「その日」から「革命」
2025年9月8日にメジャーデビュー26周年を迎えたポルノグラフィティが10月4日に新曲『THE REVO』を配信しました。タイトルの意味は「革命」であり、アニメ『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』のオープニングテーマとして制作されました。
『僕のヒーローアカデミア』は2014年から『週刊少年ジャンプ』より連載され、シリーズ世界累計発行部数1億部を突破した堀越耕平氏による大人気コミックです。
アニメシリーズの第1期は2016年から放送が開始され、この時のオープニングテーマもポルノグラフィティが担当しました。
タイトルは『THE DAY』で、意味は「その日」です。
『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』は8期目にあたり、タイトルからも分かる通り、今回で物語の幕が閉じるとされています。
ポルノグラフィティは『僕のヒーローアカデミア』の最初と最後のオープニングテーマを担当したことになります。
最初のオープニングテーマを担当してから9年の月日が経ち、この時間変化について作詞、作曲を担当している新藤晴一は「デク(緑谷出久)もオールマイトも第1期の頃とはまったく違うし、その変わり方は僕らの想像を超えていて。
それを別の言い方に変えると、革命みたいなものじゃないかな」と答えています。
第1期の『THE DAY(その日)』から『THE REVO(革命)』へと変わっていった実感は『僕のヒーローアカデミア』を見てきた視聴者であれば実感できるのではないでしょうか。
一方で、ポルノグラフィティと言えば数多くのアニメ主題歌を手掛けてきたアーティストです。
インタビューで「アニメ作品と関わることの意義」について尋ねられた際、ボーカルの岡野昭仁は「幅広い年齢層の方に自分たちの楽曲を届ける機会になってますよね」と答えています。
今年で26周年を迎えたポルノグラフィティが今なお、多くの人の心を掴んで離さずにいるのは、この「自分たちの楽曲を届ける」ことに自覚的だからでしょう。
そんなポルノグラフィティにとって、『THE REVO』は特別な存在のようで今年、2018年以来、約7年ぶりとなるカウントダウンライブを行うと発表し、そのタイトルが『THE OVEЯ』となっています。
このタイトルは『THE REVO』を反転させた文字となっており、そこには「現状に甘んじることなく今を超えていくために自らの革命を起こし続け、来年へとつないでいく」という決意が込められているそうです。
ちなみにポルノグラフィティいわく『THE REVO』という楽曲のテーマは「脳内の革命」としております。
『僕のヒーローアカデミア』における「脳内の革命」の意味と、ポルノグラフィティにとって「今を超えていくため」の革命とはどのようなものなのか、『THE REVO』の歌詞から読み解いていってみたいと思います。

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荒れ狂う爆音 向かい合った私の
心は平らでただ凪いでいるの
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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歌いだしの「荒れ狂う爆音」から、すでに出来事が起きていることが分かります。
『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』は前回の戦闘が継続している中で始まります。
そのため「向かい合った」とは、物語とリンクして考えれば敵対した相手です。
ただ、倒すべき敵を前にした「私の」「心は平らでただ凪いでい」ます。
凪とは「風がやみ波が穏やかになること」ですので、私は冷静でいることが分かります。
なぜ、私は最終局面の最中にも関わらず、冷静でいるのかについては、後の歌詞から読み解きたいと思います。
ここでは、物語から一歩離れて解釈できる部分について触れておきます。
前回の『僕のヒーローアカデミア』のアニメは2024年5月から10月まで放送されていました。
2025年の10月から放送が開始された本作はちょうど1年ぶりです。
首を長くして待っていた視聴者もいるでしょうが、1年の空白によって「凪いでいる」ような心情になってしまった視聴者もいるはずです。
少なくとも、『THE DAY』が流れた第1期のような誰もが同じスタートラインで視聴してくれる状況ではありません。
そのため、アップテンポに曲を始めず、「凪いでいる」ような心情になってしまった人にも寄り添うように、『THE REVO』は静かな立ち上がりを思わせるイントロと歌いだしとなっています。
意図した「戦略的エラー」

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無数のノイズが光りだしたせいかな
あたりはつるりとした静寂だけ
物語が回転するまたは反転する
その直前 生まれる空白を衝け
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』では、すでに出来事が起こっているわけですが、一方ですでに戦いを終えているキャラクターたちも存在します。
未だに戦い続ける登場人物を固唾を飲んで見守る「無数」の人たちもいます。
歌詞の「無数のノイズ」とは、そのようなもう戦いには参加できない人たちのことを指しているのでしょう。
作詞を担当した新藤晴一は『THE REVO』で誰1人、取りこぼさないぞと宣言するかのような歌詞になっています。
そんな「無数のノイズ」が作り出すのは「静寂」という空間です。
歓声ではなく、「静寂」であることは『僕のヒーローアカデミア』の作中で起きていることが戦いであり、ゲームでは決してないことを示しています。
続く歌詞の「物語が回転するまたは反転する」とは、ヒーローたちだけに視点を向けず、ヴィランにも目配せをする、と宣言する内容となっています。
ヒーローに戦う理由があるように、ヴィランにもここで戦う理由が存在します。
誰も望んでヴィランになるわけではありません。
人生という「物語が回転」あるいは「反転」すれば、ヴィランである人物たちもヒーロー側にいたかもしれない、そう思わせる人間ドラマが『僕のヒーローアカデミア』にはあります。
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いわば革命っていうやつを脳内で起こすのなら
マイナスをプラスと読み違えてしまうような
戦略的エラーがいくつも必要になる
正攻法ばかりじゃ繋がれないパラレルがあるさ
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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ここでタイトルである「革命」という単語が登場します。
そして、その革命は「脳内」で起こります。
正確には「脳内で起こすのなら」とありますので、「私」本人が意図的に脳内で革命を起こそうとしています。
そこで必要になるのが「マイナスをプラスと読み違えてしまうような」いくつもの「戦略的エラー」です。
どういうことでしょうか。
『僕のヒーローアカデミア』の物語になぞられるのなら、ヴィランがヒーローへと変わるためのプロセスとして読み取ることが可能です。
しかし、1歩下がって見れば、『僕のヒーローアカデミア』に限定することなく、『THE REVO』を聴くすべての人に対して、脳内であれば誰でも革命を起こすことが可能だと、伝えてくれているようにも読み取れます。
そもそも革命とは「被支配階級が、支配階級を倒して政治権力を握り、国家や社会の組織を根本的に変えること」です。
この定義で言えば、脳内で革命が起こる場合、今までの脳内で支配されていたルールや考え方が「根本的に」変わってしまうことになります。
そして、それは偶然には起こりません。
あくまで複数の「戦略的エラー」によって引き起こされます。
革命とは意図的なものであり、またそれは「正攻法」とは限りません。
今正しいとされるものを倒すことが「革命」ですから、この瞬間は間違っていることを進めていく必要に迫られます。
その間違っていることを革命が成功した暁には、これは正しい行いだったと正義にしてしまうことまで「革命」だと言えます。
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長きにわたって私を弾圧した
憐れな王は今怯んでいる
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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脳内には「私」を「長くにわたって」「弾圧していた」王がいます。
この王を「憐れな王」として、彼は「今怯んでいる」と言います。
脳内で革命を起こすと決めた時、まず決別すべきは今までの自分です。
革命の定義で言うところの「支配階級」ですので、「王」という表現は的確と言えます。
ただ、この「王」は結局のところ、過去の自分です。
過去の自分だからこそ「憐れ」であり、変わると決意した自分を前にして「怯んでいる」のでしょう。
革命の後に叫ぶ「私こそが王である」

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さらば過去よ いざ行こう 見たかった 景色だ
明日こそ2回目のバースデイにするさ
私が生まれてよかった世界へ
祝福されるはず
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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過去に対し「さらば」と伝えていることから、脳内の革命が成功しかけていることが分かります。
そして、革命の先に「見たかった」「景色」があります。
「私」が脳内の革命を起こしたかった理由は見たい景色があったのだろうということが伺えます。
では、その景色とはなんでしょうか。
歌いだしの歌詞に「心は平らでただ凪いでいるの」というフレーズがありました。
『僕のヒーローアカデミア』の物語をなぞれば、今この瞬間に行われているのは最終決戦です。
そんな重要な局面で、「私」の心はなぜ「平らでただ凪いでいる」のかと言えば、脳内の革命を完遂するためでしょう。
革命のために必要なものは「マイナスをプラスと読み違えてしまうような」「戦略的エラー」です。
だとすれば、何が「マイナス」で、何が「プラス」なのかを見極める必要があります。
「私」は冷静でなければなりません。
「荒れ狂う爆音」の中で向かい合った倒すべき敵に勝つためには、まず自分が変わる必要があると「私」は理解していたのです。
激情に駆られ突っ込んでも勝つことはできないと「私」は知っています。
冷静に脳内の革命を起こして、まずは過去の自分に「さらば」と別れを告げ、「明日こそ2回目のバースデイにするさ」と前を向きます。
そして、この「明日」は「私がうまれてよかった世界」であり、「祝福されるはず」だと希望を持ちます。
一見すれば、ヒーローと敵対するヴィラン側の心情を歌っているように思えるこの歌詞。
だとすれば、脳内の革命を起こしたのはヴィラン側だと理解するのが自然ですが、『僕のヒーローアカデミア』という物語を思い返してみると、最終決戦で戦っているヒーロー側の人たちも一度は世界から弾かれた経験を持っていることに気づきます。
『僕のヒーローアカデミア』の舞台は「総人口の約8割が何らかの超常能力“個性” を持つ世界」です。
この個性を持たずに生まれたのが、ヒーロー側に2人います。
彼らは生まれたその時、決して「祝福」されていたとは言い難いのです。
そう考えれば、この歌詞はヒーローとヴィラン、2つの側のどちらにも当てはまる内容となっています。
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そうさ革命の前夜に私は怯えない
これまでの自分が足にすがりついたとて
革命っていうやつを脳内で起こしたら
私が、私こそが王であると高らかに叫ぼう
≪THE REVO 歌詞より抜粋≫
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革命が成功した後、備えなければならないことは未来の自分が起こす「革命」です。
しかし、「私」はその革命には「怯えない」と断言します。
また、「これまでの自分が足にすがりついたとて」と過去の自分が邪魔してくることにも意に返さず、今この瞬間に革命を起こし「王」になることを肯定します。
「王」になったからには、王として振る舞う必要があります。
革命の責任とは、「支配階級」になることですから、「王」となった暁には「支配」する側の振る舞いが求められます。
それは脳内であっても変わらないでしょう。
「私」はその責任を理解した上で高らかに叫びます。
「私が、私こそが王であると」
自らの革命を起こし続ける意味

ちなみに、今年、メジャーデビュー26周年を迎えたポルノグラフィティに対し、インタビューの中で「革命」について尋ねるシーンがあります。
そこで、新藤晴一は「僕らはそろそろ100点を目指すべきじゃないかなと思うんですよ」と答えています。
一方で、カウントダウンライブ『THE OVEЯ』のタイトルの意味は「現状に甘んじることなく今を超えていくために自らの革命を起こし続け、来年へとつないでいく」と説明しています。
素直に受け止めれば、来年へとつないでいくために、100点を目指す楽曲を作っていく決意なのでしょう。
その上で、『THE REVO』という楽曲の歌詞を踏まえると、過去の自分たちは「憐れな王」ということになります。
そんな王に「さらば」と別れを告げて、「いざ行こう」と過去ではなく、未来を見据えて行くのだろうと思えます。
しかし、『THE REVO』のラストは「THE DAY HAS COME(その日が来た)」です。
ポルノグラフィティが作成した『僕のヒーローアカデミア』の第1期のオープニングのタイトルは『THE DAY』です。
そして、この『THE DAY』の歌詞の中に「THE DAY HAS COME」というフレーズがあります。
ポルノグラフィティはこの先、100点を目指した楽曲を作っていくために、革命を起こし続けるのでしょう。
ただ、この革命は過去をすべてなかったことにするわけでも、置き去りにしていくわけでもありません。
過去と共にポルノグラフィティは新たな領域へと進んでいくことでしょう。
『THE REVO』にはあらゆる意味や想いが込められています。
『僕のヒーローアカデミア』とポルノグラフィティの歩みを踏まえながら、ぜひ何度も聴いてみてください。
また、いつか新しい自分になるために脳内で革命を起こすその日が来た時、『THE REVO』はあなたの背中を確実に押してくれる楽曲にもなっています。