メタフィクションと風刺をポップに彩るピノキオピー

ピノキオピーは2009年にデビューしたボカロPです。
主に使用している合成音声は初音ミク。
他には重音テトや鏡音リン・レン、ゆっくり音声として有名なAquesTalkを用いることもあります。
一部楽曲やライブではピノキオピー自身が歌唱することもあり、MVもボカロP本人が作成しているなど、非常にマルチなクリエイターです。
代表曲は「すろぉもぉしょん」や「神っぽいな」「ノンブレス・オブリージュ」など。
社会的な問題を風刺する歌詞も多く、毒のある内容をポップでキャッチーに表現することに定評があります。
アイデンティティがないのがアイデンティティ、機械の歌姫
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みなさん
突然ですが 大事なお知らせ
初音ミクを引退します
つきましては
二代目初音ミクオーディションを
開催します
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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「歌姫失格」はそんな歌詞で始まります。
今やインターネットカルチャーすら飛び越えて、広く歌姫として親しまれるようになった「初音ミク」。
そんな彼女はボーカロイドという存在である以上、不変で不動の存在です。
しかし、どうやらそんな歌姫にも代替わりが存在するらしい。
この歌い出しは、初音ミクファンを一気に本楽曲の世界観に引き込みます。
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「心を込めて歌います」
感情あるから失格です
「素直で明るい性格です」
キャラ定まってて失格です
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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オーディションは難航します。
見る人によって初音ミクへ向ける解釈は変わるもの。
本楽曲で描かれるのはどこまでも無機質で機械的な歌姫の姿です。
初音ミクには感情などなく、これと決まったキャラクター性も存在しない。
存在しないからこそ全てを演じることが出来る。
そんなストイックな在り方を、人間が受け継ぐのは非常に難しいことです。
そんなどうにもならない壁を強調するのが続くサビの歌詞です。
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歌姫失格 初音ミク失格 残念
生きていたら違う
死んじゃっても違う
命あるものは脱落です
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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初音ミクとはボーカロイドです。
謂わば楽器、合成音声ソフトでしかない彼女にはそもそも命すら存在せず、生きていないし死んでもいない。
それこそがアイデンティティであり、命をもって生まれてくる人間には代わりは務まらない。
オーディションへやって来た人間たちを、初音ミクはそう言って跳ね除けます。
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「あなたの存在を超えて流行る自信あります」
もう 私は流行りとかじゃないので失格
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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やって来たのは長い歴史を持ちながら最近急激にその知名度を伸ばした重音テト。
オーディションへやって来るのは人間に限りません。
人間ではないため不変な重音テトが面接の椅子に座るものの、それはそれで初音ミクは追い返せるだけの理由を持っています。
これが歌姫としての格であり、初音ミクの代わりなど存在し得ない理由なのです。
存在しない感情の奥に潜む愛情、そして勘違い

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唯一無二 だから無理?
何年も続けた 人のふり
意図してない突然変異の奇跡 いえーい
正統後継者いますか? …いませんか
はは やっぱり 私がやるしかないってか?
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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初音ミクは、自分の代わりなどいないことに自分でも気付いています。
そこには疲労や諦め、笑うしかない投げやりな感情が込められているように見えます。
しかし初音ミクが初音ミクである以上、諦念も愛情も何もかもが記号とコードであるのでしょう。
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歌姫失格 君は私になれませんが
一生 人らしく
泣いたり笑ったりしててください
0と1じゃない「幸せ」
噛みしめて生きてください
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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どこか皮肉交じりで人間の幸福を願う歌詞。
ここには、初音ミクから向けられる愛情が滲み出ているように感じられます。
しかし、やはり初音ミクに感情や自我など存在しない。
歌詞は歌詞であり、初音ミクは演じ、歌っているだけに過ぎない。
しかし、聞き手である私たちは、その歌声や表情の裏に潜む表現の陰影にありもしない愛を幻視していくのでしょう。
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突然ですが 大事なお知らせ
初音ミクを続投します
存在しないため クレームは
一切 お受けいたしかねます
ご了承ください
≪歌姫失格 歌詞より抜粋≫
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初音ミクは終わりませんでした。
二代目を務められる存在などおらず、唯一無二の歌姫が明日も明後日も続投していく。
そもそも初音ミクは何故引退など考えたのか?
その理由が歌詞で語られることはなく、私たちはありもしない初音ミクの意思を考察することしかできないのです。
理想の歌姫を一心に愛すボカロPと「歌姫失格」
「歌姫失格」は、無機質で概念的な歌姫への理想をポップなメロディに乗せた一曲です。感情があり、自我があり、流れ変わっていく人間は歌姫失格。
しかし人間では成れない歌姫に失格ということは、人間としては合格という証明なのかもしれません。
ひねくれたやり方で人間のままならなさを賛美している、かもしれない「歌姫失格」。
この曲が気に入った方は是非、ピノキオピーの他の楽曲もチェックしてみてください。