「あなたはかいぶつ」が「光が死んだ夏」EDに
TOOBOEの『あなたはかいぶつ』は、TVアニメ『光が死んだ夏』のエンディングテーマです。2025年8月13日にリリースされました。
『光が死んだ夏』は、大切な親友・光を失ったよしきが、帰って来た光が別モノに成り代わっていることに気づきながらも受け入れていくストーリー。
光とよしきの間には、友情より深く、恋愛感情とも違う独特の感情が流れています。
大切な親友というだけではない、深い愛情があるからこそ、人でなくなった光を受け入れ続けるよしきの気持ちが切なく映るのでしょう。
人ではなくなった親友を受け入れる異常性。
そこには理屈だけでは割り切れない心情がありました。
TOOBOE『あなたはかいぶつ』に込めた思いを、歌詞の意味を掘り下げながら探っていきます。
「あなたはかいぶつ」というタイトルが意味するもの

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眩しい日差しがまた この身を焼きつくしたから
幻みたいな貴方の嘗ての笑顔が見たくて
私はずっと 立ち尽くした
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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自分にとって大切な人が目の前から消えてしまったら、それだけでも心が潰れそうなほど苦しいでしょう。
その人が生前と同じ姿で現れたとしたら。
戻ってきてくれた安堵感と、中身は別物であるという切なさ。
『光が死んだ夏』でよしきが抱える思いは、まさに冒頭のこの歌詞に集約されているような気がします。
山で行方不明になって帰ってきた光は、見た目こそ光ですが、中身はこの世ならざるナ二カにすり替わっていました。
身体の中には、得体の知れないモノがうごめいていて、まさに人の皮を被った「かいぶつ」です。
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幼い頃の些細な幸せも
二人だけの秘密も
貴方が消えた その瞬間に
あやふやになってしまった
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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子供の頃から一緒に過ごしてきたよしきには、光との思い出がたくさんあります。
その一つ一つが光と過ごすことで蘇り、よしきを苦しめるのでしょう。
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サヨナラ 貴方じゃなくたっていいから
その手の温度さえ変わらないで
サヨナラ 私の心のグロさも
物足りないくらいに 夏が暑くて
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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光だけど、光ではないモノ。
光がよしきの前に戻ってきてから、村では不可解なことが度々起こるようになります。
光は、人里にいてはいけない存在。
そう知りながら、よしきも光も、互いに離れることができずにいるのです。
光とよしきの思い出を辿るような歌詞

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大事なものなら面影に 閉じ込めているから
未だ 前に進めない私はただの人間みたいだ
茶番の様な くだらないやり取りも
破り捨てた約束も
分かり合えない その感触が
何より遠くある
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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物語が進むにつれて、光にもよしきにも変化が訪れます。
一見すればただの高校生に見える光も、時を経れば経るほど、異形のものであることを痛感させられ、よしきも光の影響で、あちら側に引っ張られやすくなっていきます。
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これから何度となく過ぎる夏の
想い出となるには 恐ろしく
気づけば いつしか 貴方は誰
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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親友のように見えてもこの世ならざるモノであり、非常に強い力を持ったよからぬ存在。
光の形をしたソレは本来山にあるべき存在で、村に下りてきていいモノではありません。
しかし、光が死に際によしきのそばにいたいと願ったことで、光の皮を被ったナ二カがよしきの前に現れたのです。
そばにいたいという願いは光のものでありながらも、得体の知れないナ二カと混ざり合い、何者でもない不可解な存在になってしまいました。
そんな光と過ごすよしきの日々は、たしかに思い出にするにはおぞましいものです。
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サヨナラ 貴方じゃなくたっていいから
その手の温度さえ変わらないで
サヨナラ 心のグロさも
物足りないくらいに 夏が暑くて
もしも心の中に 怪物が潜んでいて
それが貴方自身になってしまっても
ただ ただ この夏が 何事もなく 過ぎればいいのに
≪あなたはかいぶつ 歌詞より抜粋≫
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歌詞の最後にある願いは、よしきの願いそのものではないでしょうか。
光が人間でないことを知っていても、そばにいたくて、離れたくないと願っている。
それは許されないことで、危険なことだと理解しながらも、かけがえのない親友を亡くしたよしきはもう二度と、光を失いたくないのでしょう。
「あなたはかいぶつ」がEDで流れる意味と余韻

こうして歌詞を考察してみると、『あなたはかいぶつ』には、"大切な人が「かいぶつ」でもいいからそばにいて欲しい"という思いが込められているように感じます。
人に害をなす存在だとしても、いずれ自分の身に危険が及ぶとしても、よしきが光を受け入れ続けるのにはそのような理由があるのでしょう。
かつて親友だったモノが変容して「かいぶつ」になったとしても、再び一人になることには耐えられない。
相手に対する思い入れが強ければ強いほど、一緒にいたいという願いは歪んでしまうのかもしれません。
今はまだ、光は自我を保っていますが、もしかしたらこの先、「かいぶつ」としてさらに人々を危険に晒す可能性もあります。
それでも今はまだ、親友の皮を被った「かいぶつ」を受け入れていたい。
そんなよしきの切実な願いが伝わって来る歌です。
『あなたはかいぶつ』がEDで流れることによって、その切なさが強調され、作品全体を悲しくも美しいベールで包み込むのでしょう。
友情とも愛情ともつかない二人のやりとりが愛しい一方、ゾッとするおぞましさもあるこの作品がどこか美しいのは、この楽曲が与える余韻のためなのかもしれませんね。