歌謡芝居 九段の母 歌詞 真木柚布子 ふりがな付

上野駅うえのえきから 九きゅう段だんまで
かってしらない じれったさ
杖つえをたよりに 一日いちにちがかり
せがれきたぞや 会あいにきた

空そらをつくよな 大鳥居おおとりい
こんな立派りっぱな おやしろに
神かみとまつられ もったいなさよ
母ははは泣なけます うれしさに

【セリフ】
「せがれや とうとう来きただよ やっと来きただよ
この命いのちのあるうちに 足腰あしこしの動うごくうちに
一度いちどは参さんらにゃ死しぬにも死しねん思おもいじゃった
病気びょうきでずーっと寝ねたっきりだった父とうちゃんも
去年きょねんの冬ふゆ とうとうおめぇの傍そばへ
行いってしもうて 母かあちゃん 一人ひとりぼっちになってしもうた
せがれや 父とうちゃんに会あったかや 父とうちゃんに会あったら
一緒いっしょに酒さけでも飲のんで 昔話むかしばなしや戦地せんちの話はなしをしてやってくんろ
おめぇに先立さきだたれて 父とうちゃん 心こころの支ささえを失なくした様ようじゃった
戦死せんしの知しらせを 聞きいたときゃ
握にぎり拳こぶし 床ゆかに叩たたきつけて 涙なみだこぼしていただよ
その夜よるは 布団ふとんかぶって 背中せなか震ふるわせて
ずーっとずーっと泣ないていただよ」

両手りょうてあわせて ひざまづき
おがむはずみの おねんぶつ
はっと気きづいて うろたえました
せがれゆるせよ 田舎いなかもの

鳶とびが鷹たかの子こ うんだよで
いまじゃ果報かほうが 身みにあまる
金鵄勲章きんしくんしょうが みせたいばかり
逢あいに来きたぞや 九段くだん坂さか

【セリフ】
「おめぇのお陰かげで 国くにさからぎょうさんご褒美ほうびもろて…
そうじゃ そうじゃ こんな立派りっぱな勲章くんしょうまでもろて…
それにな 村むらの役場やくばの偉いえお人ひとも母かあちゃんに頭あたまを下さげてくんなすった
あぁ ありがてぇ あぁ もってぇねぇ…
…でもな…でもな…勲章くんしょうやお金かねをいくらもろても 母かあちゃんちっとも
嬉うれしいことなんかねぇ こんな触さわっても冷つめてえ勲章くんしょうより
おらぁ おめぇの温あったけえ
手てに触さわりてぇ…
お国くにのためじゃと おめぇは勇いさんで行いったが
帰かえって来きたときゃ ちいせえ箱はこん中なかであんな姿すがたで…
あんまりじゃ…あんまりじゃ…
玉たまが当あたってさぞや痛いたかったろう…つらかったろう…淋さびしく死しんでった
おめぇの背中せなか さすってやりてぇ…抱だきしめてやりてぇ…
母かあちゃんの作つくった芋いもの煮にっ転ころがしを食くわしてやりてぇ…
せがれや、おらぁ おめぇに会あいてぇ
一目ひとめでもええ、夢ゆめん中なかでもええ、母かあちゃんに会あいに来きてくんろ
せがれや せがれや せがれやぁ…」