ジャンルを問わない音楽性と物語で魅せるくるり

くるりは日本のロックバンドです。
現在はギターボーカルの岸田繁と、ベースコーラスの佐藤征史の二人で構成されています。
1996年の結成当時はスリーピースバンドとして発足、その後大きくメンバーチェンジを行いつつ現在も精力的に活動しています。
ジャンルに問われない音楽性が魅力で、ロック、民族音楽、エレクトロニカなど様々な音楽に影響を受けながら日々発展するバンドです。
また、どの楽曲でも共通する概念としてはその歌詞の深みが挙げられるでしょう。
詩的なフレーズや比喩表現を用いた明確化しない歌詞は聞き手の想像力を搔き立て、様々な物語を生みます。
本楽曲『春風』も、聞く人それぞれで受け取り方の異なる切ない歌詞が魅力です。
永遠を信じながら別れの準備をするいじらしさ
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揺るがない幸せがただ欲しいのです
僕はあなたにそっと言います
≪春風歌詞より抜粋≫
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「春風」は、そんな歌詞から始まります。
揺るがない幸せ。
単なる幸福ではなく、揺るがないそれが欲しいとこぼす「僕」。
恐らくそれは、話し相手である「あなた」と共にある未来なのでしょう。
この時点で明言されていなくとも、温かな歌声とメロディーが聞き手にそう思わせ、説得力を生んでいます。
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言葉をひとつひとつ探して
花の名前をひとつ覚えてあなたに教えるんです
≪春風歌詞より抜粋≫
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続くこの歌詞は、川端康成「掌の小説」の一節を思わせます。
それは「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」というもの。
毎年決まった季節に咲く花を見た時、相手は毎年その花の名前を教えてくれた相手のことを思い出してしまうかもしれない。
いじらしさの滲む言葉ですが、だとすれば「僕」は、揺るがない幸せを望みつつも「あなた」との別れを肌で感じ取っているのかもしれません。
揺るがない幸せを願いつつも、「僕」は別れのための準備をする。
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気づいたら雨が降ってどこかへ行って消えてゆき
手を握り確かめあったら
眠ってる間くちづけして
少しだけ火を灯すんです
≪春風歌詞より抜粋≫
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それでも彼らは別れに抗おうとします。
雨に流されてしまわぬよう手をしっかりと握り、くちづけを交わす。
揺るがない幸せのための灯りを少しだけ灯して、共にいられる時間を大切に大切に守っています。
春風と別れ、解けたシロツメ草のネックレス

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シロツメ草で編んだネックレスを
解けないように 解けないように
≪春風歌詞より抜粋≫
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シロツメ草の花言葉は「復讐」という怖いものが有名です。
しかし幸福の象徴として扱われることが多いだけあって、「幸運」「約束」「私を思って」など、思い合う二人を繋ぎとめるにはぴったりなものが多くあります。
幸運と約束、自分を思ったままでいて欲しいという祈りを込め、「僕」はネックレスを編みます。
しかし、続く歌詞はこうです。
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溶けてなくなった氷のように花の名前をひとつ忘れて
≪春風歌詞より抜粋≫
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教えた花の名前は忘れられてしまいました。
それは「僕」と「あなた」の心が離れてしまったことを意味しているのでしょう。
別れてもそれだけは残ればいいと考えていたのに、「あなた」の心にはもう花の名前ひとつの居場所さえもなくなってしまいました。
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遠く汽車の窓辺からは春風も見えるでしょう
ここで涙が出ないのも幸せのひとつなんです
≪春風歌詞より抜粋≫
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「僕」と「あなた」はそれぞれ異なる汽車に乗りました。
お互いが遠くの線路を走り、もう道が重なり合うことはない。
しかし、そこからでも春風は見えるでしょう、という歌詞。
風そのものは目に見えませんが、例えば桜や菜の花、シロツメ草が揺れるさまをみることで人は春の風を視覚でも感じることができます。
あなたも自分と同じようにそんな様子を眺めているかもしれない。
それは希望であり、幸福であり、また切なさでもあります。
ここで涙が出ないのは「僕」の心もまた「あなた」から離れてしまったからでしょう。
それもまたひとつの幸福の形なのかもしれません。
私たちはそれぞれの人生の汽車に乗り、揺るがない幸せを探し続けるのです。
無常感と切なさを温かな風に乗せる「春風」
『春風』は別れの切なさを優しいメロディーに乗せた一曲です。揺るがない幸せを欲していながら、それを見つけるのは難しいこと。
一生を共にすると誓い合った恋人同士も、いつか道を違えるかもしれない。
しかしそれぞれの人生が遠く離れてしまっても、もしかしたら今この瞬間、お互いが同じ春風を頬に感じているかもしれません。
本楽曲を聞いて、温かみのあるサウンドや物語を秘めた歌詞に惹かれたという方は、是非くるりの他の楽曲もチェックしてみてください。
