湯島ゆしま通とおれば 思おもい出だす
お蔦つた主税ちからの 心意気こころいき
知しるや白梅はくばい 玉垣たまがきに
のこる二人ふたりの 影法師かげぼうし
「お蔦つた、俺おれとこのまま別わかれてくれ」
「何なにを云いうのよ。
別わかれろ切きれろは芸者げいしゃの時ときに云いうものよ。
私わたしにゃ死しねと云いって下くださいな。
蔦つたには枯かれろとおっしゃいましな………。
え? 別わかれろとおっしゃったのは、
真砂町まさごちょうの先生せんせいですか……
それじゃアその時ときお前まえさん、
私わたしと切きれると云いったのね…
……早瀬はやせさん、よくおっしゃった。
男おとこはそれで立たちました。」
未練みれんで云いうのじゃないけれど
愛いとしい夫おっとの為ためならば
女房にょうぼうがきかれぬわけはない
それをきかなきゃ早瀬はやせさん
女おんなの系図けいずに傷きずがつく
忘わすれられよか 筒井筒つついづつ
岸きしの柳やなぎの 縁結えんむすび
かたい契ちぎりを 義理ぎりゆえに
水みずに流ながすも 江戸えど育そだち
「お蔦つた、すまん許ゆるしてくれ。せめて最後さいごに、
好すきな我わがままを言いってくれ」
「ハイ。………………じゃア、
手てをひいて………」
青あおい瓦斯がす燈とう 境内けいだいを
出でれば 本郷ほんごう切通きりどおし
あかぬ別わかれの 中空なかぞらに
鐘かねは墨絵すみえの 上野山うえのやま
湯島yushima通tooればreba 思omoいi出daすsu
おo蔦tsuta主税chikaraのno 心意気kokoroiki
知shiるやruya白梅hakubai 玉垣tamagakiにni
のこるnokoru二人futariのno 影法師kageboushi
「おo蔦tsuta、俺oreとこのままtokonomama別wakaれてくれretekure」
「何naniをwo云iうのよunoyo。
別wakaれろrero切kiれろはreroha芸者geisyaのno時tokiにni云iうものよumonoyo。
私watashiにゃnya死shiねとneto云iってtte下kudaさいなsaina。
蔦tsutaにはniha枯kaれろとおっしゃいましなrerotoossyaimashina………。
えe? 別wakaれろとおっしゃったのはrerotoossyattanoha、
真砂町masagochouのno先生senseiですかdesuka……
それじゃsorejaアaそのsono時tokiおo前maeさんsan、
私watashiとto切kiれるとreruto云iったのねttanone…
……早瀬hayaseさんsan、よくおっしゃったyokuossyatta。
男otokoはそれでhasorede立taちましたchimashita。」
未練mirenでde云iうのじゃないけれどunojanaikeredo
愛itoしいshii夫ottoのno為tameならばnaraba
女房nyoubouがきかれぬわけはないgakikarenuwakehanai
それをきかなきゃsorewokikanakya早瀬hayaseさんsan
女onnaのno系図keizuにni傷kizuがつくgatsuku
忘wasuれられよかrerareyoka 筒井筒tsutsuidutsu
岸kishiのno柳yanagiのno 縁結enmusuびbi
かたいkatai契chigiりをriwo 義理giriゆえにyueni
水mizuにni流nagaすもsumo 江戸edo育sodaちchi
「おo蔦tsuta、すまんsuman許yuruしてくれshitekure。せめてsemete最後saigoにni、
好suきなkina我waがままをgamamawo言iってくれttekure」
「ハイhai。………………じゃjaアa、
手teをひいてwohiite………」
青aoいi瓦斯gasu燈tou 境内keidaiをwo
出deればreba 本郷hongou切通kiridooしshi
あかぬakanu別wakaれのreno 中空nakazoraにni
鐘kaneはha墨絵sumieのno 上野山uenoyama