遙か先の君へ 歌詞 CIVILIAN ふりがな付

5021年ねん6月がつ2日か
ついに最後さいごの電波塔でんぱとうが、太陽たいようの熱ねつと光線こうせんによって機能きのう不全ふぜんに陥おちいりつつある。
これが焼やけ落おちれば、いよいよ僕ぼくらは外界がいかいから完全かんぜんに遮断しゃだんされ、
今度こんどこそ完全かんぜんにこの世界せかいから孤立こりつすることになるだろう。
かつて海底かいていケーブルや人口じんこう衛星えいせいや無数むすうの電波塔でんぱとうによって世界せかい中じゅうに張はり巡めぐらされていた電波でんぱの糸いとは、
今いまはもう、この場所ばしょを除のぞいてすべてが壊こわれ、使つかい物ものにならなくなった。
ここ以外いがいの人間にんげんが無事ぶじでいるのかどうかすらも、ここからではよく分わからない。
いま思おもえば、兆候ちょうこうはそこかしこにあったのだと思おもう。
戦争せんそうの後遺症こういしょうか、行いき過すぎた科学かがくの代償だいしょうか、自然しぜんの猛威もういか、あるいは神かみの思おぼし召めしか、
原因げんいんが何なんだったのか、それはもう誰だれにも分わからない。調しらべる術すべももうここには無ない。
ひとつだけ確たしかなのは、僕ぼくらの命運めいうんは、どうやらここで途絶とだえるということだけだ。
ある日ひを境さかいに、地球ちきゅうは太陽たいようの公転こうてん軌道きどうから外はずれ、
少すこしずつ少すこしずつ、太陽たいように近付ちかづき、太陽たいように飲のみ込こまれるルートを辿たどり始はじめた。

泣なき喚わめく人ひと、跪ひざまずいて祈いのる人ひと、自暴じぼう自棄じきになる人ひと、理性的りせいてきであろうとする人ひと、
世界せかい中じゅうから阿鼻叫喚あびきょうかんが聞きこえ、そのあと少すこしずつ終おわりはやってきた。
今いまや地平線ちへいせんを覆おおいつくすほどに近付ちかづいた、あの巨大きょだいな赤あかい星ほしは、
今いままで与あたえてきた恩恵おんけいを全すべて返かえせと言いわんばかりに、殺人的さつじんてきな熱ねつと光ひかりを地表ちひょうにまき散ちらしている。
防護服ぼうごふく無なしではもう一いっ歩ぽも外そとへ出でられない。ここだっていつまで耐たえられるのか分わからない。
かつて触ふれ合あった人々ひとびとは何処どこにいるのだろうか。薄暗うすぐらいシェルターの中なかでこれを書かいている。
少すくなくとも、私わたしが生うまれた時ときから世界せかいはこうだった。顔かおを覆おおったフェイスシールド越ごしに見みる空そらが、いつも通どおりの私わたしの空そらだ。
世界せかいは全すべて紙一重かみひとえのバランスで成なり立たっている。地球ちきゅうに生命せいめいが生うまれたことも、
そこから人類じんるいが生うまれたことも、偶然ぐうぜん地球ちきゅうが太陽たいようの周まわりを回まわり続つづけたことも。
それなら今いまこうして私わたし達たちが直面ちょくめんしている世界せかいも、危機ききも、ほんの僅わずかなボタンの掛かけ違ちがいでしかないのかもしれない。
私わたし達たちの世界せかいはもともと不確ふたしかだ。何なにがどうなっていつ日常にちじょうが崩くずれても、何なにも不思議ふしぎではない。
それでも、私わたしは思おもう。なぜ今いまなのですか。なぜ私わたし達たちなのですか。なぜこんなことになったのですか。
世界せかいを元もとに戻もどしてください、神様かみさま。

遥はるか先さきの君きみへ
どうか忘わすれないでいて
2021年ねん6月がつ2日か
僕等ぼくらがここに居いたことを