相手と親しい仲ではないのかもしれません。
相手を遠くから見つめ、思いを募らせていく日々。
そして寂しさや距離感を紛らわせるため、自分の中で「君」を「きみ」に置き換え好きなように妄想するようになったと考えられます。
「誰にも言えないことをしているかもしれない」
「1人で涙を流しているかもしれない」
「弱音を吐きたくても我慢して言えないのかもしれない」
「そんな『きみ』のすべてを受け入れて支える自分(=ミク)は最高だ!」
そのような妄想に満足し、ずぶずぶと深みにはまっているのかもしれません。
もしそうだとしたら、モニタリング(観測・観察)されている対象が変わってきます。
モニタリングされていたのは「きみ」ではなく、自分の恋愛感情を表に出さず頭の中で好き勝手な妄想を繰り広げるミク自身。
そしてそんなミクをモニタリングしているのは、他でもないこの曲を聴いている私たちリスナーと言えるでしょう。
欲望・妄想を刺激する一曲!
DECO*27の『モニタリング』は、相手のすべてを知りたい欲望と恋心が混ざりあった楽曲です。まるで見てはいけないものを見ているような背徳感のある曲に仕上がっていますので、気になる方はぜひ聴いてみてくださいね。