ポケモンの記念日
『紙ひこうき』はポケモン公式YouTubeチャンネルで公開されたアニメーション『カイリューとゆうびんやさん』の主題歌です。
「ポケモン」こと『ポケットモンスター』は言わずと知れた大人気ゲームです。
1996年に携帯ゲーム機専用ソフトとして初めて登場し、そこから現在まで続く本作はカードゲームや映像作品など、多岐にわたるコンテンツ展開がなされ、世界中にファンを作り続けています。
そんなポケモンには記念日があります。
1996年2月27日にポケモンの最初のゲーム『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されたことから、毎年2月27日を「Pokémon Day」としています。
そんな2月27日に「Pokémon Day」記念アニメーションとして『カイリューとゆうびんやさん』は公開され、同時に主題歌『紙ひこうき』も配信されました。
『紙ひこうき』の楽曲を担当したのはTVアニメ『葬送のフリーレン』や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の音楽を手掛けたEvan Callです。
そして、歌唱はsuis from ヨルシカです。
suisは「どんな役もこなす主役のように、歌の主人公になりきって物語を表現するボーカリスト」で、透明感ある歌声が若い世代を中心に支持されています。
suisは公式のコメントで「ぜひ『カイリューとゆうびんやさん』の物語と合わせて、そして皆さん自身の物語として聴いていただけたら嬉しいです」と語っています。
また、Evan Callからは『カイリューとゆうびんやさん』には「ポケモンの大きなテーマだと私が感じている「友情や助け合い」というエッセンス」が描かれているとコメントしています。
『カイリューのゆうびんやさん』と『紙ひこうき』は切っても切れない関係性を結んでいるようです。
そんな『紙ひこうき』にはどのようなエッセンスが込められているのか、今回は歌詞の意味を考察していきます。
「書いてるほうが」素直になれる。

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きれいな音 聴いて思い出した
君が話してた いろんなこと
≪紙ひこうき 歌詞より抜粋≫
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一見、曖昧な歌いだしです。
「きれいな音」とは何の音でしょうか?
後に、「ぼく」という一人称が出てきますので、歌詞の人物は少年です。
そして、『紙ひこうき』は『ポケットモンスター』のアニメーションのために作成されています。
ポケモンの主人公は常に「少年」ないし、「少女」です。
ここで重要なのは少年、少女は「大人」ではない、という当たり前です。
「大人」が音を聴いた時、それは具体性を帯びた何の音かを認識することができます。
しかし、「大人」ではない少年、少女が音を聴いた時の感想は具体的に何の音かではなく、自分がどう感じたかが前に出てくることがあります。
「きれいな音 聴いて思い出した」はまさに子供の言語で表現された歌詞と言えるでしょう。
そして、その「音」によって「ぼく」は「君が話してた いろんなこと」を思い出します。
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おしゃべりは好き でも…
でも ちょっと だけど
書いてるほうが 素直かも
≪紙ひこうき 歌詞より抜粋≫
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ここで、「おしゃべりは好き」と言っているのは、さきほど歌詞で出て来た「思い出した」君に向けてでしょう。
君とのおしゃべりは好きだった。
「でも…」「でも ちょっと だけど」と濁した後に「書いてるほうが 素直かも」と告白します。
君はお喋りが得意なのでしょう。
「ぼく」が後に思い出すくらい「いろんなこと」を喋れるのですから。
ですが、「ぼく」は君のように話すことはできません。
君と話すことは好きだけれど、その中で素直な気持ちを伝えられるほど、喋りは上手くはない。
だから、たっぷりと時間をかけて考えられる「書いてるほう」で素直な気持ちを伝えようとします。
そして、それは『カイリューとゆうびんやさん』を踏まえて考えると手紙です。
「ぼく」は「君」へ手紙を書くと決めたのでしょう。
「空」と「海」を結わえる

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飛んでゆけ 青い青い空へ
確かめにゆくんだよ
君が言ってた「言葉はつばさ」
≪紙ひこうき 歌詞より抜粋≫
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「飛んでゆけ」と言ってますので、書いた手紙を持って「君」へ会いに行こうとしているのでしょう。
そして、それは「君が言ってた「言葉はつばさ」」という話を「確かめにゆく」冒険なのでしょう。
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ぼくも青い青い海で
世界を結わえる 透きとおった
あの光になれたら…なれたら!
≪紙ひこうき 歌詞より抜粋≫
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「ぼくも」という言い方は、その前に誰かがいたことになります。
おそらく、「君」でしょう。
「君」は何をしたのか、歌詞の中から予想するに「青い青い空」と「青い青い海」を「結わえ」たんだと思います。
結わえるは、言葉通りですが「くっつけて離れないようにする」意味があります。
海と空を離れないようにした、なんて話は冒険譚として非常にワクワクする内容だったでしょう。
そして、それを聞いた「ぼく」がその道を今まさに辿っているのです。
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地平線が琥珀に見えたんだ
ほんとうさ
伝えてみせるから
≪紙ひこうき 歌詞より抜粋≫
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「地平線」は青い空と海の接地点です。
そして、そこは「琥珀」に見えた、と「ぼく」は言います。
今まで聞いていただけの冒険譚を自らすることで、初めての発見をします。
「ほんとうさ」と歌詞で言います。
一見、嘘に思えるようなことだけれど、自分が体験した本当を「ぼく」は抱えます。
素直に言っても信じてもらえないようなことでも「伝えてみせるから」と力強く決意を見せる姿は、「でも ちょっと だけど」と言葉を濁していた頃の「ぼく」よりも成長していることが伺えます。
「紙ひこうき」と手紙

『ポケットモンスター』というコンテンツの大きなテーマはEvan Callいわく「友情や助け合い」だとコメントしています。
『紙ひこうき』も「ぼく」と「君」の友情を感じさせる歌詞でした。
決して近くにいるわけではないけれど、「ぼく」と「君」には特別な繋がりがあります。
そして、「助け合い」。
「ぼく」は目の前に存在しない「君」の言葉を思い出すことで、「確かめにゆくんだよ」と行動を起こすことができています。
「言葉はつばさ」と君は言っていますが、つばさがあるから前に進めるのであって、手紙という言葉を届ける行為に「ぼく」は助けられていた、と言うことも可能です。
本作のタイトルは『紙ひこうき』です。
紙ヒコーキでも、紙飛行機でもありません。
「紙」という漢字と「ひこうき」というひらがなです。
この文字の並びは『カイリューとゆうびんやさん』と揃えた表現であることが、まず一つ。
もう一つは折り紙で作るヒコーキとも、現実に空を飛んでいる飛行機ともイメージが被らないようにしよう、という意図があったのでしょう。
なぜ、他のイメージと被らない「ひこうき」というひらがなを使ったのか、それは「言葉はつばさ」と繋がる、手紙が言葉を乗せて遠くに移動することを意識させたかったからです。
手紙は不思議な伝達方法です。
便箋には限りがありますし、メールのようにすぐ届くようにもなっていません。
不便と言われても仕方がないでしょう。
けれど、だからこそ、伝わるものがあります。
それこそが歌詞の最後のフレーズ「文字にかたどれない」「こみあげる思い」なのでしょう。
何でも便利になっている世の中ですが、自分の中からこみ上げる思いは速くなったりはしません。
ゆっくり、紙に文字を書くようなスピードでしか進まないものもあります。
すぐ結果を求めて焦りそうになった時にこそ、「紙ひこうき」を聴いて心を落ち着けてみてはいかがでしょうか。