貴方の愛に至らない僕
Mrs.GREEN APPLEの『They are(ゼイ アー)』は、2018年4月18日リリースの3rdアルバム 『ENSEMBLE』の収録曲です。 ピアノやストリングスを中心とした、ゴスペル調のメロディが美しいバラード曲となっています。
作詞作曲を手がける大森元貴はENSEMBLE TOURの中で、『They are』が自身の実体験に基づくものであり、一番思い入れのある楽曲だと明かしています。
タイトルの「They are」は「それらは~である」を意味する表現です。
このタイトルがどのような意味を持つのかも含め、歌詞の意味を考察していきましょう。
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今日もただ
"独りで寂しい"と
君の前で思ってしまう
貴方のその優しい愛は
僕には美しすぎるんだ
≪They are 歌詞より抜粋≫
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主人公は毎日のように「独りで寂しい」と感じているようです。
孤独を感じる瞬間は誰にでもあるものですが、ここで主人公は「君の前で思ってしまう」と続けています。
愛する人が目の前にいるので一人ではないのに、"独りで寂しい"と思ってしまうという表現が印象的ですね。
続く歌詞を見ると「貴方のその優しい愛は 僕には美しすぎるんだ」とあります。
初めは「君」と呼んでいたのに、ここでは「貴方」と呼ぶことで、一歩引いて見るような距離感をイメージさせます。
つまり、主人公は自分自身に対してネガティブな感情を持っていて、恋人が示してくれる美しすぎる優しい愛に値しないと感じているのでしょう。
清らかな彼女には自分の気持ちは分からない、寄り添ってもらえないと思い、孤独を感じてしまっているのだと解釈できます。
痛ましい感情ですが、この生きにくい時代では似たような気持ちを抱えている方が少なくないのではないでしょうか。
僕は君を愛せていた?

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許してくれなくていい
僕が愚かなままでいい
心が凍えそうなんだ
温めてくれるだけでいい
君の喜ぶ顔も
泣きそうな瞳も
僕を呼ぶ声も
生きて居るんだ
君は僕を
置いていくんだ
僕だけ歳をとらないみたいにさ
≪They are 歌詞より抜粋≫
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主人公は、彼女の愛や気持ちを素直に受け止められない自分を「許してくれなくていい」と告げています。
「 僕が愚かなままでいい」というフレーズからは、理解されないことに対する諦めや、変われない自分への皮肉が込められているように思えます。
主人公の少し気難しそうな性格が垣間見えますが、その裏で求めているのはただ凍えそうな心を「温めてくれる」こと。
理解できなくても愚かだと思っていても、ただそばにいて自分が孤独ではないと思わせてほしい。そんな切実な気持ちが伝わってきます。
良いときも悪いときも、二人は一緒にいました。
主人公の心には、まだ彼女の様々な表情や声が「生きて居る」かのように鮮明に刻まれています。
しかし別れてしまった今、彼女は自分を置いて行ってしまいました。
前へ進み始めた彼女とは対照的に、主人公は「歳をとらないみたいに」彼女と過ごしていた日々の中に取り残されています。
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今日もただ
"独りで寂しい"と
君の前で思ってしまう
貴方のその優しさでも
僕は傷を負ってしまうんだ
神様どうか、答えて
君を愛せていたか解らないんだ
≪They are 歌詞より抜粋≫
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彼女の純粋な優しさでさえ邪推して、傷ついてしまう主人公。
愛しているから一緒にいましたが、振り返るとその想いの通りに「君を愛せていたか解らない」と感じます。
彼女の愛に応えられていたかどうかわからず、神様に問いかける様子が切ないですね。
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名誉じゃなくていい
お金なんかは後でいい
君が上手なままがいい
孤独を分かち合えればいい
ぎこちないキスも
涙した理由も
僕はサヨナラに慣れすぎた
心のハグも
プレゼントも
何一つ返せていないのに
≪They are 歌詞より抜粋≫
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名誉のような大それたものは必要ないし、お金なんて後でいくらでも手に入る。
そういうものよりも「孤独を分かち合えればいい」と、心を満たすことの方が重要であることを伝えています。
「君が上手なままがいい」というフレーズから、孤独を感じながらも、彼女との関係を大切にしていたことが垣間見えます。
きっとそれが主人公なりの愛し方だったのでしょう。
「ぎこちないキスも 涙した理由も」自分が「サヨナラに慣れすぎた」せいで起こったこと。
今は愛してくれている彼女も他の人たちのように去って行ってしまうかもしれないと決めつけていたから、完全に心を許せなかったのだと解釈できます。
精神的な触れ合いや些細なプレゼントさえまだ「何一つ返せていないのに」、主人公はもはやその機会を失ってしまいました。
“They are”に込められた意味とは

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今日もただ
"独りで寂しい"と
君の前で思ってしまう
貴方のその優しさは
僕には美しすぎる
神様どうか、伝えて
君に愛されていた事に気付いたんだ
≪They are 歌詞より抜粋≫
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この部分は冒頭の歌詞と同じですが、「神様どうか、伝えて 君に愛されていた事に気づいたんだ」というフレーズが続いている点に注目できます。
今もまだ自分自身や彼女に対する見方は変わっていませんが、ようやく彼女が示してくれた愛を、心から受け止めることができるようになったことがわかります。
もう手の届かない彼女に、どうかそのことが伝わってほしいという気持ちが感じ取れますね。
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鐘が鳴り響いた
魂は知って居るんだ
本当の愛ってこんなんじゃないんだろうか
出会った意味をも
数えればキリがないけど
君はもう居ない
≪They are 歌詞より抜粋≫
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ゴスペル調のサウンドと「鐘が鳴り響いた」のフレーズから、結婚が連想されるでしょう。
おそらく彼女は、主人公とは別の男性と結婚したのだと考えられます。
結婚によっていよいよ本当に手が届かなくなった彼女を想い、主人公は「本当の愛ってこんなんじゃないんだろうか」という結論に至ります。
彼女がそばにいるのに孤独を感じていたことも、その孤独を分かち合いたいと思っていたことも、彼女に対する気持ち全てが愛だと気づいたということです。
愛せているかを心配していましたが、彼の愛は確かにそこにありました。
とはいえ「出会った意味」を数え上げてみても、彼女はもうここには居ません。
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今日もただ
"独りで寂しい"と
ベッドの中で思ってしまう
誰かのその優しさでも
僕は傷を負ってしまうんだ
今頃、僕は 僕は
君を愛していた事に気付いたんだ
全てが昨日のように
感じるんだ
≪They are 歌詞より抜粋≫
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彼女を失ってからは「ベッドの中」で、また「独りで寂しい」という感情と戦っています。
「誰かのその優しさでも 僕は傷を負ってしまうんだ」とあるように、主人公はきっとこれからも誰かと出会っては、心に根付いた弱さのせいで失敗してしまうでしょう。
しかし、遅くても「全てが昨日のように 感じる」ほどに彼女への強く深い愛情に気付いた彼には変化もあるはずです。
このラストには、絶望よりもかすかな希望が感じられます。
タイトルの「They are」には、「They are love(それは愛である)」というメッセージが隠れているのではないでしょうか。
心の中に隠れた本当の愛に気付く時に、人は成長できるのかもしれませんね。
現代人の心に沁みる愛の歌
Mrs.GREEN APPLEの『They are』は、失恋を通して愛を知る主人公の切実な心情が表現された楽曲です。誰とでも繋がれるからこそ、深い人間関係を築くのが難しい現代において、多くの人の心にフィットする内容なのではないでしょうか。
ぜひ歌詞に込められたメッセージを考えながら、じっくりと聴いてみてください。
【Mrs. GREEN APPLE PROFILE】 大森元貴 (Vo/Gt) 若井滉斗 (Gt) 藤澤涼架 (Key) 2013年結成。2015年EMI Recordsからミニアルバム「Variety」でメジャーデビュー。 以来、毎年1枚のオリジナルアルバムリリースと着実なライブ活動を続け、2019年12月から行われた初の全国アリーナツアー「エデ···
