春さんゑ 歌詞 真壁寂室 ふりがな付

拝啓はいけい
山百合やまゆり揺ゆれる夜よる
眠ねむれずに手紙てがみを認みとめます。
不器用ぶきように戀こいして居いた事こと。
想おもゐ出だします。鮮明せんめいに。

「私わたしノ事こと好すキデスカ?」
「一緒いっしょニ居いタヰト想おもヰマス」
「私わたしノ事こと、好すキデスカ?」
「逢あヰタヰ。ト想おもヰマス」

そんな御返事おへんじばかりでした。
「好すキデス」が言いへませんでした。
自信じしんを持もて無なゐ似にた者同士ものどうし
故ゆえのすれ違ちがゐだつたのです。
「髪かみヲ切きリタヰ」ゐつかの手紙てがみ
本当ほんとうは嬉うれししかつたのです。
けれどもこんな時代じだいですから、
其その背中せなかを押おせなかつたのです。

自分じぶんの事ことを
自分じぶんが愛あいせずして
他人ひとの事ことを愛あいせやしなゐ。と
貴方あなたを想おもふ事ことで知しりました。

単純たんじゅん明快めいかいな「好すキ」でさへ
遠回とおまわりをして愛あいは泡沫うたかた
如何どうして言いえなかつたのでせう。
今いまならば、きつと。。
愛あいされて居い無なゐのだと
貴方あなたが想おもゐ悩なやんだすゑ
私わたしに下くださつた「左様さようナラ。」が
今いまでも咲さゐて居います。

あれからずつと
青空あおぞらも花はなの香かおりも
何なにも感かんじ無なゐのです。
...貴方あなたが居いなゐだけなのに。。

ハルさん。
今いまも変かわらず御お元氣げんきですか?
綺麗きれいな笑顏えがお、咲さかせて居いますか?
「モツト自分じぶんヲ愛あいシタヰノ。」
貴方あなたからの最後さいごの言葉ことば
あゐも変かわらず今日きょうも私わたしは
貴方あなたに憧あこがれ、戀こいに焦こがれて。
遥はるか遠とおゐ海老茶えびちゃ色ちゃいろの春はる。
貴方あなたらしゐ色いろで居いて下くださゐ。

何時いつかはきつと
忘わすれられるだらう。と
数かぞゑ切きれぬ夜よるを越こへて
明日あすも同おなじ事ことを想おもふでせう。

複雑怪奇ふくざつかいきな「好すキ」なのです。
想おもゐ出では美うつくしく変かゑられて
綺麗きれい事ごとを並ならべても
今更いまさら遅おそゐのです。
貴方あなたに愛あいされる程ほど
失うしなふ怖こわさも同おなじ位くらいに
感かんじて居いたと想おもふのです。

そんな夏なつの夜よる。

ふと、考かんがえゑて仕舞しまふのです。
其それは本当ほんとうは知しりたく無なゐ事こと
貴方あなたは誰だれを想おもつて
生いきて居いるのでせう。

私わたしじゃ無なくてもゐゝいいのです。
貴方あなたに逢あゑる事ことも無なゐでせう。
此この世界せかいの誰だれよりも貴方あなたが好すきでした。
最後さいごに壱ひとつだけ。「今いまデモ好すキデス。」