大江戸かわら版 歌詞 三波春夫 ふりがな付

サーテ サテサテ サテサテ
ちょいとそこゆく ご新造しんぞうさん
熊くまさん八はちっあん ご隠居いんきょさん
天地てんち神かみ命いのち 神かみかけて
仕込しこんだネタに 嘘うそはない
涙なみだもあれば 夢ゆめもある
天下てんかご免めんの かわら版ばん

サーテ サテサテ サテサテ
義理ぎりと人情にんじょうの しがらみに
咲さくのも花はななら 散ちるも花はな
毎度まいど皆みなさま お馴染なじみの
強つよきをくじく こころ意気いき
いのちを筆ふでに 傾かたむけた
天下てんかご免めんの かわら版ばん

吉良きら家けの付つけ人びと剣豪けんごう清水しみず一角いっかくが、赤穂あこう浪士ろうしの討入うちいりに何なにんであえなく
斃たおれたか、こいつにゃ深ふけえわけがある。
皆みなさんとくとご存知ぞんじの呑のんべ安兵衛やすべえ、喧嘩けんか安やす、
堀部ほりべ安兵衛やすべえ武たけ庸ようが聞きかせてくれた裏うらばなし。
サアテその夜よる、吉良きらの屋敷やしきに乗のり込こんだ赤穂あこう浪士ろうしは四十しじゅうと七しち人にん。
一いち際目さいめに立たつ安兵衛やすべえの行ゆく手てをさえぎる清水しみず一角いっかく
「やあれ安兵衛やすべえ、久ひさし振ぶりよな。真庭まにわ念流ねんりゅう樋口ひぐちの道場どうじょう、
共ともに学まなんだ兄弟弟子きょうだいでしが刃は交かわすも宿世しゅくせの縁えん。斟酌しんしゃく無用むようー」
と呼よばわって大上段だいじょうだんに構かまえたり。

誘さそいの大刀だいとうか捨身すてみの術すべか、不思議ふしぎな事ことがあるものよ、
ただの一度いちども一角いっかくはこんな構かまえはしなかった。
「ハッ!」と気付きづいたその時ときに、降ふり下しもしたる大刀だいとう風かぜを危あぶなくかわした横よこ一文字いちもんじ。
愛あい刀がたな関せきの孫六まごろくが相手あいての胴どうに決きまったり。
雪ゆきを真赤まっかな血ちに染そめて、どうと斃たおれた一角いっかくがー

よくぞ安兵衛やすべえ 出でかしたり
お前まえに斬きられて 嬉うれしいぞ
敵てきと味方みかたに 別わかれても
誓ちかい交かわした 友ともならば
恨うらみつらみを 持もちはせぬ
忠義ちゅうぎに刃は向むかう 敵てきはなし

死出しでの旅路たびじのその真際まぎわ、口くちにゃ出ださねどそれとなく震ふるえる指ゆびで
教おしえてくれた仇あだの在所ざいしょ。
炭すみ小屋こや深ふかく吉良きら様ようがかくれひそんでいたと言いう。
どうです皆みなさんー江戸えどっ子こならば清水しみず一角いっかくの武士ぶしの情なさけに泣ないとくれ。

サーテ サテサテ サテサテ
鏡かがみは上野うえのか 浅草あさくさか
墨田すみだの川面かわもを 流ながれゆく
人ひとの浮世うきよも 流ながれゆく
せめて明日あすの しあわせを
祈いのる心こころで 書かき上あげた
天下てんかご免めんの からわ版ばん