ファンの間で深すぎる闇曲とも評される隠れた名曲
現在のMrs. GREEN APPLEは、フェーズ2と呼ばれる3人体制となり、1〜2か月ごとに新曲を配信するなど、いまやテレビやラジオで耳にしない日はないほどの人気を誇ります。しかし、彼らは突然有名になったわけではありません。
5人体制だったフェーズ1の下積み時代があったからこそ、今の姿があるのです。
ここで取り上げる『ツキマシテハ』は、2016年11月2日にリリースされたメジャー3rdシングルIn the Morningに収録されたカップリング曲。
当時、リリースを記念して開催されたIn the Morning Tourでは、全国6都市で約12,000人を動員しました。
『ツキマシテハ』のサウンドは、暗い雰囲気を漂わせつつ、通常の構成とは異なる独特なリズム感を持っています。
Aメロ・Bメロはそれぞれ2小節程度と短く、リズム感もおどろおどろしい印象です。
それでは、この曲に込められた感情やメッセージを、歌詞を通して紐解いていきましょう。
僕は、君は、何を思い生きてる?

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わからない事だらけで
学ぶ事もキリないな
ああ。だからか。
気持ちが良いことなんて
そこらじゅうに散らばりすぎてる。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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怒り耐える事だらけで
悲しくなるキリないな
ああ。だからか。
どうでも良いことなんて
そこらじゅうに棄てられすぎてる。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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『ツキマシテハ』の歌詞には「僕」と「君」の二人が登場します。
1番では、ある言葉を発する僕。
2番では、その言葉を受け取る君。
それぞれの感情がAメロ・Bメロを通して描かれているようです。
どうやら、僕が無意識に放ったひと言が君の核心に触れてしまった、その瞬間の心の動きが描かれているのでしょう。
1番Aメロに登場する学ぶこともキリない、気持ちが良いことが散らばってるという表現には、前向きで好奇心に満ちた視点が感じられます。
僕には悪意があるわけではなく、ただ知らないから知りたいという純粋な気持ちから出た言葉でした。
しかし君にとっては、その言葉が自分の痛みや葛藤の核心を突くものとなり、まるで刃物のように突き刺さってしまいます。
2番Aメロの怒り耐える、悲しくなるといったフレーズには、重くてしんどい感情が表現されています。
さらにどうでも良いことが棄てられすぎてるなんて言葉には、諦めや虚無感さえ漂います。
ここで描かれているのは、僕の悪意のない言葉だからこそ生じる複雑さ、感情の整理がつかず、すぐには受け入れられない君の状況です。
この二人の人間関係に潜む繊細さや、言葉が持つ余白や温度差はどのように展開していくのでしょうか。
今の僕は、君に対して、何を思う?

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あの時
僕から不意に出た言葉で
大人達が困ったのは だからか。
また、はたから見れば 幸せなあの子が
嘘で拭っているのも だからか。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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あの時
君から不意に出た言葉で
僕の何処かが痛んだのは だからか。
また、はたから見れば 不幸そうなあの子が
裕福なのも だからか。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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サビに入ると、これまでAメロ・Bメロで描かれていた感情が過去の出来事の回想として立ち現れ、歌詞全体が一気に物語性を帯びていきます。
僕が君に投げかけた言葉は、嘘を吹き込まれた上での無垢な発言のようにも読み取れます。
本当かどうか分からない情報を抱えながらも、僕はそれを信じて、君に確かめてしまったのです。
そこには、信じたい気持ちと疑う気持ちが入り混じった、人間らしい揺らぎが感じられます。
さらにサビ後半では、幸せそうなあの子、不幸そうなあの子という第三者が登場します。
あの子は僕や君ではなく、別の存在でしょう。
幸せに見えるあの子が嘘で取り繕っていたり、不幸に見えるあの子が実は裕福であったりと、そこには見えない痛みや演じられた感情が潜んでいるのではないでしょうか。
君からすれば、それはなぜそんなことをするのかという問いであり、同時に何を信じればいいのかという迷いにもつながります。
あの子が不幸を装うのは助けを求めるサインなのか、それとも同情を得るための演技なのか。
どちらにせよ、僕はそれに気づいてしまった。
しかし、気づいたところでどうすることもできない、だからこそ繰り返される、だからか、という言葉には、諦めと理解、そして静かな怒りが入り混じっているように思えます。
君は、僕は、どう思った?

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嫌いな人は正直たくさん居る
切りたくても切れない
それでも人は向き合い続ける
君は甘えすぎている。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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口から不意に出た言葉で
ヒトは悲しくなってしまうらしい
ただ、心から不意に出た言葉で
幸せも感じられるらしい
幸せに気付いていて欲しい
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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サビの後、Cメロに入ると視点が反転し、それまで感情を先行して語っていた僕から、君へと主導権が移ります。
ここで初めて、君の背景であるあの子との関係に縛られている姿が浮かび上がってきます。
嫌いな人は正直たくさん居る 切りたくても切れないという歌詞には、社会的なしがらみや感情の葛藤がにじみ出ています。
君はあの子に嘘をつかれながらも、何らかの理由で関係を断ち切れずにいるのでしょう。
身内かもしれないし、職場や学校の人間かもしれません。
嫌いという感情と、切れないという現実の間で揺れ動いているのです。
対照的に、君は次第に僕に惹かれていきます。
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君は甘えすぎている。
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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この一言は鋭く突き放すようでありながら、どこか優しさも含んでいます。
あの子に嘘をつかれ、人間関係に疑心暗鬼になっていた君は、僕の純粋さに触れることで、少しずつ心を解きほぐされていきます。
それは恋の芽生えかもしれませんし、この人なら信じてもいいという信頼の始まりかもしれません。
一方の僕は、言葉の重みに気づき、成長していきます。
噂のように軽々しく発せられる言葉は人を傷つけるだけですが、心から出た言葉は癒しとなり、温もりをもたらす、そのことを君との関係を通して学んでいってるかのように思えます。
君はあの子との関係に疲れ、僕に癒しを感じています。
そして僕は君を通して、言葉の力と優しさを知るのです。
その関係は恋愛の始まりのようでもあり、深い友情のようでもあります。
まだ行き先は分かりませんが、確かなのは二人が少しずつ本音に近づいているということです。
Cメロに入ってからの感情の反転と関係性の揺らぎは、まるで感情の交差点に立ちあっているかのように思えます。
ツキマシテハ、僕は呆れている

ラストの大サビは、こう締めくくられます。
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ツキマシテハ、僕は呆れている
≪ツキマシテハ 歌詞より抜粋≫
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ここで語られている君は、実は僕自身だったのでしょうか。
始まりかけた感情は、やがて麻痺し、最後にはすべてが消えてしまったかのようです。
感情の層を一枚ずつ掘り下げてみても、静かな怒りの核心に触れられるのは作詞者・大森元貴さんだけが知る世界なのかもしれません。
【Mrs. GREEN APPLE PROFILE】 大森元貴 (Vo/Gt) 若井滉斗 (Gt) 藤澤涼架 (Key) 2013年結成。2015年EMI Recordsからミニアルバム「Variety」でメジャーデビュー。 以来、毎年1枚のオリジナルアルバムリリースと着実なライブ活動を続け、2019年12月から行われた初の全国アリーナツアー「エデ···
