退廃的な世界観のハードなロックで魅せるトーマ
トーマは2010年にデビューしたボカロPです。使用している合成音声は初音ミクとGUMI。
ハードロックに退廃的な歌詞、かすれ気味の調声など独特の世界観を持つアーティストです。
「零に還る世界」でデビューし「バビロン」で自身初の殿堂入り。
以降はヒット曲を多く生み出し、特に「エンヴィキャットウォーク」は代表曲として挙げられることの多い楽曲です。
活動期間は3年ほどと非常に短く、現在ボカロPとしての活動は休止中。
短いながらも多くのリスナーの心を掴んだトーマ。
その独特の世界観は今もなお色褪せず「オレンジ」はそんな彼の魅力が込められた一曲といえます。
定められた別れ、幸福を守る優しく残酷な嘘
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君のいる世界で笑ったこと、
君の見る未来を恨んだこと、
君の声、温もり、態度、愛のすべてが…
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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「オレンジ」はそんな歌詞で始まります。
過去に存在した愛や憤り、そのすべてを回顧し、懐かしむような語り口。
明言されていないにも関わらず、この歌の主人公は誰かとの日々を失い、それを深く愛していたのだと伝わってくるような歌詞です。
本楽曲はこうして未来に生きる主人公の目線で、回想のような形で展開していきます。

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海街、赤錆びた線路沿い
二人、「幸せだ」って嘘ついて
くしゃくしゃに笑う顔、繋いだ手
遠くの島、朝焼け
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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二人で海辺の街で生きる主人公たち。
手を繋ぎ、顔をくしゃくしゃに歪めて笑い合う。
しかし、主人公の唱える「幸せだ」という言葉は偽りのものです。
己の心の中の淀みを口にしてしまえば、今この瞬間の幸福も壊れてしまうのだと信じているかのように。
そしてその不安は決して杞憂ではないのでしょう。
今、この瞬間の幸福を守るため、そっとガラス細工に触れるように、主人公は嘘をつきます。

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もう二人に明日がないことも
ただ、ずっと。そう、ずっと
隠してしまおう。
残される君に届く ただひとつを
今でも、探してる。
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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主人公の心の中の不安は、この先二人が長く一緒にいられないことを確信しているためのものでした。
その理由は、曲を通して明確に描かれることはありません。
しかし、MVで描かれるのは瓜二つの顔をした黒いワンピースの少女と白いワンピースの少女。
二人は双子でしょうか、友人でしょうか。
それとも二重人格、イマジナリーフレンド、ドッペルゲンガーなど、想像が膨らみます。
ただ、どう考察しても変わらない前提条件は、主人公はどうしても愛するもう一人を置いて、未来へ歩いていかなければならないということです。

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「元気でいますか。」
「笑顔は枯れてませんか。」
「他の誰かを深く深く、愛せていますか。」
ずっと来るはずない君との日を願ったこと
鍵かけて。
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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愛する人に笑顔で、元気でいて、そして自分ではない誰かを愛して、新しい幸福を掴んでほしいこと。
そんな前向きな言葉を差し出して、主人公は心の奥底に消せない執着を仕舞い込みます。
それは、嘘を抱え続け愛する相手の未来を祈る強さだったのでしょうか。
それとも、綺麗な思い出のまま幸福な過去を覚えておきたい弱さだったのでしょうか。
言えなかった、言わなかった愛と執着

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歳月が巡って 声を辿って
また生まれ変わったら
真っ先に君に会いに行こう。
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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主人公と愛する人の離別。それは、今生の別れです。
再びめぐり会うのはきっと、生まれ変わった後のこと。
しかし来世で自由な足を手に入れて、まずやりたいことは、貴方に会いにいくこと。
それを愛と呼ばず何と呼ぶのでしょうか。
あえて他に名前をつけるとすれば、それは執着でしょう。
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愛していました。
最後まで、この日まで。
それでも終わりにするのは私なのですか、
君の幸せな未来を、ただ、願ってる。
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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最後の最後、別れの日。
愛し続けた日々に別れを告げなければいけないのは、主人公の方からです。
今まで大切に嘘という真綿で包んできた日々を、自分の手で壊すということ。
無情な別れを告げるその日に主人公の愛と執着も終わりを迎え、そうして残るのは愛する人の幸福な未来です。
たとえその隣に自分がいなくても、貴方が笑っていられることを祈っている。
しかし、その言葉も二人の幸福を守るための嘘かもしれません。

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君のいる世界で笑ったこと、
君の見る未来を恨んだこと、
君の声、温もり、態度、愛のすべてに
さよなら。
≪オレンジ 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞とは、わずかに異なる歌詞で本楽曲は締めくくられます。
君の声、温もり、態度、愛のすべてに、さよなら。
では、君の声、温もり、態度、愛のすべてが……と、それに続く歌詞は何だったのでしょう。
それは決して語られることなく、余白として宙に浮かんだままです。
二人の関係性や二人の本音は歌詞にされることなく、その悲哀や愛情、切なさなど、その感情だけが私たちへダイレクトに伝わってきます。
語らない余白が物語る悲哀と祈りの「オレンジ」
「オレンジ」は異なる道へ進む愛する人への悲哀と愛、嘘と祈りを歌った一曲です。二人の関係や真意は明言されないと書きましたが、本楽曲のタイトル「オレンジ」の意味も最後まで明かされません。
考察するなら、二人で笑い合った幸福な時間の回想で用いられる「朝焼け」という単語。
それが壊れる別れの瞬間を、対照的な夕焼けのオレンジ色で表現しているのかもしれません。
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