雪ゆきヶが谷たに寮りょうは、閑静かんせいな避暑ひしょホテルとも取とれるカッテージ風ふう建物たてもので
部屋数へやかずは約やく八十はちじゅう
明あかるい食堂しょくどうや円形えんけいの湯ゆぶねのあることが判わかった
スペイン瓦がわらの赤あか屋根やねを前景ぜんけいにして、馬込まごめ村むらの丘おか々おかの横顔よこがおがあり
その手前てまえを横切よこぎって時々ときどきおもちゃのような汽車きしゃが通過つうかする
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
明方あけがた、洋服ようふく箪笥たんすのある部屋へやで目めを醒さまして
窓まどの外そとにべらぼうに大おおきな星ほしを見みた
馭者ぎょしゃ座ざは、ちょうどその上方じょうほうにあり
右寄みぎよりにオリオンの蝶々ちょうちょうにせり上あがっている
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
夕方ゆうがた、屋上おくじょうのヤグラに登のぼって、半月はんつきのおもてに西洋せいよう婦人ふじんの横顔よこがおを探さぐった
天上界てんじょうかい
そしてここから一様いちように見渡みわたすことのできる下界げかいの樹々きぎ
戦争せんそうなどは歴史れきしのうわっつらのサザナミだ
何なにもかも昔むかしのままで、しばしの悪夢あくむを見みていたのだという気きがする
(八月はちがつ十七日じゅうしちにち)
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
屋上おくじょうのパノラマ風景ふうけい
馬込まごめ村むらの一郭いっかく、木立こだちをまじえた起伏きふくが
ワーズワースという名なを連想れんそうさせる
透明とうめいな空気中くうきちゅうをカラスが三羽さんば帰かえって行いく
更さらに西方せいほうを渡わたり鳥どりが過すぎて行いった
その下方かほうに、真紅しんくに縁取ふちどられた怪異かいいな雲くもが突つっ立たっている
進駐軍しんちゅうぐんにそなえて、女おんなの子こと食糧しょくりょうがあわててかくされつつある
(八月はちがつ十九日じゅうくにち)
中庭なかにわにそよぐトウモロコシの葉はずれ
日々ひびに人々ひとびとが減へって行いく広ひろい館やかたの淋さびしい午後ごご
夕方ゆうがたの展望台てんぼうだいで兄あにと幼おさない弟おとうととの対話たいわ-
弟おとうと「兄にいちゃん、あの山やまと富士山ふじさんと同おなじかい」
兄あに「くっついているけど、富士山ふじさんの方ほうが向むこうにあるんだぞ」
弟おとうと「兄にいちゃん、お月様つきさまは生いきてるんかい」
兄あに「知しらないよ」
弟おとうと「じゃ誰だれが廻まわしているの」
兄あに「だれも廻まわしてなんかいるもんか」
弟おとうと「じゃなぜ動うごくの。雲くもも生いきているんかい。よう、教おしえておくれよ」
(八月はちがつ二十日はつか)
天候てんこう回復かいふく
風かぜ吹ふいて断雲だんうんしきりに東ひがしへ飛とび、星ほし標しめ機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はが翻ひるがえって、草々そうそうが光ひかりながらなびいている
空そらの青あおをここに移うつした露草つゆくさの一点いってん!
郵便局ゆうびんきょくの横よこで、女おんなの子このノートらしい一片いっぺんをひろった
「菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ」
と、そのノートに鉛筆えんぴつで書かいてあった
(八月はちがつ二十四日にじゅうよっか)
だいだい色いろと紺色こんいろのぼかしの真まん中なかに引ひっかかった白銀はくぎんの弓ゆみ
ヘブル人じんが眺ながめ、ヨブの眼めに映うつったのと同おなじ新月しんげつ
一昨日いっさくじつ、新宿しんじゅくで、白しろい星ほしを描えがいた、ワゴンを連つらねて乗のり込こんでくる、
アメリカ騎兵隊きへいたいを見みた
ヘルメットをかむった蝋人形ろうにんぎょうの大部隊だいぶたい
これを茫然ぼうぜんと見みやる群集ぐんしゅう
浦上うらがみ天主堂てんしゅどうにおける一いち万人まんにんの犠牲ぎせいも合あわせて
すべては新あたらしい『旧約聖書きゅうやくせいしょ』のページを繰くっている気持きもちである
(九月くがつ九日ここのか)
射さすようなヴィナス
秋日和あきびより
藤色ふじいろの富士山ふじさん
物もの皆みんなに くっきりと秋あきの影かげがついている
(九月くがつ十七日じゅうしちにち)
雪yukiヶga谷tani寮ryouはha、閑静kanseiなna避暑hisyoホテルhoteruともtomo取toれるreruカッテkatteージji風fuu建物tatemonoでde
部屋数heyakazuはha約yaku八十hachijuu
明akaるいrui食堂syokudouやya円形enkeiのno湯yuぶねのあることがbunenoarukotoga判wakaったtta
スペインsupein瓦gawaraのno赤aka屋根yaneをwo前景zenkeiにしてnishite、馬込magome村muraのno丘oka々okaのno横顔yokogaoがありgaari
そのsono手前temaeをwo横切yokogiってtte時々tokidokiおもちゃのようなomochanoyouna汽車kisyaがga通過tsuukaするsuru
菊kikuのno花hanaをちぎってwochigitte まきmaki散chiらしたようなrashitayouna星hoshi
サsaーチライトchiraitoはha着物kimonoのno井iげたのようだgetanoyouda
星sei標hyou機kiがga旋回senkaiするsuru
トウモロコシtoumorokoshiのno葉haっぱがppaga翻hirugaeってtte
菊kikuのno花hanaをちぎってwochigitte まきmaki散chiらしたようなrashitayouna星hoshi
明方akegata、洋服youfuku箪笥tansuのあるnoaru部屋heyaでde目meをwo醒saましてmashite
窓madoのno外sotoにべらぼうにniberabouni大ooきなkina星hoshiをwo見miたta
馭者gyosya座zaはha、ちょうどそのchoudosono上方jouhouにありniari
右寄migiyoりにriniオリオンorionのno蝶々chouchouにせりniseri上aがっているgatteiru
菊kikuのno花hanaをちぎってwochigitte まきmaki散chiらしたようなrashitayouna星hoshi
サsaーチライトchiraitoはha着物kimonoのno井iげたのようだgetanoyouda
夕方yuugata、屋上okujouのnoヤグラyaguraにni登noboってtte、半月hantsukiのおもてにnoomoteni西洋seiyou婦人fujinのno横顔yokogaoをwo探saguったtta
天上界tenjoukai
そしてここからsoshitekokokara一様ichiyouにni見渡miwataすことのできるsukotonodekiru下界gekaiのno樹々kigi
戦争sensouなどはnadoha歴史rekishiのうわっつらのnouwattsuranoサザナミsazanamiだda
何naniもかもmokamo昔mukashiのままでnomamade、しばしのshibashino悪夢akumuをwo見miていたのだというteitanodatoiu気kiがするgasuru
(八月hachigatsu十七日juushichinichi)
星sei標hyou機kiがga旋回senkaiするsuru
トウモロコシtoumorokoshiのno葉haっぱがppaga翻hirugaeってtte
星sei標hyou機kiがga旋回senkaiするsuru
屋上okujouのnoパノラマpanorama風景fuukei
馬込magome村muraのno一郭ikkaku、木立kodachiをまじえたwomajieta起伏kifukuがga
ワwaーズワzuwaースsuというtoiu名naをwo連想rensouさせるsaseru
透明toumeiなna空気中kuukichuuをwoカラスkarasuがga三羽sanba帰kaeってtte行iくku
更saraにni西方seihouをwo渡wataりri鳥doriがga過suぎてgite行iったtta
そのsono下方kahouにni、真紅shinkuにni縁取fuchidoられたrareta怪異kaiiなna雲kumoがga突tsuっxtu立taっているtteiru
進駐軍shinchuugunにそなえてnisonaete、女onnaのno子koとto食糧syokuryouがあわててかくされつつあるgaawatetekakusaretsutsuaru
(八月hachigatsu十九日juukunichi)
中庭nakaniwaにそよぐnisoyoguトウモロコシtoumorokoshiのno葉haずれzure
日々hibiにni人々hitobitoがga減heってtte行iくku広hiroいi館yakataのno淋sabiしいshii午後gogo
夕方yuugataのno展望台tenboudaiでde兄aniとto幼osanaいi弟otoutoとのtono対話taiwa-
弟otouto「兄niiちゃんchan、あのano山yamaとto富士山fujisanとto同onaじかいjikai」
兄ani「くっついているけどkuttsuiteirukedo、富士山fujisanのno方houがga向mukoうにあるんだぞuniarundazo」
弟otouto「兄niiちゃんchan、おo月様tsukisamaはha生iきてるんかいkiterunkai」
兄ani「知shiらないよranaiyo」
弟otouto「じゃja誰dareがga廻mawaしているのshiteiruno」
兄ani「だれもdaremo廻mawaしてなんかいるもんかshitenankairumonka」
弟otouto「じゃなぜjanaze動ugoくのkuno。雲kumoもmo生iきているんかいkiteirunkai。ようyou、教oshiえておくれよeteokureyo」
(八月hachigatsu二十日hatsuka)
天候tenkou回復kaifuku
風kaze吹fuいてite断雲danunしきりにshikirini東higashiへhe飛toびbi、星hoshi標shime機kiがga旋回senkaiするsuru
トウモロコシtoumorokoshiのno葉haがga翻hirugaeってtte、草々sousouがga光hikariながらなびいているnagaranabiiteiru
空soraのno青aoをここにwokokoni移utsuしたshita露草tsuyukusaのno一点itten!
郵便局yuubinkyokuのno横yokoでde、女onnaのno子koのnoノnoートtoらしいrashii一片ippenをひろったwohirotta
「菊kikuのno花hanaをちぎってwochigitte まきmaki散chiらしたようなrashitayouna星hoshi
サsaーチライトchiraitoはha着物kimonoのno井iげたのようだgetanoyouda」
とto、そのsonoノnoートtoにni鉛筆enpitsuでde書kaいてあったiteatta
(八月hachigatsu二十四日nijuuyokka)
だいだいdaidai色iroとto紺色koniroのぼかしのnobokashino真maんn中nakaにni引hiっかかったkkakatta白銀hakuginのno弓yumi
ヘブルheburu人jinがga眺nagaめme、ヨブyobuのno眼meにni映utsuったのとttanoto同onaじji新月shingetsu
一昨日issakujitsu、新宿shinjukuでde、白shiroいi星hoshiをwo描egaいたita、ワゴンwagonをwo連tsuraねてnete乗noりri込koんでくるndekuru、
アメリカamerika騎兵隊kiheitaiをwo見miたta
ヘルメットherumettoをかむったwokamutta蝋人形rouningyouのno大部隊daibutai
これをkorewo茫然bouzenとto見miやるyaru群集gunsyuu
浦上uragami天主堂tensyudouにおけるniokeru一ichi万人manninのno犠牲giseiもmo合aわせてwasete
すべてはsubeteha新ataraしいshii『旧約聖書kyuuyakuseisyo』のnoペpeージjiをwo繰kuっているtteiru気持kimoちであるchidearu
(九月kugatsu九日kokonoka)
射saすようなsuyounaヴィナスvinasu
秋日和akibiyori
藤色fujiiroのno富士山fujisan
物mono皆minnaにni くっきりとkukkirito秋akiのno影kageがついているgatsuiteiru
(九月kugatsu十七日juushichinichi)