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ポルノグラフィティの『パレット』で、言葉は気持ちに追いつけないと知った。

ポルノグラフィティの『パレット』は2002年のアルバムに収録され、のちに2004年のベストアルバム「BLUE'S」にも収録されたアップテンポな曲だ。そんなポップなテンションとは結びつかない、意外に繊細なストーリーがこの曲に描かれている。


ポルノグラフィティの『パレット』は2002年のアルバムに収録され、のちに2004年のベストアルバム「BLUE'S」にも収録されたアップテンポな曲だ。そんなポップなテンションとは結びつかない、意外に繊細なストーリーがこの曲に描かれている

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世界 あるいは君が壊れてしまうというなら話は別だが
およそ恋が生まれて消えた まぁそういうところだろう
そんな哀しい事を言わずに そんなブサイクな顔をしないで
できるだけ高い場所で次の風が来るのを待とう

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こんなフレーズから物語は始まる。
どうやら失恋してとても哀しんでいる女の子を慰めている様子。まるで世界が終わってしまうかのようなことを口走っているのだろうか、“そんなブサイクな顔をしないで”のくだりを見ると、泣いているらしいこともわかる。

“次の風”とはもちろん次の恋のことだろう。“高い場所”というのは小高い丘か、それともいっそ空だろうか。次にくるサビでこんな風に歌っている。

―――――
パレットの上の青色じゃとても
描けそうにない この晴れた空を
ただちゃんと見つめていて ありのままがいい
君ひとりじゃ持ち切れないのなら
僕が半分持っていてあげるから
いつか取りにおいで

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通してこれは、無理することはないよ、と言ってくれている。“ありのままがいい”というのはそういうことだ。しかも、悲しみが溢れてしまうほど“持ち切れない”というのなら、それを半分持ってあげるくらいのことだってするという。これは彼女に好意を抱いているのは明白だ。もう会う気のない相手に“いつか”なんて気の長いことは言わない。分けたものを“取りにおいで”ということは、彼女が少し気持ちが楽になったとき、また会いたい……ということ。
弱っている最中に告白はマナー違反だが、彼女のことは慰めたいし、あわよくば自分が次の風であればいい。そんな風に主人公は思っているのではないだろうか。

残念ながら、失恋の痛みはそう簡単に癒えるものではない。彼女は二番に入ってもまだ、哀しみの言葉を綴っている。

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なぜこんなに暗い詩が あぁ溢れているんだろ
月は決して泣いていないし 鳥は唄を忘れてはいない
変わらずそこにあるものを歪めて見るのは失礼だ

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涙を流す月や唄を忘れた鳥というのは、いかにも歌詞や詩に頻発しそうなフレーズである。しかし実際に世界を見つめてみたところで、月が涙を流すわけでも、鳥が黙り込むわけでもない。“失礼だ”とあるが、「哀しみを表現したいために世界を歪めるべきではない」というところだろうか。現実、世界はそう簡単に歪まない。そして意図的に歪めて見ることによって、心は余計に荒んでいくものなのだ。そう考えると、君にこれ以上哀しんでいてほしくない、と懸命に訴えかけているのがわかる。

この物語の中でもっとも気にかかるフレーズが次の部分である。
“雨は降り続き 雲に隠れたまま 泣いている月を見つけた鳥は”
“もう 唄うのを止めてしまった”


いくら哀しいからってそんな表現してやるなよ、と言っていた前の歌詞とは一転、ここではその表現を使用している。「泣いている月に唄うのを止めた鳥」なぜなのだろうか。

この部分は他のどことも違ってここだけが違うメロディーラインとなる、いわゆるCメロというところだ。これを他とは違うメロディーラインにしたのは、これを強調するため。何か重要な場面がここに例えられているのだ。
主人公は、彼女の悲しみの重さを見誤っていたのではないだろうか。彼にとっては単なるひとつの失恋と思ったものが、彼女にとっては本当に永遠の恋の終わりほどに感じていたのだとしたら。

それにようやく気付いてしまった。それほど彼女の哀しみが長く続くものとは思っていなかったのに、未だに彼女は泣き続けていて、もう彼にはかける言葉が見つからなかった。
たった二行のこのフレーズに、そういう心の動きが隠されている。囀っても囀っても泣きやんでくれない月が、彼女だったのだ。

このあと、前と全く同じ言葉でサビが繰り返されるが、一番とは少し違った感情でそれを読むことになるだろう。青色が置かれているらしい“パレット”は主人公の語彙をたとえているようだ。目の前の空について、彼はうまく表現できそうにない。現実には晴れているのかもしれないが、その時の彼の目には曇って見えたかもしれない。

だからこそ“ただちゃんと見つめて”いるしかない。相変わらず、自分の都合で世界を歪めてしまうのは失礼だと思っているからだ。とりあえず余計な形容さえしなければ、その空を“ありのまま”ということにできる

“もうメロディに身をまかせてしまえ”
“足りない言葉を探すのは止めて ラララ…”


呑気に歌いながら、物語は締め括られてゆく。この曲のメロディーはあくまでも終始アップテンポである。ということは事実、空はずっと晴れたままだったと考えられる。その時の感情によって、どう見えたかは別として。

哀しみに任せた言葉で世界を歪めてしまうと、いつまでも月は泣きやまない。今の自分の感情をうまく表現する言葉をパレットに持ち合わせないのなら、いっそ無理に話すこともない。限られた言葉の中で繊細な気持ちを表現することは、とても難しいことだから。

自分の持ちうるどんな言葉を駆使しても、相手に届かない時というのはある。それでも諦められない場合には、言葉をかける以外の手段を使うのもひとつの手なのだ。
鳥の代わりに歌ってみたならば、意外と彼女も笑ってくれるかもしれない



TEXT:祈焔( https://twitter.com/kien_inori )

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