大人になるほどに刺さる「祭りのあと」の歌詞
桑田佳祐『祭りのあと』は、1994年10月31日にリリースされました。ドラマ『静かなるドン』主題歌にも起用されたので、当時ドラマ経由で知ったという人もいるかもしれません。
華やかで賑やかな祭りのあとの静寂は、なんとも言えない物悲しさがありますよね。
この楽曲は、そんな祭りのあとの静寂を思わせる、大人のほろ苦さを歌っています。
キラキラしたトキメキや、ギラギラした野望はない。
それでも、30年以上経った今聴いても胸に刺さるいぶし銀のような歌詞。
大人になった今だからこそ曲の良さが分かる、という人も多いのではないでしょうか。
大人の悲哀を歌った『祭りのあと』。
その魅力に迫るべく、歌詞を徹底考察していきます。
不甲斐ない自分へのやるせなさ

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情けない男で御免よ
愚にもつかない俺だけど
涙をふいて 鳴呼
夜汽車に揺れながら
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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歌い出しから、自分の不甲斐なさに打ちひしがれる、切ない歌詞です。
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飾らないお前に惚れたよ
いつも泣かせた
はずなのに
好きだヨ なんて
もう 言葉に出来ない
恋も涙も純情も
生きるためには捨てよう
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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相手の懐の広さ、余裕、人としての器の大きさを見せつけられると、自分がより一層情けなく思えるものです。
だからこそ、愛の言葉などもう口にできないと感じているのでしょう。
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今日も汚れた人ごみに
背中丸めて
隠れてる Oh oh
眠れない街に
愛する女性がいる
お前だけが
死ぬほど好きさ
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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人混みにもまれながら、人知れず愛しい人を思う。
冴えない日々も、愛しい人が生きている町だと思えば愛着が湧くでしょう。
消え残る花火のように切ない大人の恋の深み

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秋風の Shadow
終わらない夏に
誰かとめぐり逢う
夢の中で彷徨いながら
涙も枯れ果てた
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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愛してやまない人への思いを胸に秘めたまま涙で枕を濡らす日々。
「涙も枯れ果てた」という歌詞には、焦がれてやまない切ない恋心が滲んでいます。
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それとなく
あの娘に聞いたよ
誰が大事な男性なのか
心の中じゃ 鳴呼
無理だと知りながら
フラれても
くじけちゃ駄目だよ
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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叶わぬ恋をしながら、人の恋を応援するというのは心苦しいものでしょう。
叶わぬ恋と思われるような相手でも、「フラれてもくじけちゃ駄目だよ」という心遣い。
この歌詞は、相手を思いやっているようでもあり、自分自身への慰めのようにも聞こえますね。
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こんなしがない世の中で
振り向くたびに
もう 若くはないさと
野暮でイナたい人生を
照れることなく語ろう
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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もう若くはないのに恋焦がれる気持ちは変わらず、かと言って実りもせず。
そんな自分の人生を振り返り、誇ろうとする人間臭さが魅力的な歌詞です。
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悪さしながら男なら
粋で優しい馬鹿でいろ Oh
底無しの海に
沈めた愛もある
酔い潰れて夜更けに独り
月明りの Window
悲しみの果てに
おぼえた歌もある
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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男たるもの、粋で優しく。
その先に失恋や涙を飲む夜があったとしても、心意気が粋です。
若くないからこそ、大人の男として多くの恋をして失恋をして、酸いも甘いも知ってきたからこそ生まれる歌詞の深みがありますね。
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胸に残る祭りのあとで
花火は燃え尽きた
≪祭りのあと 歌詞より抜粋≫
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燃え残る花火は物悲しいものです。
熱く燃やした想いも涙も、もう果てた。
けれど悲観的ではなく、報われないなりに自分の人生を肯定して、自分で自分を慰めながら生きていこうとする姿勢は、聞く人の支えになるのではないでしょうか。
人生を長く生き、苦さを知っている世代に刺さる、いぶし銀の様な歌です。
「祭りのあと」というタイトルの意味を考察

楽曲全体を聞いてみると、「祭り」とは人生の盛りのようにも思えます。
勢いのあった若い頃。
根拠のない自信も、若さ故の勢いも強気な姿勢ももうない。
愛しい人も泣かせるばかりで不甲斐ない自分。
かっこよくもなければ派手でもなく、好きな人を幸せにすることも出来ない自分の情けなさを噛み締めながら、それでも誰かを思う気持ちは捨てられない切なさが滲んでいるように感じます。
涙を飲み込み、「好き」という気持ちを伝えることさえ諦めた自分だからこそ、叶わぬ恋と知りながらも人の恋路を応援したくなるのでしょう。
大人の余裕と言うよりは、大人たちが抱える物悲しさをノスタルジックに歌い上げた楽曲と言えるかもしれません。
懐かしくも切ないメロディと歌詞が、それなりの人生を生き、生きることの苦さや難しさを知った大人たちに刺さるのではないでしょうか。
渋みのあるボーカルが哀愁を掻き立てる『祭りのあと』。
初めて聴く人には新鮮に、久しぶりに聴く人には懐かしく。
どの世代にも刺さる、深みのある歌詞が魅力的な楽曲です。
ぜひ、ライブ映像と共に楽曲の世界を味わってみてくださいね。