大人から若者に向けた未来へのエール

卒業シーズンになると、様々な卒業ソングに触れる機会が増えます。
心に沁みる卒業ソングは、卒業生やその家族はもちろん、かつて卒業生だった全ての人の心にいつまでも残り続けるものです。
『あなたへ 〜旅立ちに寄せるメッセージ〜』も、代表的な卒業ソングのひとつです。
小学校教諭として、音楽を指導しながら作詞作曲を行う筒井雅子が手がけた合唱曲で、全7曲からなる『混声の為の合唱組曲 時の女神(ヴィーナス)』の第7曲目にあたります。
『時の女神』は杉並ジュニア混声合唱団から組曲の委嘱を受けて制作され、それぞれの楽曲には移ろう季節の中でごく平凡でありながらも、かけがえのない日常生活の様子や呟きが切り取られています。
そのエピローグとなる『あなたへ 〜旅立ちに寄せるメッセージ〜』にはどのような想いが表現されているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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白木蓮にも似た
その白い翼で
まだ見ぬ世界、未来という
果てしない空へ
旅立ってゆくのですね
まばゆいほど輝いて
旅立ってゆくのですね
温かな巣をあとにして
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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1番は元々、異動によって別れてしまった前任校の子どもたちの、卒業アルバムに寄せて書いた歌でした。
そのため、1番には教師を含め、大人たちから旅立つ若者たちへのメッセージが綴られているそうです。
「白木蓮」は3〜4月頃に咲き、春の訪れを告げる花として広く親しまれています。
ここではその大きな白い花が、旅立つ若者たちが持つ「白い翼」と関連づけられています。
白木蓮には気高さや高潔な心という花言葉があるため、まだほとんど社会を知らない若者たちの純真さや、夢を持って羽ばたく芯の強さも表現しているのかもしれません。
これから「まだ見ぬ世界、未来という 果てしない空へ 旅立ってゆく」彼らのことを考えながら、大人たちは感慨深い気持ちになっているようです。
自分たちが守ってきた「温かな巣をあとにして」旅立つ彼らへの心配や寂しさが垣間見えます。
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愛と涙
そして知るだろう
人生という名の迷路の果てに
信じ合えることの喜びと
悲しみを知った分
優しくなれることを
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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「愛と涙」という表現は、今後の人生で経験する幸せや悲しみを表しているのでしょう。
そして、それらの出来事を通して「信じ合えることの喜びと 悲しみを知った分 優しくなれること」を知るはずだと伝えています。
悲しい経験は避けられませんが、そこからも学びがあり、必ず自分を成長させてくれます。
若者たちの未来への不安を包み込み、優しく背中を押して送り出すような温かさが感じられますね。
学生生活を振り返る若者の心

2番の歌詞には、旅立つ若者たち自身の言葉が綴られています。
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いろんなことがあって
自分を嫌いになった
なぜ僕だけがこんな目に逢うと
他人を羨んだりもしたさ
荒んだ心に刺さったのは
意外な奴の言葉だった
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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大人から見れば一瞬にも思える学生時代も、本人たちからすれば世界の全てです。
人間関係の不和や挫折など様々なことを経験し、自分を嫌いになってしまうことさえあるでしょう。
「なぜ僕だけがこんな目に逢う」と感じると、楽しそうな同級生を見て羨む気持ちも生まれてきます。
しかし、そんなときに転機が訪れます。
「荒んだ心に刺さったのは 意外な奴の言葉だった」とあることから、誰かの言葉によって気持ちに変化が生まれたようです。
「意外な奴」とは、自分が羨んでいた相手なのかもしれません。
自分とは違って、問題がなさそうに見えていた人の境遇や本音を知り、苦しんでいるのは自分だけではないのだと気づいたのではないでしょうか。
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も(う)一度
も(う)一度 あの空を
飛べるかもしれないと思った
張り裂けるような
悲しみの行き場
煮えたぎるような
憎しみの出口
時よ おまえは見てきたのだろう
憎しみの極みを
戦いの果てを
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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「意外な奴の言葉」により、「も(う)一度 あの空を 飛べるかもしれないと思った」と続いています。
「張り裂けるような 悲しみ」や「煮えたぎるような 憎しみ」を抱えていると、心は重くなり身動きが取れなくなるでしょう。
それでもある言葉が心に刺さり、この若者に希望を与えました。
悲しみを捨て憎しみのトンネルを抜け、広い空に飛んでいくかのような自由な心を再び得たい、という前向きな気持ちが生まれていることがわかりますね。
「時」は、世界に生まれた「憎しみの極み」や「戦いの果て」を全て知っています。
「時よ おまえは見てきたのだろう」と語りかけるフレーズは、そうした苦しみを生みたくない、今の自分から変わりたい、という切実な願いの気持ちが込められているように感じます。
門出を前に、学生生活を振り返りながら気持ちを新たにする若者の心情が心に響く歌詞です。
温もりが人と人とをつなぐ

3番は、1番の大人たちと2番の若者たちが徐々にひとつとなり、人という大きな群れとして歌っているイメージで歌詞を見てみましょう。
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時の女神よ
教えてください
握り合えない
手と手ならば
隔てる心の壁がいつか
癒され なくなる日は
くるのでしょうか
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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人々は世界の時を見守る「時の女神」に問いかけます。
「握り合えない 手と手」のフレーズは、人が理解し合えず憎しみ合う様子を表していると思われます。
そのような状況で、人と人の間にある「心の壁」が自然と「癒され なくなる日は くるのでしょうか」。
もし心の壁が時間と共に消えてなくなるものだとしたら、今の世界はもっと平和になっているでしょう。
誰もが答えは否とわかっているため、「時の女神」に問う形を取りながら、自分はこのままでいいのだろうかと自問しているように感じます。
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手と手をつなぎ
その手をかざそう
人生という名の迷路の果てに
信じ合えることの喜びと
悲しみを知った分
優しくなれる
愛と涙
あなたの手の温もり
人生という名の迷路の果てに
信じ合えることの喜びと
悲しみを知った分
優しくなれる
≪あなたへ~旅立ちに寄せるメッセージ~ 歌詞より抜粋≫
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大切なのは「手と手をつなぎ」、心を通わせることです。
傷の“手当て”という言葉は、医療器具や薬が身近ではなかった時代に、患部に手を当てることにより、温もりや安心感から痛みを和らげていたことから生まれました。
「その手をかざそう」のフレーズも、傷に手を当てるように、人の温もりによって相手の心を癒そうとする優しい気持ちがあれば、心の壁はなくなっていくということを示しているのではないでしょうか。
人生はまさに迷路のように先が見えず、良いときも悪いときもありますが、「あなたの手の温もり」があればまた前を向けます。
若いうちはまだわからなくても、これからの人生で「信じ合えることの喜び」を実感していくでしょう。
そして「悲しみを知った分 優しくなれる」ことを知り、その優しさが別の誰かに「信じ合えることの喜び」を与えます。
そういう風に人の温もりは伝染し、憎しみを癒して愛と幸せをもたらしてくれるのだというメッセージが伝わってきますね。
歌を通して届ける全ての人に向けたメッセージ
『あなたへ 〜旅立ちに寄せるメッセージ〜』は、旅立ちを見送る側と旅立つ側の心情を映しながら、人としての生き方を教えてくれます。筒井雅子が手がけた楽曲には、「生き抜いて」という想いが共通しているそうです。
時は移ろい、嬉しい瞬間もつらい出来事も長くは続かないからこそ、隣にいる人と気持ちをひとつにして、今この瞬間を真っ直ぐに生き抜くことが大切です。
ぜひ歌詞に込められた想いを汲み取りながら、大切に聴き歌い継いでいきましょう。
