アクアが抱く不器用な愛
2026年1月21日リリースの2ndアルバム『深海』の収録曲で、同日にMVがプレミア公開された、なとりの『セレナーデ』はTVアニメ『【推しの子】』第3期のED主題歌として書き下ろされました。アクアをモチーフに、「彼だけにはこの音楽が流れている時間だけでも幸せに眠っていてほしい」という願いを込めて制作された楽曲です。
アレンジにはボカロPのツミキが参加し、軽快なポップスでありつつも、切なさが滲む美しいダンスミュージックとなっています。
どのような想いが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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都合のいい思いを燃やして
呆れた願いはもう手放した
裏切りや秘密が漂って、ここから動けない
生まれてしまった、あるいは壊れてしまった
あの日あの場所で
ずっと、止まったままでいた未来
それでも、心のどこかで君を感じていた
許せない、今の僕は誰?
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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自分にとっての「都合のいい思い」や叶わないとわかっているのに持ち続けている「願い」を手放し、「裏切りや秘密」の中に身を投じる主人公。
そのうちに身動きが取れなくなり、元の生活に戻れなくなっています。
ある日を境に生まれた復讐の気持ちが心を壊し、時間が止まっているかのようです。
しかし、復讐に燃える中でも心の片隅にはずっと「君」、つまり妹のルビーがいます。
「許せない」気持ちを抱える「今の僕は誰?」と自問し、自分が復讐者なのか、愛を持つ普通の人なのかわからなくなっているように見えます。
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ねぇ、ずっとずっとそばにいたんだ
「勘違いだ」って、嘘じゃないよ
望んだものじゃなくとも
あなたに出会えた痛みだけが
愛だって信じられるように
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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どんなときも「ずっとずっとそばにいた」関係。
本当に望んでいたのはもっとありふれた幸せのはずですが、過去のトラウマという「痛み」によって結ばれた関係は複雑です。
それでも抱えている痛みが単なるつらいものではなく、「愛」だと信じたい純粋な気持ちが垣間見えます。
アイとルビーに対する、アクアの愛が感じられるフレーズです。
セレナーデに込めた想いとは?

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僕に触れないで!
祈る、セレナーデ
僕なしで上手く幸せになってね
誰よりもずっと、何を手放しても
これが愛だって信じていた、罰をください
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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「セレナーデ(小夜曲)」は夜に奏でる歌のことで、愛する人への想いを込めて歌ったり演奏したりする音楽です。
「僕に触れないで!」という拒絶の言葉が、祈りとセレナーデに結びつけられているのが印象的ですね。
相手の幸せには、復讐のために戦う自分はふさわしくないと思っているでしょう。
「僕なしで上手く幸せになってね」のフレーズからも、自分がいなくなると君を導くことはできなくなるけれど、君にだけは幸せになってほしいという願いが読み取れます。
復讐の結果、何かを手放すことになるとしても、これが自分の愛の証明だと信じているのです。
この現実が自分の罪に対する「罰」なのだとしたら、愛のために甘んじて罰を受け入れる覚悟があることが示されています。
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誰でもない、あなただけ
世界がまだ忘れてくれなくても
きっと、まだ あなただけ
願い疲れても歌うよ、セレナーデ
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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繰り返される「あなただけ」のフレーズは、第2期OP主題歌『ファタール』を意識したものかもしれません。
世界が自分たちのことを好き勝手にあれこれ言うとしても、真実は愛を教えてくれたアイの存在にだけあります。
だから思うように事が運ばず願い疲れるとしても、唯一残された妹だけは何が何でも守りたいという、兄としての強い想いを示しているのではないでしょうか。
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シナリオ通りのコメディ
不幸自慢はハウメニー?
エゴイスティックに光った瞳の中に映っている
「あなた」は「誰?」
暗闇が光らせた舞台の上で
何も知らずにただ踊っていられたならよかった
希望も不幸も身勝手だ
僕らは、全員共犯者だった
疑う余地もないほど
運命が定まった、あの夜から
僕は愛し方を忘れた
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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利益になるなら作られたコメディや人の不幸自慢にでも飛びつくメディア。
それを通して見る自分は、一体何者なのかわかりません。
何も知らずにいれたらもっと楽だったのに、全てを知った今、自分も「共犯者」だったのだから抱く「希望も不幸も身勝手」なものです。
それで、自分は幸せになるべきではないと思ってしまうのでしょう。
「運命が定まった、あの夜から 僕は愛し方を忘れた」という言葉から、衝撃的な出来事により、真っ当な愛し方がわからなくなってしまった苦悩が見て取れます。
悲しい結末の後で君が幸せであるように

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これだけ願って、これだけ祈って
こんな、悲しい結末でごめんね
すべて失って、すべて消え去っても
ただ、君がずっと生きていた痛みが欲しい
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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自分がいなくなるということは、愛する人にとって「悲しい結末」になることはわかっています。
それでも「痛み」を感じるのは生きている証だから、「君がずっと生きていた」という証として「痛み」を感じたいと願うのです。
歪んではいるものの、痛々しいほどの深い愛が込められていますね。
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あと、何回数えたら
あと、何回傷つけば
あと、何回失えば
あと、何回壊れたら
あと、何回数えたら
あと、何回傷つけば
あと、何回失えば
この思いは満たされる?
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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ただ愛する人を大切にして生きていたいだけなのに、何度も傷つき大切なものを失い、その度に自分の一部が壊れていくのを感じます。
こんなことをあと何回繰り返せば、自分の思いは満たされるのでしょうか?
この答えのない問いに、孤独に戦ってきたアクアの本音が表れています。
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これだけ願って、これだけ祈って
こんな、悲しい結末でごめんね
すべて失って、すべてが違っても
ただ、僕がずっと愛していた君よ
消えないで!
祈る、セレナーデ
僕なしで上手く幸せになってね
誰よりもずっと、何を手放しても
これが愛だって信じていた、罰をください
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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「悲しい結末」にしてでも復讐を遂げたいと願うのは、「ただ、僕がずっと愛していた君」に「消えないで」いてほしいから。
自ら彼女を手放すことになるとしても、それが愛の証明になるのなら十分です。
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雨が降り去っても、僕じゃなくたって
願い疲れても歌うよ、セレナーデ
≪セレナーデ 歌詞より抜粋≫
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降る雨がやがて止むように、物事には必ず終わりがやってきます。
終わりがないように思える復讐も大切な人を失う悲しみも、いつかは終わるでしょう。
その後で君を幸せにするのが「僕じゃなくたって」、君が幸せに生きていられるならそれでいい。
そんな、切なくも優しく温かい愛の祈りを歌っているのではないでしょうか。
孤独な愛を映し出すMVも必見!
なとりの『セレナーデ』は、決して消えない復讐心と、大切な妹であるルビーへの自己犠牲的な愛を抱えて生きるアクアの想いが凝縮された楽曲です。公式MVは画家のフィンセント・ファン・ゴッホと、弟のテオとの関係を反映したかのような内容で、そこにも深く孤独な愛が表れています。
ぜひそれぞれの人物たちが抱える物語と曲を重ねながら、愛について考えてみてください。

