「フィラメント」が映画「おいしくて泣くとき」主題歌に
Uru『フィラメント』は、2025年4月4日にリリースされました。映画『おいしくて泣くとき』の主題歌として書き下ろされたこの楽曲。
子ども食堂を舞台に描かれる繊細な心の動きや、亡き母を想いながら生きる少年・風間心也、どこか影のある少女・新井夕花の二人が少しずつ心通わせていく様子を丁寧に表現した作品です。
今にも折れてしまいそうな弱くて脆い人の心を描きながらも、大切な人に出会って前を向いて生きようとする歌詞が温かい『フィラメント』。
不特定多数の人が集まる子ども食堂という場所を舞台に、二人の男女の心の動きを表現した映画の世界にぴたりとハマります。
心洗われるような透明感のあるUruの歌声と共に放たれるこの曲の魅力を、歌詞の意味を掘り下げながら考察していきましょう。
幸せを知ったからこそ感じる孤独感

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手を振った後の道が寂しくなるのは
君の背中が遠くなっていくほど
また一人きりの世界に戻っていくから
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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大切な人と過ごす時間は幸せ。
だからこそ、一人に戻ると寂しさや孤独に襲われることもあるでしょう。
その弱さは、「君」と一緒に過ごす時間の幸せを知ってしまったからこそです。
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本当は弱くて、なんて情けないから
言えないけど でも君はきっと
そんな私のこと随分前から知ってたかな
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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自分の弱さをさらけ出すことは怖くてできなくても、それすらも見透かすような「君」の温かさが胸にしみますね。
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点いては消える街灯を見てた
心許ない灯りの中
行き場を失くした冷たい右手を
握ってくれた君の手が優しかった
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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「行き場を失くした」のは手だけでなく、きっと「私」自身の心だったのではないでしょうか。
身の置き所がない不安を振り払ってくれたのは、「君」の優しい手。
誰かに手を握ってもらうと、それだけで心が安心できますよね。
人の温もり、「君」という人間が持っている心の温度が、「私」の不安をほぐしてくれたのでしょう。
歌詞の随所に滲む安心感と温もり

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10年後の私はちゃんと笑えてるかな
今日まで流した涙の分も
拭いきれない弱さも君がくれた強さも
胸の奥 抱きしめていよう
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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人は忘れる生き物です。
今この瞬間に感じている気持ちも、数日経てば忘れてしまうかもしれません。
それでも、今感じている想いをずっと覚えていたいと願ってしまうくらい、「君」に救われているのでしょう。
強さには憧れても、弱さからは目を背けたいもの。
けれど「私」は、その弱さすらも目を逸らさず受け入れようとしています。
「君」が優しさをくれたからこそ、自分の弱さも受け止めることができたのではないでしょうか。
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「僕も同じだよ」初めて君が零した
たくさんの後悔や痛みが
小さな振動と共に私の肩に届いた
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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「私」にとって圧倒的な優しさと強さを持ち合わせた「僕」が、後悔や苦しみを見せてくれた時、二人の距離はぐっと縮まったのかもしれません。
完璧な人などいない。
分かってはいても、憧れや自信のなさから、相手を神格化してしまうことはよくあることです。
特別に感じていた「君」の人間らしい弱さに触れた時、「私」の心はほぐれたのでしょう。
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街ですれ違う人たちも
今隣にいてくれる君も
乗り越えてきた苦しみや傷痕を
両手に抱えながら生きているのかな
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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苦しい時は、周りを見渡す余裕がなく、自分ばかりが辛いと思いがちです。
しかし、本当は誰もが、それぞれの苦しみや痛みを抱えて生きているのでしょう。
自分だけではないと思えるだけでも、ふっと心が軽くなるものです。
そんな気づきをくれたのも「君」の優しさや温かさ。
「私」にとって「君」が、どれほど大きな存在になっているかがうかがえる歌詞ですね。
「フィラメント」というタイトルに込められた意味

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丸い背中を二つ並べた夜の空に
指で小さな夢を描いてみる
熱くなっていく手を君に握り返して
もう一度 小さく願った
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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広い空の下、たった一人では心細くても、二人なら生きていける。
冷たい手を握ってくれた「君」の温もりで熱を帯びた手を、今度は自分から握り返す行為に、二人で生きていく決意を感じます。
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躓きながら
立ち止まりながら
ゆっくりと歩いていく
10年前にここで見上げた夜の空を
思い出しながら笑おう
「タイムマシーンがあったら教えてあげたいよ」と
また君とこの場所で笑ってる
胸の奥 抱きしめていよう
≪フィラメント 歌詞より抜粋≫
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自分たちの未来に不安を抱えていた十年前。
そんな「私」に、今も笑えていることを教えてあげたいと思えるほど、十年後の「私」が笑えていることに、希望を感じますね。
映画では、互いに惹かれ合い、心の支えになっていく二人を、悲しい出来事が襲います。
現実には、生きていくということは悲しいことの連続で、難しいことばかりかもしれません。
悲しみの先に明るい未来があるとは言いきれない、現実の厳しさ。
それでも、生きていれば素敵な未来に出会えることを信じさせてくれる力が、『フィラメント』にはあります。
どこまでも透明で優しく、澄み渡るUruの歌声が、傷ついた心をそっと癒してくれるような楽曲ですね。
インタビューの中でUruがタイトルに込めた意味を話していますが、フィラメントは電球が光るために欠かせない存在。
『フィラメント』という楽曲も、互いの人生に灯りをともすために欠かせない存在のことを歌っています。
誰しもが誰かにとってのフィラメントであり、そんな人と出会えれば、どんな人生にも光は差すのかもしれません。
人と人とのつながりを優しく歌い上げる『フィラメント』。
多くの人の心に灯りをともしてくれる楽曲になりそうです。