主人公の視点と心情を描く冒頭の歌詞
歌詞の内容を冒頭から見ていきましょう。
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行方知らずのあの雲を見た
わたしの鱗はあなたに似ていた
舌は二つ、まぶたは眠らず
ぼやけたよもぎの香りがする
≪へび 歌詞より抜粋≫
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冒頭に描かれているのは主人公の視点。
「鱗」や「舌は二つ」といった単語が、タイトルにある「へび」を連想させます。
続く歌詞には、
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行方知らずのあの雲の下
わたしの心は火の粉に似ていた
靴はいらず、耳は知らず
冬の寝息を聞く
≪へび 歌詞より抜粋≫
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とあり、ここでは主人公の心情が描かれているのではないでしょうか。
「火の粉に似ていた」というフレーズが印象的です。
この表現については、火の粉がパチパチと散るように、主人公の心には熱いものがありながらも、それが強く燃え上がることなく、空虚な状態にあると捉えることができるでしょう。
「巫山の雲」を見ようとする主人公

続くサビの歌詞では、より繊細に主人公の心情が描かれます。
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ブルーベルのベッドを滑った 春みたいだ
シジュウカラはあんな風に歌うのか
海を知らず、花を愛でず、空を仰ぐわたしは
また巫山の雲を見たいだけ
≪へび 歌詞より抜粋≫
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この部分に関しては、登場する単語をひとつひとつ理解することで、その内容を読み解くことができます。
まず、「ブルーベル」とは、青い釣鐘型の花をつける植物のことです。
「巫山の雲」とは、中国の故事に由来する言葉で、男女が夢の中で出逢うことを表しています。
これらの単語を理解した上で歌詞を読み解くと、主人公は海や花など美しいものに興味を示さず、ただ「巫山の雲」が浮かばないかと、空を見て、夢の中で男女が出逢うことを望んでいると捉えることができるでしょう。
歌詞の冒頭から「わたし」「あなた」という表現が使われていることから、「わたし」=主人公は、夢の中で「あなた」に出逢うことを望んでいるのかもしれません。
サビの歌詞では、心地よく韻を踏みながら、主人公がもつ「あなた」との再びの出逢いを望んでいることが描かれています。
「あなた」への強い思い

このサビのフレーズは、2番では次のように変わります。
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芽吹く苔のベッドを転がった
あの頃みたいに
カタバミはこんな風に柔いのか
春を知らず、花を愛でず、風を舐めるわたしは
ただ海の深さを見たいだけ
≪へび 歌詞より抜粋≫
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主人公の強い想いは「海の深さを知りたい」という言葉に言い換えられています。
これまでの歌詞から、おそらくまだ海を見たことがない主人公。
その様子から、「あなた」と出逢いたいという想いの強さが思い起こされます。
主人公の「あなた」への想いの強さが最も強く表されているのは、次のフレーズではないでしょうか。
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あの大きな海を経れば
あの雲の白さを見れば
あなたとの夢の後では
他には
≪へび 歌詞より抜粋≫
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主人公は「あなた」を知った後であれば、それ以外に何も望まないと言い切ってしまうほど、「あなた」への想いを募らせています。
まだ知らない「海」の深さを知りたいように、「巫山の雲」の夢の中で出逢った「あなた」との、再びの出逢いをひたすらに望んで、そのほかには何もいらないと言い切ってしまうという描写がされているこのフレーズ。
端的ではありますが、これまでの歌詞で描かれていた物語が重なり、主人公の想いの強さがストレートに伝わってくるのではないでしょうか。
「へび」の意味とは

歌詞の最後は、次のフレーズで締め括られます。
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行方知らずのあの雲の下
わたしの心はあなたに似ていた
舌は二つ、まぶたは眠らず
いつか見たへびに似る
≪へび 歌詞より抜粋≫
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空の下で、いつか訪れるかもしれない「あなた」との再びの出逢い(の夢を見ること)を願っている主人公。
その姿は、どこかへ移ろっていくための足もなく、他のことを感覚するための耳も持たず、海が見えない草原でただ生きる「へび」のようでもあります。
タイトルにある「へび」は、ただ「あなた」のことを想うだけで生きている主人公の、その姿を表した比喩なのではないでしょうか。
真っ直ぐに思い続ける姿
誰かや何かを真っ直ぐに想ったり、望んだりし続け、ただそこに止まっている心情は、きっと多くの人が理解できるものではないでしょうか。その姿を「へび」に喩え、植物や雲、海など自然をイメージさせる言葉を使いながら、その想いを描いた楽曲『へび』。
何かを想う心情に優しく、力強く、寄り添ってくれる楽曲なのではないでしょうか。