意外な誕生の仕方
作詞・永六輔、作曲・いずみたくによって誕生した名曲『見上げてごらん夜の星を』。多くの方は坂本九によって歌われたことがこの曲を知るきっかけになったのではないでしょうか。
実はこの曲はもともと同曲の作詞作曲を務めた永六輔といずみたくが制作・上演したミュージカル「見上げてごらん夜の星を」の劇中主題歌として誕生しました。
この作品は定時制の学校に通う高校生たちの青春を描いたもので、定時制高校に通う男子高校生とその高校の昼間部に通う女子校生が同じ机を通して文通で交流していく作品です。
初演当時の1960年ごろはいわゆる集団就職時代といわれ、全国各地から働きながら勉学に励む人はたくさんいたそうです。
そういう人たちを繊細に描いたこの作品は劇中主題歌でもある『見上げてごらん夜の星を』を主役を演じた坂本九が歌ったことでさらにヒットし、曲もさながら、ミュージカル自体も全国の高校演劇部での上演回数が多くなるなど人気を博しました。
ちなみにこの作品は、当時日本ではなじみのあまりなかったミュージカルを広めようと永六輔がいずみたくに企画を持ちかけたそうです。
このコンビだからこそ生まれた名曲といっても過言ではありませんね!
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見上げてごらん夜の星を
小さな星の 小さな光が
ささやかな幸せをうたってる
≪見上げてごらん夜の星を 歌詞より抜粋≫
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この曲は途中のブリッジ以外はすべて「見上げてごらん夜の星を」という歌詞から始まります。
当時の東京の空は星がよく見えたのではないでしょうか。
定時制の学生たちが仕事の後に学校へ行き、その帰り道に見える綺麗な星空を見上げ、人生について語る。
勤労学生たちにとってとても安らかな時間だったのではないでしょうか。
またこの曲は、シンプルな歌詞ですがその景色を想像しやすいところに魅力があると思います。
「ささやかな幸せをうたっている」という短い部分だけでも小さな星たちがキラキラと光り輝いている様子を私たちの頭の中で思い浮かべることができると思います。
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見上げてごらん夜の星を
ボクらのように名もない星が
ささやかな幸せを祈ってる
≪見上げてごらん夜の星を 歌詞より抜粋≫
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作詞の永六輔はなぜ「夜空」を用いたのでしょうか。
生前彼は「人間の生」についてこのように話していたそうです。
「人生というのは一瞬。一瞬というのは、宇宙と比べたときに一瞬ということ。だから人間の生を考えるのに、プラネタリウムは最適の場所。」
自分と宇宙を比べ、大きさ、歴史の長さなど様々な面からスケールの大きいものと自分の存在を比べると自分の存在の小ささ、そして人間の命の短さを思い知ります。
星にも僕らのように名も無い星がある。
それでもささやかな幸せをうたって、祈っている。
自分のやれることをやって生きようという教訓が込められている部分です。
いずみたくマジックが奏でる印象的なブリッジ

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手をつなごうボクと
おいかけよう夢を
二人なら
苦しくなんかないさ
≪見上げてごらん夜の星を 歌詞より抜粋≫
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宇宙と自分を比べると、ふと恐怖心がわいてくると思います。
それを表すかのようにブリッジに入ると短調になり、音色が暗くなります。
ですが、そんななか「てをつなごう僕と」「追いかけよう夢を」と好意を寄せている(劇中のストーリーで)相手に言われるとなんでも安心して、なんでもできる気がしてきますよね。
その気持ちの流れをブリッジの終わりに向けて盛り上がっていく音色、また長調に戻っていく動きは歌詞の「苦しくなんかないさ」と相まって、とても聞いていて心地が良いです。
歌詞と曲がこんなにもマッチングしているのはさすが作曲家いずみたくのマジックと言えますね。
命は一瞬
永六輔は生前、このように語っています。「宇宙に比べれば人間の生というのは一瞬。死ぬとわかっているのだからやりたいことをやろう」
命は一瞬です。
だからこそ、どう生きるか。
作詞の永六輔は歌を通して私たちにずっと語りかけているのだと思います。
その思いを汲んだ多くの歌手が、いまでもこの曲を歌い繋いでくれています。