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キタニタツヤ「あなたのことをおしえて」歌詞の意味を考察!仮面社会に埋もれた”個”への祈り

本楽曲は、大人気アーティストであるキタニタツヤが手掛けた楽曲で、深い感情と共感を呼び起こす歌詞が特徴です。彼の独特な音楽スタイルと感受性豊かな歌詞が融合し、聴く者の心に強く響きます。

問いかけの裏にある、マスクの群衆と「個性の消失」

MVの始まりは、無機的で平凡な十字路の風景から始まり、何も特別な変化のないシーンが広がります。

このシンプルでありながらも印象的な風景は、歌詞が持つテーマと深く関連しています。

始まりは何の変哲もない日常から始まり、そこに意味を見出していく過程が描かれていくようです。

十字路という場所は選択交差点分岐を象徴しており、楽曲という物語の始まりとして適切な舞台とも捉えられますね。

▲キタニタツヤ-あなたのことをおしえて【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
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あなたのことをおしえて
好きな音楽とか、嫌いな人とか
あなたの未来を見せて
守りたいもの、抗いたいこと
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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歌詞は「あなたのことをおしえて」という、相手に対して深い理解を求める純粋な問いかけから始まります。

歌詞の最初に登場するその問いかけは、相手の個人的なことを知りたいという真摯な気持ちを表しています。

ただの表面的な情報ではなく、その人の本質や内面に触れたいという思いが込められています。

続く「好きな音楽とか、嫌いな人とか」というフレーズは、相手の好みや価値観を知るための一歩を踏み出す問いかけです。

音楽や人についての好みは、その人がどんな感情や背景を持っているのかを知る手掛かりとなり、深くその人を理解しようとする姿勢が見て取れます。

次に「あなたの未来を見せて」という言葉が続きます。

このフレーズは、相手の過去や現在だけではなく、未来に対するビジョンや希望、夢を知りたいという願いを表しているでしょう。

相手がどんな未来を描いているのかを知ることで、その人が抱える不安や期待を感じ取り、より深い理解を得ることができるのです。

さらに「守りたいもの、抗いたいこと」という問いは、相手の価値観や人生における重要な要素に触れるもので、何を大切にしているのか、どんな状況に立ち向かおうとしているのかを知りたいという思いが込められています。

守りたいものは相手の信念や情熱を象徴し、抗いたいことはその人が直面している困難や挑戦を反映しているでしょう。

MVでは、突然少女のインパクト絶大な横顔が映し出されます。

彼女はうつろな表情をしており、その無表情が感情の起伏を感じさせ、何かを抱えていることを暗示しています。

この少女の姿は、歌詞の「あなたのことをおしえて」という問いかけに対する応答のようです。

彼女の服装も非常にラフで、Tシャツ一枚というシンプルな格好は、彼女がどこから来たのか、なぜここにいるのかが全く分からないという謎めいた雰囲気を強調しています。

このラフな服装やうつろな表情は、彼女が抱える内面的な不安や葛藤を象徴しているかのようです。

さらに、少女の周りにはマスクをした大勢の大人たちが歩いています。

スーツ姿やリュックを背負った人々が見受けられることから、通勤時間のような状況が描かれているのでしょう。

彼らが身に着けているマスクからは、匿名性というメッセージが伝わってきます。

このマスクは、個々人の顔を部分的に隠し、個性を消失させる一方で、完全に顔が見えないわけではない点が興味深いです。

この微妙な覆い隠しが、まるでルネ・マグリットの「人の子」や「ゴルコンダ」を思い起こさせます。

これらの作品では、個性の消失や無機質な集合体としての人々が描かれており、マスクの登場がそのテーマと重なります。

マスクを着けることで、自己の表現が抑制され、匿名性の中で個々の人間性が薄れていく様子が映し出されているのです。

この大人たちの無表情な行動や少女との対比は、現代社会における疎外感や孤独感を象徴しているかのよう。

少女が抱える不安や悩みが、周りの大人たちの無関心な表情や、個性を消すような社会的慣習と対比を成すことで、視覚的にもメッセージが強調されます。

少女が目の前に立ちつくし、自分を表現できずにいる一方、無数のマスクをつけた大人たちは、まるで自己を犠牲にして生きる機械的な存在のようにも見えます。

社会における個性の喪失や自分を見失うことへの警鐘が鳴らされているように感じる人もいるかもしれません。

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36度の受動態が仮面の下で泣いている
あなたはもう何も差し出さなくてもいいと思うよ
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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「36度の受動態が仮面の下で泣いている」という歌詞は、非常に深い感情の動きが込められています。

まず、「36度」という数字が示すのは、人間の体温が約36度であることから、この表現は”普通”や”日常”を象徴する一方で、その”普通”の中に隠れた不安や痛みを感じさせます。

また、人間を単なる36度の物体として捉えているのも興味深いです。

通常であれば人間の体温は上下するもので、36という数値で一定の温度というラベルを貼ることは、その安定が「無機的」で「冷たいもの」、つまり生きることを放棄した「物」として描かれているように感じます。

生きていることの意味や感情を見失い、ただ「普通」であり続けることの無感動さ、もしくは無力さが強調されているのかもしれません。

「受動態」という言葉も非常に象徴的です。

受動態とは、主体性がなく、周囲の状況に従わざるを得ない状態を意味します。

この歌詞では、感情や行動が他者や外的要因に影響される状態が描かれているのかもしれません。

受動的に生きることは、時に無力感や自分自身を見失うことに繋がり、仮面の下で泣くという表現は、その感情の隠蔽や抑圧を表しています。

仮面の下で泣いているというのは、他人に見せることのできない深い悲しみや苦しみを内に秘めている状態であり、表面的には笑顔や冷静さを保ちながらも、内面では涙が溢れている様子を強調しているのでしょう。

続く「あなたはもう何も差し出さなくてもいいと思うよ」というフレーズは、相手に対しての「諦め」の感情を強く感じさせます。

一見優しさや思いやりから、安堵を届けてくれる言葉のように見受けられますが、その裏には深い悲しみや無力感が隠れているようにも感じられます

相手に「何も差し出さなくていい」という言葉は、相手がこれ以上自分を犠牲にする必要がないことを伝えている一方で、それが現実的にはその人との関係が終わりを迎えた、もしくは深い失望を感じていることを暗示しているとも捉えられます。

このフレーズは、もはや相手に求めることを放棄し、無理に何かを与えようとしないという、ある種の「解放」の感覚を示しているともいえるでしょう。

これ以上相手に負担をかけず、何も期待しないことによって、少しでも相手の痛みを和らげようとする意図が見て取れます。

しかし、この優しさが逆に、相手を失ったことへの哀しみや深い切なさを表していることに気づかされます。

まるで相手を解放し、同時に自分自身を解放するための苦渋の選択のようです。

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ささやかでも世界を憎むことを許してあげよう
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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この一節は、相手の感情を受け入れ、理解しようとする優しさとともに、世界に対する深い絶望や抵抗を感じさせます。

この言葉は、相手に対して「憎しみ」という感情を許すことで、「感情を抑圧せずに表現する自由を与える」という意味が込められているようです。

世界を憎むことは、一般的にはネガティブな感情とされ抑制されるべきとされることが多いですが、ここではその感情すらも受け入れ、理解することが重要だと語りかけています。

「ささやかでも」という表現が示すように、その憎しみは大きなものでなくても、たとえ小さなものでもその感情を無視せず、認めてあげることが大切だという優しさが感じられます。

相手が感じる憎しみや不満を抱えることに対して、否定せずに受け入れることで、相手は少しでも解放されるかもしれません。

それは、感情を閉じ込めることなく、正直に向き合うことで、逆に心の平穏をもたらす可能性があるという優しさの形なのでしょうか。

また、「世界を憎む」というフレーズは、単なる個人的な不満にとどまらず、現代社会に蔓延する匿名性や画一性など、個性が埋もれ「無機質な集合体」の一部として扱われてしまう社会構造に対する、怒りや虚しさを内包しているようにも感じられます。

マスクをした群衆やスーツ姿の大人たちが象徴するのは、まさに「誰でもない誰か」として日常をこなす姿であり、そこに「あなた」という具体性は見当たりません。

そんな中で「ささやかでも世界を憎むことを許してあげよう」という言葉が、そうした無個性な社会の中でかすかに芽生えた個人の感情である「違和感」「怒り」などを、否定せず肯定する姿勢として響きます。

それは冒頭の「あなたのことをおしえて」という問いかけとも深く結びついているでしょう。

なぜならば、こうした問いは、他者を”群衆”としてではなく、”ひとりの人間”として見ようとする行為だからです。

つまり、「世界を憎むことを許す」ことは、「あなた」という存在がこの世界に埋もれてしまわないように、その人の個性や感情を取り戻すための第一歩なのかもしれません。

その許しが、無機質な日常の中で声を上げることすらできなかった”あなた”の存在を、そっと肯定しているように思えます。

匿名性の中で見つけた唯一無二の物語


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だから、
どうか生きて、笑って、泣いて
少しでも多く
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は、これまでに積み重ねられてきた感情の「無力さ」「無関心」「怒り」「疲弊」全てを包み込むような、静かな祈りに満ちています。

この言葉は、「あなた」に向けられた最後の願いのように響きます。

生きること、笑うこと、泣くこと、それらはどれも感情を伴う人間らしい営みであり、この世界で「個」として存在する証です。

たとえほんの少しでも、それを「多く」積み重ねていけたなら、それだけでその人の人生は確かにここにあったのだと言える、そんな思いが滲むようですね。

MVにおいても、この歌詞の重みを裏づけるような象徴的な描写です。

少女の周りにいる大人たちの顔は光に包まれ、完全に表情が見えなくなります。

光は均質で、まるで全員が同じ思考・同じ感覚でつながっているかのように、一定のリズムで変化していきます。

この光は、現代社会における同調圧力や没個性の象徴とも読み取れますね。

誰もが同じように動き、同じように働き、感情すら見えなくなってしまった世界。

その中で「生きて、笑って、泣いて」という願いが差し出されることには、逆説的な強さがあります。

誰もが同じ顔で、同じペースで生きることを強いられるこの無機質な社会の中で、それでも「あなた」だけは、あなた自身でいてほしい

そんな切実な祈りが、この歌詞と映像の両方から静かに、けれど確かに伝わってくるのです。

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胸の奥、眠っている壮大なストーリー
僕に見せてくれ
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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そしてこのフレーズは、相手の内面に深く分け入り、その人だけが持つ唯一無二の物語を知りたい、共有してほしいという切実な願いを語っています。

ここで語られる「壮大なストーリー」とは、何か特別な冒険や劇的な出来事である必要はなく、その人が生きてきた軌跡すべてで、誰にも見せたことのない思い出、胸に秘めた痛み、夢や希望。

それらが、どれほど静かでも「壮大」だと語る視点にこそ、深い人間理解と尊重の姿勢が見て取れます。

「眠っている」という言葉は、それが未だ語られていない、あるいは本人すら意識していない可能性があることを示しているでしょう。

多くの人は自分の不幸には敏感で、それを痛みとして実感できる一方で、同じように存在しているはずのささやかな幸せにはなかなか気付けない

そんな現代的な感覚がここに潜んでいるように感じられます。

「壮大なストーリー」が「眠っている」という表現は、誰もが内面にかけがえのない物語を持っているにもかかわらず、それが”物語”として言葉にならず忘れられてしまい、埋もれている現実を映し出しているのかもしれません。

だからこそ、「僕に見せてくれ」という言葉には、強くて優しい響きがあります。

無理に言葉を引き出そうとするのではなく、相手が自分自身の価値に気づけるようそっと寄り添い、灯りをともそうとする態度。

ここには、「教えて」という要求ではなく、信じて待つ姿勢が感じられますね。

それはまさに、この曲全体を貫くテーマ「あなたのことをおしえて」と地続きです。

匿名性に覆われ、均質化していく現代社会の中で、「個」としてのあなたの物語を「見せてほしい」。

そう語るこの歌は、ただ理解しようとするだけでなく、その人の存在そのものを肯定しているようです。

それが、「眠っている」ストーリーに優しく光を当てる、この楽曲の本質なのではないでしょうか。

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ありったけの悲しみ全部
この歌に蒔いた
水を遣って、その涙で
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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「ありったけの悲しみ全部 この歌に蒔いた」という歌詞には、感情の放出と再生の意図が込められているように感じられます。

「蒔いた」という表現が示すのは、ただ悲しみを吐き出すだけでなく、それを”種”として未来へと託す行為でしょうか。

悲しみを破壊ではなく創造の起点とするこの描写は、まるで心の土壌に涙という水を注ぎ、そこから何か新しいものを育てようとしているようにも見えます。

続く「水を遣って、その涙で」というフレーズがそれを裏付けており、悲しみから生まれた涙が、癒しや再生のエネルギーとして作用している構造です。

MVの描写と照らし合わせてみると、この再生のテーマが視覚的にも強調されているように思えます。

曲が間奏に入り、映像全体が暗転することで、世界が一時的に”眠り”や”沈黙”に包まれるようです。

少女の目が閉じられるシーンは、悲しみに身を預けている瞬間、あるいは深い内省に沈んでいるようにも受け取れます。

そして、周囲の大人たちの顔を覆っていた光が、周囲が暗くなるにつれてより強く感じられるという演出は、皮肉にも”匿名性”や”無表情”が際立ってしまう構造になっています。

これは、個々の人間が自身の物語や感情を内に秘めたまま、外的には均質な集合体として存在している現代の社会構造を象徴しているとも言えるでしょう。

しかし一方で、少女が閉じた目の内側には、悲しみを”蒔いた”その場所から何かが芽生えようとしている予感もあります。

つまりこのパートは、内面に沈み込む時間と、そこから新たな感情や希望が生まれてくる可能性、つまり”再生”の始まりを象徴しているのかもしれません。

このように、歌詞と映像は「悲しみを語ること」「それを認めること」「それでもそこから何かを育てようとすること」という一貫したテーマを通じて、聴き手や視聴者に深い共感と静かな希望を投げかけていますね。

「あなたのことをおしえて」、個性の再発見と無個性への抗い


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あなたのことをおしえて
あなたの好きな言葉で
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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この2行の歌詞は、極めて繊細で真摯な問いかけになっています。

ただ情報を求めるのではなく、”あなた自身の言葉で”という部分が重要です。

それは、誰かの言葉を借りた表現ではなく、自分の言葉、自分の声で語ってほしいという願いのようです。

ここには、相手の個性や感情の輪郭を、そのままの形で受け止めようとする深い理解と共感の意志があります。

これは作品全体に流れるテーマ「個性の発見」「無個性な集合体への抗い」そして「沈黙していた感情への光」と強く結びついているでしょう。

MVでは、このフレーズとともに再び少女の目が開きます。

閉じていた瞼はまるで、心の深い場所で熟成されていた感情や思考の象徴のようであり、目を開く行為は「話す準備ができた」「もう一度世界を見ようとする」意思の表れに思えます。

そして、明度が復活し、日常に光が戻るように見える瞬間は、まるで世界が希望を取り戻したかのようです。

しかし同時に、周囲の大人たちに起こった変化は、その楽観に影を落とします

顔だけを覆っていた「光」は、今や全身を覆う”テクスチャ”のようなものへと変わっており、それがまるで無数の写真の集合であることが明かされます。

つまり、あの光は個人の「顔」を見せないためのフィルターであり、均質な”情報”や”記号”が繋ぎ合わされたものに過ぎなかった、と視覚的に告げられているようです。

そうした、個々の「顔」や「言葉」が失われ、均質な社会的アイコンや記号で生きる人々

その姿は少女の「あなたのことをおしえて」という言葉と真逆のベクトルにあります。

だからこそ、この歌とMVが伝えようとしているのは、「それでも、聞かせてほしい」という切実な願いです。

あなた自身の言葉で、自分の痛みや希望や夢を語ってほしい。

それは、匿名の群衆から脱し、あなたが”あなた自身”として存在する物語の始まりでもあります。

この場面は、無個性の集合から浮かび上がる”ただ一人のあなた”を探す物語として、静かだけれど確かな、抗いの一歩を示しているのかもしれません。

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どうか生きて、笑って、泣いて
少しでも多く
胸の奥、眠っている壮大なストーリー
僕に見せてくれ
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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この歌詞のパートは、まさに存在そのものへの承認と肯定に満ちたメッセージです。

「どうか生きて、笑って、泣いて 少しでも多く」というフレーズは、喜びも悲しみも含めた感情のすべてを肯定している言葉です。

ここで「笑って」や「泣いて」と並列に並べられていることが象徴的で、笑うことだけでなく「泣くこと」すら、生きている証であり、美しいものとして受け止めています。

しかも「少しでも多く」と言うことで、その感情の起伏をできる限りたくさん経験してほしいという、生きることへの強い祈りが込められていると感じます。

続く「胸の奥、眠っている壮大なストーリー 僕に見せてくれ」は、まさにこの楽曲の中核にあるテーマである「あなた自身を知りたい」「理解したい」という想いを象徴しているでしょう。

「眠っている」という言葉は、それがまだ語られていないこと、あるいは本人ですら気づいていない可能性を示唆します。

私たちの多くが、社会の中で”自分”を上手く表現することが出来ず、黙らせてしまっている「ストーリー(物語)」を胸に抱えている。

でもそれは、誰かが本気で聞こうとしてくれたときに、初めて目を覚ますのかもしれませんね。

最後の「僕に見せてくれ」は、決して強制ではなく、そっと寄り添う優しさに満ちた語りかけです。

問いかけから始まった「あなたのことをおしえて」という言葉の、いちばん深いところにある願い。

それは、あなたがあなた自身として生きることを、一番そばで見届けたいという思いではないでしょうか。

このフレーズは、他者との関係性のなかで「私はここに居ても良い」と思えるための、極めて人間的で切実なラストピースのように感じられます。

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ありったけの悲しみ全部
この歌に蒔いた
優しさを明け渡し奪われてきた
あなたにはわかるでしょう?
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は、心の奥底に沈んだ痛みと、それでも前を向こうとする小さな祈りを、静かにしかし確かに伝えているようです。

「ありったけの悲しみ全部 この歌に蒔いた」というフレーズは、自らが経験してきた苦しみや悲しみを、歌という形で差し出しているということを意味します。

「蒔いた」という言葉は先ほども出てきましたが、ワードチョイスが印象的ですね。

そしてこの言葉は、ただ吐き出すだけでなく、その悲しみが未来に何かを芽吹かせる種となることを信じているようです。

ただの愚痴や嘆きではなく、「誰かの心に届いてほしい」「誰かの心に花が咲いてほしい」、そんな祈りが込められているように感じられます。

「優しさを明け渡し奪われてきた」は、与えすぎたがゆえに傷ついてきた人生を語っています。

人に優しくすることで、自分の心を削ってきた。

けれども、その優しさは決して無意味だったわけではなく、むしろそこにある痛みこそが、誰かに届く可能性のある「歌」になっている。

そして、それが続く「あなたにはわかるでしょう?」という問いに繋がっていきます。

何度も出てくる「あなた」とは、きっと同じように誰かに優しくして、傷ついてきた人かもしれません。

この問いかけは同情ではなく、深い共鳴のための呼びかけです。

あなたも痛みを知ってるから、きっとこの想いを受け取ってくれる」と信じる心が、そこにはあるようです。

つまりこの一節からは、傷ついた人同士が、「痛み」を通じて繋がろうとする瞬間を描いている可能性を見出せます。

傷を隠すのではなく、歌という形にして差し出す。

それはただの吐露ではなく、「理解し合える誰かに出会いたい」「言葉にできない苦しみも、分かってくれる誰かがいると信じたい」という、究極に優しい希望の表現です。

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あなたの歌をきかせて
失くさないように抱えている
秘密をおしえて
あなたの気持ちを分けて
僕の悲しみを育てて、その涙で
≪あなたのことをおしえて 歌詞より抜粋≫
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歌詞で流れるように表現される「あなたの歌をきかせて」「秘密をおしえて」「気持ちを分けて」「僕の悲しみを育てて」という言葉たちは、ただの願望ではなく、それらを通して他者の心と静かに繋がろうとする姿勢を表しています。

その中で「僕の悲しみを育てて」という一節が特に印象的です。

通常、悲しみは癒すもの、消したいものとされがちですが、ここでは悲しみを共有されることで、美しくも儚い”花”として育っていくという価値転換が起きています。

MVでは、周囲の大人たちだけでなく、共に存在する少女の涙の跡さえも、風景写真や光のテクスチャに飲み込まれていく描写があります。

それは、各人物の物語と感情が匿名性の海に溶け込んでいくようにも見えるようです。

しかしその「飲み込まれる」ことは否定的な消失ではなく、感情が自他境界(バウンダリー)を超えて循環し、誰かの中に残り続けることを示しているのではないでしょうか。

つまり、この涙は「終わり」ではなく、「受け取ってくれる誰かがいる」という希望の証かもしれません。

”悲しみ”は一人で抱えきれなくても、誰かがそれを”育てて”くれる、そんな優しい連鎖のイメージが浮かび上がります。

少女の頬を伝い、世界に溶け込んでいく涙は、これまで静かに蒔かれてきた”感情の種”を育てるために必要な、そっと注がれる「水」なのかもしれません。

この一連の流れは、冒頭・タイトルの「あなたのことをおしえて」というテーマにも繋がり、個性の再発見と感情の存在証明として強く胸に残ります。

無個性に溶けかけた世界の中で、それでも誰かが誰かに語りかけ、歌を手渡していく。

そのささやかな営みこそが、生きることの証なのかもしれませんね。

歌い終わると同時に、少女の目がそっと閉じられ、画面全体がほんのりと薄暗く染まっていきます。

しかし、静寂は訪れません。

音楽は最後まで途切れることなく、むしろ強く、かき鳴らされ続けます。

それはまるで、誰かの心の中でまだ物語が続いていることを示しているかのようです。

目を閉じた少女の内面で、あるいはこの歌を受け取った”あなた”の中で、感情の波が止むことなく鳴り響いている。

そんな終わりではなく、”共鳴”としての余韻のようにも感じられます。

この力強い音は、失われたものの記憶と、これから育まれる感情が混じり合いながら、世界へと鳴り響いていくのかもしれません。

無個性な社会で輝く個人の尊さと、共感による支え合い

この歌詞とMVは、没個性的な群衆の中で「あなたのことをおしえて」と個性を見つけ出すことがテーマなのだと感じました。

ずっと抱えていた「ありったけの悲しみ」を共有することで、自身の痛みや感情が他者と分かち合われ、共感を生み出します。

この共有を通じて、孤独を乗り越え、心が通じ合う大切な瞬間が描かれているようです。

感情の繋がりを育むことで、希望や支え合いが広がり、温かいメッセージが伝わってきます。

そして、無個性な社会で「あなた」らしさを大切にしてほしいという願いが込められており、”涙”や”悲しみ”も誰かと分かち合うことで、いつしか「希望」に変わることを示唆しています。

最後には、「皆で支え合いながら生きていこう」という力強いメッセージが響くようです。

2014年頃からネット上に楽曲を公開し始め、2017年より高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。 ヨルシカのサポートメンバーとしての活動やWEST., 星街すいせいといった多くのアーティストへの楽曲提供などジャンルを越境し活躍を続け、携わった音源のYouTube総再生回···

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