豪華タッグによる切ない愛と夢の物語
米津玄師が主題歌を務めていることでも話題の、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』。そのエンディングテーマも米津玄師が作詞作曲を手がけているだけでなく、宇多田ヒカルとの豪華コラボが実現し、大きな注目を集めました。
エンディングテーマ『JANE DOE(ジェーンドゥ)』はレゼの切なさを歌った曲で、米津玄師と宇多田ヒカルの歌声が織り成すハーモニーが、物語を補完するように映画のラストを飾ります。
タイトルの「JANE DOE」は英語で身元不明の女性を指す言葉で、日本で使われる「山田花子」や「名無しの権兵衛」に相当する慣用表現です。
謎めいたレゼの存在を象徴すると共に、人間関係の儚さも感じるタイトルとなっています。
その点がどのように表現されているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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まるでこの世界で二人だけみたいだね
なんて少しだけ夢をみてしまっただけ
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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冒頭から切なさの詰まったフレーズで始まります。
「まるでこの世界で二人だけみたい」と錯覚するのは、きっと相手を深く想っているから。
何のしがらみもなく、相手だけを見つめていたいという気持ちの表れではないでしょうか。
しかしそれも「少しだけ夢をみてしまっただけ」とあるように、現実ではありません。
本当にこの世界に二人だけになれたらいいのに、という淡く儚い願望が垣間見えます。
レゼの心に秘められた想い

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つま先に月明かり 花束の香り 指に触れる指
さよなら もう行かなきゃ 何もかも忘れて
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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「つま先に月明かり 花束の香り 指に触れる指」のフレーズは、視覚・嗅覚・触感で感じた記憶を回想しているようです。
端的な表現でありながら、その一瞬一瞬に宿っていた幸せが伝わってくるでしょう。
また、つま先を照らす「月明かり」は未来への希望を、「花束の香り」は癒しを、「指に触れる指」は人の温もりを表しているように感じます。
そう考えると、今まで誰も与えてくれなかったものを、この出会いを通して得たことも読み取れますね。
それなのに「さよなら」しなくてはなりません。
ここは本来自分のいるべき場所ではないから、得た良いものも含めて「何もかも忘れて」立ち去る必要があります。
それは自分に必要ない思い出だからではなく、思い出せば苦しくなるほど強い感情が生まれたからなのかもしれません。
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硝子の上を裸足のまま歩く 痛むごとに血が流れて落ちていく
お願い その赤い足跡を辿って 会いにきて
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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サビの「硝子の上を裸足のまま歩く」という歌詞は、想像するだけで鋭い痛みを感じるような表現です。
主人公の行く道がどれほど険しく過酷なものかがよく分かるでしょう。
それでも逃げないのは、自分にはこの道しかないと覚悟を決めているからだと思われます。
痛みを感じた瞬間、地面には血が流れ落ちて「赤い足跡」が残ります。
この足跡は痛みの証明であり、懸命に生きた証。
存在の知られていない“身元不明”の存在だとしても、今ここに確かに生きているのだという心の叫びなのではないでしょうか。
だからこそ「その赤い足跡を辿って 会いにきて」と願うのでしょう。
自分にも、痛みを感じ、誰かを切に求める心があることを教えてくれた人に追いかけてきてほしい、この世界から救ってほしいという想いが垣間見えます。
宇多田ヒカルが歌う、レゼの秘めた想いを代弁するかのような歌詞が胸に迫りますね。
独り残されたデンジの孤独

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錆びたプールに放たれていく金魚 靴箱の中隠した林檎
萎びた君の肌に残る傷跡 犬のように泳いだ迷子
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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「錆びたプールに放たれていく金魚」の表現は、腐敗した世界に閉じ込められた美しい存在を意味していると解釈できます。
また「林檎」は、禁断の果実としてよく用いられるモチーフです。
それを「靴箱の中に隠した」ということは、大切なものだから誰にも触れられないように隠したのか、良いものではないと分かっているから、他人に見咎められないように隠したのかもしれません。
どちらにしても、守りたい気持ちの表れのように感じます。
このパートは米津玄師が歌っているため、デンジの気持ちが表現されていると考察できるでしょう。
普通ではない日常の中で出会ったレゼが、デンジにとってどのような存在だったのかをイメージできます。
「萎びた君の肌に残る傷跡」はおそらくレゼが負う過去の傷のことで、それを知ってより守りたい気持ちが強くなったのではないでしょうか。
「犬のように泳いだ迷子」というフレーズは、デンジにもレゼにも共通する言葉といえるでしょう。
この世界に翻弄されながらも無邪気に、必死に生きようとする彼らの姿と重なります。
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どこにいるの (ここにいるよ) 何をしているの (ずっと見てるよ)
この世を間違いで満たそう
側にいてよ 遊びに行こうよ
どこにいるの
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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二人の掛け合いは、互いの孤独を埋め合うように響きます。
しかし「どこにいるの」と繰り返されていることから、デンジからはレゼの声も姿も捉えられないのでしょう。
彼女が去ってしまった後、より孤独感が強まってしまったのを感じますね。
「この世を間違いで満たそう」という言葉には、たとえ世界の正しさから外れているとしても君と生きていきたい、という真っ直ぐな想いが込められています。
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硝子の上を裸足のまま歩く 痛むごとに血が流れて落ちていく
お願い その赤い足跡を辿って 会いにきて
まるでこの世界で二人だけみたいだね
なんて少しだけ夢をみてしまっただけ
≪JANE DOE 歌詞より抜粋≫
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最後に再びこの歌詞が歌われます。
どれほど身を削っても強く願っても、全ては儚く消える夢。
決して結びつくことのない二人の愛が孤独に漂うような表現が、切なくも美しく心に残ります。
映画のストーリーと楽曲が生み出す美しい世界に浸ろう

米津玄師と宇多田ヒカルが歌う『JANE DOE』は、深く想い合いながらも交われない恋模様を繊細に描写した楽曲です。
レゼとデンジの心情が鮮やかに投影されていて、原作ファンや映画ファンならより世界観に没入でき感動を覚えるでしょう。
日本を代表するアーティストたちと『チェンソーマン』が織り成す世界を堪能してください。
米津玄師 プロフィール ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年本名の米津玄師としての活動を開始。 2018年、TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌として「Lemon」を書き下ろし“ミリオン”セールスを記録。 「第96回ドラマアカデミー賞」にて最優秀ドラマソング賞を受賞。 日本レ···
