BUMP OF CHICKENの「I」がヒロアカFINAL SEASON エンディングテーマである意味
BUMP OF CHICKENの『I』は、『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』のエンディングテーマとして書き下ろされた新曲です。みんなの希望であるヒーローが、この世で一番の悪に負けるかもしれない。
そんな、絶対的危機を迎えた物語の終盤が描かれる『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』。
そんな物語のオープニングは、疾走感溢れるポルノグラフィティの『THE REVO』が飾り、エンディングを飾るBUMP OF CHICKENの『I』は、どこかあたたかく、希望を感じさせるメロディです。
「I(自分)」とも「愛」とも取れる意味のタイトルが付いたこの楽曲が、エンディングテーマになった意味は何なのか。
作品とリンクさせながら、歌詞の意味を考察していきたいと思います。
本当の気持ちと向き合う怖さと覚悟

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時間がない ここは命の瞬きの中だ
重なったら離れてしまう
ああ 伝えなくては 何をだったっけ
それじゃ思い出そう 今日 僕らで
≪I 歌詞より抜粋≫
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大切なものほど、過ぎ行く日々の中で見失いがちなもの。
時間が有限であることを頭で理解しながら、日頃はその大切さに気づくこともあまりないでしょう。
終わりを感じた時、急に今までの時間が愛おしく感じたり、大切なものを失うのが怖くなったりするものです。
いざ伝えようとしたら、何を伝えたいのか、何が大切なのか、上手く言葉にならずもどかしさを覚えることもあるでしょう。
『僕のヒーローアカデミア』は、個性を武器に戦う物語。
主人公デクの、どこまでもまっすぐな姿が眩しい物語です。
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これだけ大切なのに
どうやれば ちゃんと正しく大切にできる
ああ 一度だけでいい 本当の本当が見たいよ
みんなシャボン玉 瞬きの中
≪I 歌詞より抜粋≫
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最大のヴィランとなった死柄木弔(しがらきとむら)を前にしても、彼と人として向き合おうとするデクの姿が、歌詞と重なります。
相手を凶悪なもの、得体の知れないものとして切り捨てるのではなく、分かり合いたいと願う。
それはまさに「本当の本当が見たい」ということではないでしょうか。
相手が生命体である限り、心があり、感情がある限り、分かり合うことはできるのではないか。
そんな、相手を単なる悪として切り捨てない信念を感じます。
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渡せない痛みの生まれた場所
そこにいるんだろ 聴こえてしまった
ひび割れながら鮮やかなままの
脈打つ記憶で作られた 始まりの声
≪I 歌詞より抜粋≫
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誰しも、胸に秘めた思いや、人には見せない傷があるものです。
「渡せない痛みの生まれた場所」「脈打つ記憶で作られた始まりの声」とは、デクが向き合おうとしている圧倒的「悪」の、心の叫びのようにも思えます。
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さあ やっと見つけた
ここまで来た もう触れるよ
集めて しまっておいた 勇気の全部で
君の生きる その前にいる
≪I 歌詞より抜粋≫
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人の痛みと向き合うのは勇気のいるものです。
自分の感情ではないからこそ、「分かる」とは安易に言えないもの。
分かったフリで慰めても、それは救いにならないでしょう。
それでも「君の生きる その前にいる」という歌詞からは、逃げずに向き合う覚悟が伝わってきます。
「諦めない」という呪いのような信念が人を救う

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あらゆる種も仕掛けも 使い果たした後の
諦めを許さない呪い
ああ とても強く 長い間握っていた
願い事 世界をくれた魔法
≪I 歌詞より抜粋≫
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何をしても届かない時、心が折れてしまいそうになりますよね。
それでも「諦めを許さない呪い」によって、目の前の「君」の心に、痛みに触れることを諦めない。
そんな、最後まで人として相手と対峙しようとする、デクの不器用さと純粋さを思わせる歌詞です。
諦めないことはよいこととされがちですが、それを強さとは表現せず「呪い」と表現するところに、BUMP OF CHICKENらしさを感じました。
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乾かない雨を 白昼の夜を
ずっと連れてきたんだろ そうして出会えた
未だ身体は息をする 痛みに血を巡らせる
その意味を知りたがるように
≪I 歌詞より抜粋≫
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「止まない雨はない」とか、「明けない夜はない」とか、そんな言葉では乗り越えられないほどの闇を抱えた心。
雨は止まず、夜は明けず。
絶望の先でたどり着いた最悪の現実を変える、最後の希望。
それはデクのように、どこまでも愚直に信じて、正面からぶつかってきてくれる人なのかもしれません。
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呼び合う今
鼓動の答え合わせができる
何を取り返したいの 一人じゃないぜ
僕も生きる そのための夜
≪I 歌詞より抜粋≫
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自分の過ちに気付いた時、取り返しのつかないところまで来ていたら。
誰も味方がいなければ、現状に絶望し、自暴自棄になってしまってもおかしくありません。
「何を取り返したいの 一人じゃないぜ」という歌詞には、相手がどれだけの罪を犯しても、見捨てはしないという深い愛を感じます。
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言葉は限界を超えて砕けた
網膜は君を確かに捉える
思い出そう ありがとう
きっとこの時を待っていた
≪I 歌詞より抜粋≫
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「網膜は君を確かに捉える」という歌詞には、目の前の「君」から目を逸らさず、手を離さず、共に乗り越えようとする慈悲の心を感じます。
心が限界を迎えそうな時、孤独に耐えきれない時、こんな人がそばにいてくれたら、道を踏み外すことはないのかもしれません。
人の愛の深さを歌った「I」が際立たせるヒロアカの物語

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さあ やっと見つけた
ここまで来た もう触れるよ
傷付けたとしても 勇気の全部で
君と生きる
≪I 歌詞より抜粋≫
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追い詰められている人に触れるのは怖いことです。
さらに悪い結果に繋がるかもしれませんし、最悪の結末を迎える可能性だってあります。
だからこそ、持てる勇気をすべてかき集めて、震えながら立ち向かう。
本気で向き合うからこそ心は震えるのです。
それでも、嘘のない裸の心だからこそ救える命もあります。
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呼び合う今
鼓動の答え合わせができる
何を取り返したいの 一人じゃないぜ
僕も生きる 君と生きる そのためにいる
≪I 歌詞より抜粋≫
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「僕も生きる 君と生きる」という最後の歌詞は、傷も後悔も痛みも、すべてを背負って共に生きる、という決意表明のように見えます。
BUMP OF CHICKENの『I』の歌詞を分析していくと、壊れかけた大切な人を救いたい、という切実な思いが溢れているように感じます。
そして、助けを求める声なき声が聞こえてくるような気がするのです。
誰にも言えないけれど、消えることのなかったSOSが、「僕」には聞こえたから。
『僕のヒーローアカデミア』も物語終盤で、世界をかけた戦いが描かれる展開。
アニメで描かれるヴィランには、救いようのない悪と、救われたくてもがいている悪がいるように思えます。
FINAL SEASONのPVを見る限り、本作で描かれているのは後者なのかもしれません。
デクが人として最後まで向き合おうとしているのは、そこに人の心がまだ残っているからではないでしょうか。
どれほどかたちが変わってしまったとしても、元は人であったのなら。
どこかで分かり合えるはず、まだ救えるはず。
そんな願いを『I』の歌詞からは感じます。
アニメ終盤の絶望的な展開になればなるほど、『I』で歌われるような、人が人を思う気持ちが深く刺さります。
タイトルの『I』は「自分自身」であり、誰かを思う「愛」なのでしょう。
自分というものを捨てず、愛を捨てなければ、その先に希望はあるのかもしれません。
BUMP OF CHICKENの『I』は、FINAL SEASONにこそふさわしい楽曲ですね。
BUMP OF CHICKENは、トイズファクトリーに所属する4人組のロックバンド。独特な世界観とボーカル藤原の圧倒的歌唱力、更にはドラマの他、アニメやゲームとのタイアップ曲も多く、幅広い年齢層から支持を集めている。 幼稚園時代からの幼馴染であり、1994年、当時中学校の同級生であった4人が、文···
