よみ:ちょうへんかようろうきょく「むほうまつのこい」まつごろうとよしおかふじん
長編歌謡浪曲「無法松の恋」松五郎と吉岡夫人 歌詞
-
中村美律子
- 2016.7.6 リリース
- 作詞
- 池田政之 , 岩下俊作「富島松五郎伝」
- 作曲
- 弦哲也
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あらぶる波なみの 玄界灘げんかいなだは
男おとこの海うみというけれど
黄昏たそがれ凪なぎさを 橙色だいだいいろに
染そめて切せつない あの夕日ゆうひ
ほんなこつ ほんなこつこの俺おれは
涙なみだこらえる 無法松むほうまつ
あ~、ぼんぼんを乗のせた汽車きしゃが…。
あの小ちいさかったぼんぼんが一人ひとりで汽車きしゃに乗のっていくと。
松五郎まつごろうさん。敏雄としおはもう六むっつの子供こどもじゃありませんよ。
分わかっとります。高校生こうこうせいじゃ。けんど熊本くまもとの寄宿きしゅくに入はいらんばいかんとは、
奥おくさん、寂さびしゅうなりましょうなぁ。
ええ。生うまれて初はじめての一人暮ひとりぐらしになりました…。
なんね。心配しんぱいなか。儂わしがついとるやなかとね。
私わたし、本当ほんとうに感謝かんしゃしているんですの。主人しゅじんが亡なくなって八年はちねん。
女おんな一人ひとりであの子こを育そだててこられたのも、みんな松五郎まつごろうさんが陰かげになり
日向ひなたになって支ささえてくださったからですわ。
陸軍りくぐん大尉たいいじゃった吉岡よしおかの旦那だんなが、軍事ぐんじ演習えんしゅうで雨あめにぬれて風邪かぜを引ひいたぁ
思おもうたらあっという間まに…知しらぬ仲なかならとにもかく、その奥おくさん、いや、
忘わすれ形見がたみのぼんぼんをほうってはおけんかった。
まぁ奥おくさんには迷惑めいわくやったかもしれまっせんな…。
いいえ、私わたしの方ほうこそ、私わたしの意地いじに松五郎まつごろうさんを
巻まき込こんでしまったのではないかと、悔くやんでいるんですわ。
エッ、奥おくさんの意地いじ? そりゃ何なにですかいのう?
今いまだからお話はなしします。主人しゅじんが亡なくなってしばらくした頃ころ、
実家じっかの兄あにから再婚さいこん話はなしが持もち込こまれたのです。
え…いや、奥おくさんなら当然とうぜんじゃ…。
でもね、私わたしは主人しゅじんを愛あいしていました。
私わたしの夫おっとは、吉岡よしおか小太郎こたろう ただひとりなんです。
ひとたび嫁とついだ この身みには
帰かえる家いえなど ありはせぬ
まして来世らいせも 誓ちかったからにゃ
岩いわをも通とおす 意地いじなれど
幾夜いくよもつらさに エ~エ~エ~忍しのび泣なき
たった一ひとつの 生いき甲斐がいは
夫おっとに似にてきた 愛いとしい我わが子こ
この子この為ためなら 我わが命いのち
いつでも捨すてて みせましょう
この子こは夫おっとの 子こぉじゃもの
…それほどまでに旦那だんなのことを…。
ごめんなさい。松五郎まつごろうさんにこんなことを聞きかせてしまって…。
…吉岡よしおかの旦那だんなは幸しあわせもんばい…ほんなこつ幸しあわせもんばい!…。
学がくもなければ 天涯孤独てんがいこどく
ついた仇名あだなが 無法松むほうまつ
そんなおいらが 怪我けがをした
子供こどもを介抱かいほう したのが縁えん
やがて八年はちねん 今いまはもう
一人暮ひとりぐらしの 未亡人みぼうじん
拳こぶしを握にぎり 歯はを食くいしばり
秘ひめた想おもいを 誰だれが知しろ
松五郎まつごろうさん。
こ、こりゃ奥おくさん…。
どうなさったんです。敏雄としおが熊本くまもとに行いって以来いらい、
ちっともいらしてくださらないじゃありませんか。
私わたしに何なにか落おち度たびでもありましたか?
滅相めっそうもない。けど、儂わしゃ儂わしゃぼんぼんの係かかりばい。
ぼんぼんがおらんあの家いえは、
奥おくさんと亡なくなった旦那だんなの家いえですけん! そいじゃ!
待まって! 松五郎まつごろうさん、敏雄としおが帰かえってくるんですよ!
え。奥おくさん、それはほんなこつ!
ええ。夏休なつやすみに、高校こうこうの先生せんせいを連つれて。
小倉おぐらの祇園祭ぎおんまつりが見みたいとか仰おっしゃって…。
そいつぁ、そいつぁ一ひとつ、楽たのしんでもらわんといかんばい。そうかいの。
そうかいの。ぼんぼんが帰かえってくる。ぼんぼんが、ぼんぼんが帰かえってくる!
先生せんせい、ぼんぼん。あれが音おとに聞きこえた祇園ぎおん太鼓だいこじゃ。
ゆっくりご覧らん下くださいと言いいたいところやが、あれは蛙かえる打うちちゅうて、
本物ほんものの打うち方かたやなかと。
今いまじゃ本物ほんものを叩たたける奴やつがおらんようになってしもたけん、
本物ほんものはあんなもんじゃなかとですよ。ねぇ奥おくさん。
私わたしが吉岡よしおか家けに嫁とついで、この小倉おぐらに来きた頃ころはもうあの打うち方かたでしたわ。
そいじゃ一ひとつほんまもんをご披露ひろうしようかいのう。奥おくさん、どうじゃろ?
お願ねがいできますか。
よぉ~し、松五郎まつごろうの一世一代いっせいちだいの祇園ぎおん太鼓たいこ、よお見みとってくださいや。
おおい、ちょいと打うたせてくれ。ええか、これが今いま打うちよった蛙かえる打うち。
そしてこれが流ながれ打うち。
さぁこれが勇いさみ駒こま…そして奥おくさん、これが暴あばれ打うちじゃ!
夏休なつやすみが終おわり、敏雄としおが熊本くまもとの寄宿きしゅくに戻もどってしまったら、
また淋さびしい日々ひびがやってきます。
でも本当ほんとうに寂さびしいのは松五郎まつごろうさんなのかもしれません。
奥おくさん、儂わしゃあ寂さびしゅうてつらい。寂さびしゅうてつらい…私わたしには太鼓たいこの音おとが、
松五郎まつごろうさんの心こころの声こえに聞きこえたのでした。
汗あせも飛とび散ちる 暴あばれ打うち
命いのちをかけた あの音おとは
万来ばんらい衆しゅうの 目めに写うつる
これぞ無法松むほうまつ 晴はれ姿すがた
これが無法松むほうまつ 祇園ぎおん太鼓たいこの 打うち納おさめじゃ
秋あきになって、松五郎まつごろうさんはまたお顔かおを見みせてはくれなくなりました。
人ひとの噂うわさで、
長年ながねんやめていたお酒さけを浴あびるように飲のんで、
すさんだ暮くらしをしていると聞ききました。
一度いちどお尋たずねせねばと思おもっていた矢先やさき、
ああ、冷ひえると思おもうたら雪ゆきじゃ…ん、
ここはぼんぼんが通かようた小学校しょうがっこうやなかと…
ああ、ぼんぼんじゃ、ぼんぼんがおる。いや、そんな筈はずはなか。
ぼんぼんは熊本くまもとの高校こうこうばい。けど、ぼんぼんが見みえる。
ぼんぼんが唱歌しょうかを歌うたうちょる。あれあれ、
奥おくさん?奥おくさんもおるとね。今日きょうは参観日さんかんびやったと。
まぁまぁ晴はれ着ぎば着きんしゃって。奥おくさん、綺麗きれいばい。
まっこと奥おくさんは儂わしの女神めがみ様さまばい…奥おくさん…儂わしゃ… 儂わしゃ…
奥おくさん!
はい。吉岡よしおかです。繋つないでくださいまし…はい。え? 松五郎まつごろうさんが!
そんな、
松五郎まつごろうさんが…。
雪ゆきの朝あさ、小学校しょうがっこうの校庭こうていで、松五郎まつごろうさんが亡なくなっていました。
松五郎まつごろうさんには幼おさない
日ひの敏雄としおが見みえていたのかもしれません。
そのお顔かおはそれはそれは幸しあわせそうに微笑ほほえみ
んでいらしたそうです…。松五郎まつごろうさんの寝起ねおきする宿やどには
柳行李やなぎごうりが一ひとつ残のこされていました。その中なかには、毎年まいとしお正月しょうがつに差さし上あげていた
お年玉としだまが、封ふうも切きらずに。それと五百円ごひゃくえんもの大金たいきんが預あずけられた、
私わたしと敏雄としお名義めいぎの貯金ちょきん通帳つうちょうが、そっと、そっと置おいてありました!
…松五郎まつごろうさん、貴方あなたという人ひとは!…。
この十年じゅうねん、あなたに甘あまえるばかりで、何一なにひとつ応こたえてあげられなかった…
私わたしはあなたの気持きもちに気きづいていました…
なのに、なのに私わたしは…許ゆるしてください、松五郎まつごろうさん!
届とどかぬ想おもい 実みのらぬ恋こいを
祇園ぎおん太鼓たいこに 打うち込こめて
腕うでも折おれよう 命いのちもいらぬ
これが松五郎まつごろう 暴あばれ打うち
これでよか これでよか夢ゆめ花火はなび
男おとこ一途いちずは 無法松むほうまつ
男おとこの海うみというけれど
黄昏たそがれ凪なぎさを 橙色だいだいいろに
染そめて切せつない あの夕日ゆうひ
ほんなこつ ほんなこつこの俺おれは
涙なみだこらえる 無法松むほうまつ
あ~、ぼんぼんを乗のせた汽車きしゃが…。
あの小ちいさかったぼんぼんが一人ひとりで汽車きしゃに乗のっていくと。
松五郎まつごろうさん。敏雄としおはもう六むっつの子供こどもじゃありませんよ。
分わかっとります。高校生こうこうせいじゃ。けんど熊本くまもとの寄宿きしゅくに入はいらんばいかんとは、
奥おくさん、寂さびしゅうなりましょうなぁ。
ええ。生うまれて初はじめての一人暮ひとりぐらしになりました…。
なんね。心配しんぱいなか。儂わしがついとるやなかとね。
私わたし、本当ほんとうに感謝かんしゃしているんですの。主人しゅじんが亡なくなって八年はちねん。
女おんな一人ひとりであの子こを育そだててこられたのも、みんな松五郎まつごろうさんが陰かげになり
日向ひなたになって支ささえてくださったからですわ。
陸軍りくぐん大尉たいいじゃった吉岡よしおかの旦那だんなが、軍事ぐんじ演習えんしゅうで雨あめにぬれて風邪かぜを引ひいたぁ
思おもうたらあっという間まに…知しらぬ仲なかならとにもかく、その奥おくさん、いや、
忘わすれ形見がたみのぼんぼんをほうってはおけんかった。
まぁ奥おくさんには迷惑めいわくやったかもしれまっせんな…。
いいえ、私わたしの方ほうこそ、私わたしの意地いじに松五郎まつごろうさんを
巻まき込こんでしまったのではないかと、悔くやんでいるんですわ。
エッ、奥おくさんの意地いじ? そりゃ何なにですかいのう?
今いまだからお話はなしします。主人しゅじんが亡なくなってしばらくした頃ころ、
実家じっかの兄あにから再婚さいこん話はなしが持もち込こまれたのです。
え…いや、奥おくさんなら当然とうぜんじゃ…。
でもね、私わたしは主人しゅじんを愛あいしていました。
私わたしの夫おっとは、吉岡よしおか小太郎こたろう ただひとりなんです。
ひとたび嫁とついだ この身みには
帰かえる家いえなど ありはせぬ
まして来世らいせも 誓ちかったからにゃ
岩いわをも通とおす 意地いじなれど
幾夜いくよもつらさに エ~エ~エ~忍しのび泣なき
たった一ひとつの 生いき甲斐がいは
夫おっとに似にてきた 愛いとしい我わが子こ
この子この為ためなら 我わが命いのち
いつでも捨すてて みせましょう
この子こは夫おっとの 子こぉじゃもの
…それほどまでに旦那だんなのことを…。
ごめんなさい。松五郎まつごろうさんにこんなことを聞きかせてしまって…。
…吉岡よしおかの旦那だんなは幸しあわせもんばい…ほんなこつ幸しあわせもんばい!…。
学がくもなければ 天涯孤独てんがいこどく
ついた仇名あだなが 無法松むほうまつ
そんなおいらが 怪我けがをした
子供こどもを介抱かいほう したのが縁えん
やがて八年はちねん 今いまはもう
一人暮ひとりぐらしの 未亡人みぼうじん
拳こぶしを握にぎり 歯はを食くいしばり
秘ひめた想おもいを 誰だれが知しろ
松五郎まつごろうさん。
こ、こりゃ奥おくさん…。
どうなさったんです。敏雄としおが熊本くまもとに行いって以来いらい、
ちっともいらしてくださらないじゃありませんか。
私わたしに何なにか落おち度たびでもありましたか?
滅相めっそうもない。けど、儂わしゃ儂わしゃぼんぼんの係かかりばい。
ぼんぼんがおらんあの家いえは、
奥おくさんと亡なくなった旦那だんなの家いえですけん! そいじゃ!
待まって! 松五郎まつごろうさん、敏雄としおが帰かえってくるんですよ!
え。奥おくさん、それはほんなこつ!
ええ。夏休なつやすみに、高校こうこうの先生せんせいを連つれて。
小倉おぐらの祇園祭ぎおんまつりが見みたいとか仰おっしゃって…。
そいつぁ、そいつぁ一ひとつ、楽たのしんでもらわんといかんばい。そうかいの。
そうかいの。ぼんぼんが帰かえってくる。ぼんぼんが、ぼんぼんが帰かえってくる!
先生せんせい、ぼんぼん。あれが音おとに聞きこえた祇園ぎおん太鼓だいこじゃ。
ゆっくりご覧らん下くださいと言いいたいところやが、あれは蛙かえる打うちちゅうて、
本物ほんものの打うち方かたやなかと。
今いまじゃ本物ほんものを叩たたける奴やつがおらんようになってしもたけん、
本物ほんものはあんなもんじゃなかとですよ。ねぇ奥おくさん。
私わたしが吉岡よしおか家けに嫁とついで、この小倉おぐらに来きた頃ころはもうあの打うち方かたでしたわ。
そいじゃ一ひとつほんまもんをご披露ひろうしようかいのう。奥おくさん、どうじゃろ?
お願ねがいできますか。
よぉ~し、松五郎まつごろうの一世一代いっせいちだいの祇園ぎおん太鼓たいこ、よお見みとってくださいや。
おおい、ちょいと打うたせてくれ。ええか、これが今いま打うちよった蛙かえる打うち。
そしてこれが流ながれ打うち。
さぁこれが勇いさみ駒こま…そして奥おくさん、これが暴あばれ打うちじゃ!
夏休なつやすみが終おわり、敏雄としおが熊本くまもとの寄宿きしゅくに戻もどってしまったら、
また淋さびしい日々ひびがやってきます。
でも本当ほんとうに寂さびしいのは松五郎まつごろうさんなのかもしれません。
奥おくさん、儂わしゃあ寂さびしゅうてつらい。寂さびしゅうてつらい…私わたしには太鼓たいこの音おとが、
松五郎まつごろうさんの心こころの声こえに聞きこえたのでした。
汗あせも飛とび散ちる 暴あばれ打うち
命いのちをかけた あの音おとは
万来ばんらい衆しゅうの 目めに写うつる
これぞ無法松むほうまつ 晴はれ姿すがた
これが無法松むほうまつ 祇園ぎおん太鼓たいこの 打うち納おさめじゃ
秋あきになって、松五郎まつごろうさんはまたお顔かおを見みせてはくれなくなりました。
人ひとの噂うわさで、
長年ながねんやめていたお酒さけを浴あびるように飲のんで、
すさんだ暮くらしをしていると聞ききました。
一度いちどお尋たずねせねばと思おもっていた矢先やさき、
ああ、冷ひえると思おもうたら雪ゆきじゃ…ん、
ここはぼんぼんが通かようた小学校しょうがっこうやなかと…
ああ、ぼんぼんじゃ、ぼんぼんがおる。いや、そんな筈はずはなか。
ぼんぼんは熊本くまもとの高校こうこうばい。けど、ぼんぼんが見みえる。
ぼんぼんが唱歌しょうかを歌うたうちょる。あれあれ、
奥おくさん?奥おくさんもおるとね。今日きょうは参観日さんかんびやったと。
まぁまぁ晴はれ着ぎば着きんしゃって。奥おくさん、綺麗きれいばい。
まっこと奥おくさんは儂わしの女神めがみ様さまばい…奥おくさん…儂わしゃ… 儂わしゃ…
奥おくさん!
はい。吉岡よしおかです。繋つないでくださいまし…はい。え? 松五郎まつごろうさんが!
そんな、
松五郎まつごろうさんが…。
雪ゆきの朝あさ、小学校しょうがっこうの校庭こうていで、松五郎まつごろうさんが亡なくなっていました。
松五郎まつごろうさんには幼おさない
日ひの敏雄としおが見みえていたのかもしれません。
そのお顔かおはそれはそれは幸しあわせそうに微笑ほほえみ
んでいらしたそうです…。松五郎まつごろうさんの寝起ねおきする宿やどには
柳行李やなぎごうりが一ひとつ残のこされていました。その中なかには、毎年まいとしお正月しょうがつに差さし上あげていた
お年玉としだまが、封ふうも切きらずに。それと五百円ごひゃくえんもの大金たいきんが預あずけられた、
私わたしと敏雄としお名義めいぎの貯金ちょきん通帳つうちょうが、そっと、そっと置おいてありました!
…松五郎まつごろうさん、貴方あなたという人ひとは!…。
この十年じゅうねん、あなたに甘あまえるばかりで、何一なにひとつ応こたえてあげられなかった…
私わたしはあなたの気持きもちに気きづいていました…
なのに、なのに私わたしは…許ゆるしてください、松五郎まつごろうさん!
届とどかぬ想おもい 実みのらぬ恋こいを
祇園ぎおん太鼓たいこに 打うち込こめて
腕うでも折おれよう 命いのちもいらぬ
これが松五郎まつごろう 暴あばれ打うち
これでよか これでよか夢ゆめ花火はなび
男おとこ一途いちずは 無法松むほうまつ