形を変えて愛される「明日があるさ」の魅力
坂本九『明日があるさ』は、1963年12月1日にリリースされました。発売から実に60年以上が経っているということに驚きです。
それくらい、この楽曲は色褪せることなく、人々の心に残り続けているのではないでしょうか。
シンプルな曲調と「明日があるさ」というフレーズ。
覚えやすく前向きなこの言葉にこそ、この楽曲が長年愛され続ける理由なのではないでしょうか。
歌詞を紐解きながら、改めて楽曲の魅力に迫ります。
瑞々しくもどかしい恋の行方

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いつもの駅でいつも逢う
セーラー服のお下げ髪
もうくる頃 もうくる頃
今日も待ちぼうけ
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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いつも見かける、気になるあの子。
”今日こそ声をかけよう”と思いながらも、声をかけられずに今日が終わっていきます。
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ぬれてるあの娘コウモリへ
さそってあげよと待っている
声かけよう 声かけよう
だまって見てる僕
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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雨に濡れている彼女に傘を差し掛けたいけれど、たった一言さえ声をかけることができずに、今日も終わります。
目の前にいるのに近づけないもどかしさが、若さを感じさせますね。
まるで青春の1ページのようです。
「明日があるさ」に滲む悔しさと諦めきれない想い

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今日こそはと待ちうけて
うしろ姿をつけて行く
あの角まで あの角まで
今日はもうヤメタ
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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声をかけたい一心であとをつけるものの、結局声はかけられず「今日はもうヤメタ」と逃げ帰る。
好きな人の背中を見つめながら、距離を詰めたいのに詰められない、どうしようもないもどかしさが伝わってきますね。
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思いきってダイヤルを
ふるえる指で回したよ
ベルがなるよ ベルがなるよ
出るまで待てぬ僕
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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彼女がいつも通る道で待ち伏せたり、傘を差し掛けようと待ち構えたり。
そんなささやかな行動ばかりしていた「僕」が、ここで初めて一歩踏み出します。
家に電話をかけるというのは、かなり勇気のいること。
まして、この曲が生まれた時代を考えると、家の電話ですから、本人が出るとも限りません。
本人が出てくれるかどうか、どうやって話を切り出そうか考える緊張感が、痛いほど伝わってきます。
出るまでどのくらい時間があったのでしょうか。
結局待てずに電話を切ってしまう不甲斐ない自分を、「明日があるさ」と慰める。
初々しさを感じる恋の行方が気になります。
「明日があるさ」という言葉は、勇気を出せなかった今日の自分への言い訳であり、まだ諦めていない気持ちの表れのようでもありますね。
「明日があるさ」という前向きなワードが生み出す曲のパワー

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はじめて行った喫茶店
たった一言好きですと
ここまで出て ここまで出て
とうとう云えぬ僕
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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喫茶店まで誘うことができてもなお、「好きです」の一言が出てきません。
たった四文字の、シンプルな言葉。
でも言ってしまえば、後戻りはできない言葉。
喫茶店に誘えるようになるまで、どれほどの時間がかかったのでしょうか。
好きな人を喫茶店に誘うという行動は、かなりの勇気を要します。
それでも言えなかった「好きです」の言葉。
「明日があるさ」と言い聞かせながら、過ぎていく今日。
果たして「僕」が思いを伝えられる日は来るのでしょうか。
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明日があるさ明日がある
若い僕には夢がある
いつかきっと いつかきっと
わかってくれるだろ
明日がある 明日がある 明日があるさ
≪明日があるさ 歌詞より抜粋≫
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「若い僕には夢がある」という前向きな歌詞で終わっていく『明日があるさ』ですが、「僕」が抱える思いが、いつか届くことを願わずにはいられません。
若々しくほろ苦い恋愛が描かれる坂本九の『明日があるさ』。
この楽曲は何度もカバーされていて、なかでもウルフルズの『明日があるさ(ジョージアで行きましょう編)』は、CMソングにもなったので有名です。
若者の初々しい恋を描いたオリジナル歌詞も、社会人の悲哀を描いた替え歌も、「明日があるさ」という前向きなワードが印象的。
この言葉があるからこそ、悲観的になりすぎず、気持ちを切り替えて前に進めるのでしょう。
この曲が長い時を経て、時には歌詞を替えながら、多くの人に愛され続けてきた理由が分かる気がします。
オリジナルバージョンと替え歌バージョン、それぞれのよさがあるので、聴き比べて楽しんでみてはいかがでしょうか。