-序じょ-
元禄げんろく十じゅう四年よねん三月さんがつ十四日じゅうよっか、この日ひは朝あさからの曇くもり空ぞら、
春はるとは言いえど肌寒はだざむい日ひであった。
東山ひがしやま天皇てんのうの勅使ちょくし前大納言さきのだいなごん柳原やなぎはら資廉すけかど、
前中納言さきのちゅうなごん高野たかの保春やすはる、霊元れいげん上皇じょうこうの
院使いんし 前大納言さきのだいなごん 清閑寺せいかんじ熙定ひろさだに対たいして徳川とくがわ幕府ばくふが行おこなう
年頭ねんとうのしかも最後さいごの儀式ぎしきの日ひであった。
浅野あさの長矩ながのり「吉良きら殿どの 吉良きら殿どの 勅使ちょくしに対たいし奉たてまつりこの浅野あさの長矩ながのりが
お出迎でむかえする場所ばしょはお玄関げんかん
式台しきだい下したにござりましょうか、それとも上うえにござりましょうか、
今いま一度いちどお教おしえ下くだされましょう」
吉野よしの上野介こうずけのすけ「何度なんど言いうたら解わかるのじゃ さてさて頭あたまの悪わるい田舎いなか大名だいみょう
それでも饗応きょうおう役やくか お主ぬしの様ような人間にんげんを鮒ふな侍さむらいと申もうすのじゃ ウフフフ
えッ!! そこを退のけかっしゃれ!!」
浅野あさの「うーむ 余あまりと言いえば己おのれ!上野こうずけ 覚悟かくご!!」
武士もののふが
刃はを一ひと度たび 抜ぬく時ときは
死しぬも 生いきるも命いのちがけ
千代田ちよだの城しろの 奥深おくぶかき
あゝああ松まつの廊下ろうか
花はなに恨うらみの 風かぜが吹ふく
「放はなして下くだされ梶川かじかわ殿どの 五万三千ごまんさんぜん石ごく 家いえをも身みをも省かえりみず
上野介こうずけのすけを討うつは、将軍家しょうぐんけの御威光いこうと役職やくしょくを笠かさに着きて
私利私欲しりしよくに走はしる人非人にんぴにんを斬きる為ためじゃその手てを放はなして討うたして下くだされ梶川かじかわ殿どの!!」
武士ぶしの
情なさけを 貴殿きでんが知しるならば
止とめて呉くれるな 手てを放はなせ
男おとこの怒いかり 燃もゆる時とき
あゝああ松まつの廊下ろうか
床ゆかに 流ながした血ちの涙なみだ
武士ぶしの
厳きびしき 運命うんめいが恨うらめしや
明日あしたの命いのちは すでになく
無念むねんが残のこる 千代田ちよだ城じょう
あゝああ松まつの廊下ろうか
忠臣蔵ちゅうしんぐらの 幕まくが開あく
-序jo-
元禄genroku十juu四年yonen三月sangatsu十四日juuyokka、このkono日hiはha朝asaからのkarano曇kumoりri空zora、
春haruとはtoha言iえどedo肌寒hadazamuいi日hiであったdeatta。
東山higashiyama天皇tennouのno勅使chokushi前大納言sakinodainagon柳原yanagihara資廉sukekado、
前中納言sakinochuunagon高野takano保春yasuharu、霊元reigen上皇joukouのno
院使inshi 前大納言sakinodainagon 清閑寺seikanji熙定hirosadaにni対taiしてshite徳川tokugawa幕府bakufuがga行okonaうu
年頭nentouのしかもnoshikamo最後saigoのno儀式gishikiのno日hiであったdeatta。
浅野asano長矩naganori「吉良kira殿dono 吉良kira殿dono 勅使chokushiにni対taiしshi奉tatematsuりこのrikono浅野asano長矩naganoriがga
おo出迎demukaえするesuru場所basyoはおhao玄関genkan
式台shikidai下shitaにござりましょうかnigozarimasyouka、それともsoretomo上ueにござりましょうかnigozarimasyouka、
今ima一度ichidoおo教oshiえe下kudaされましょうsaremasyou」
吉野yoshino上野介kouzukenosuke「何度nando言iうたらutara解wakaるのじゃrunoja さてさてsatesate頭atamaのno悪waruいi田舎inaka大名daimyou
それでもsoredemo饗応kyouou役yakuかka おo主nushiのno様youなna人間ningenをwo鮒funa侍samuraiとto申mouすのじゃsunoja ウフフフufufufu
えeッxtu!! そこをsokowo退nokeかっしゃれkassyare!!」
浅野asano「うuーむmu 余amaりとrito言iえばeba己onoれre!上野kouzuke 覚悟kakugo!!」
武士mononofuがga
刃haをwo一hito度taびbi 抜nuくku時tokiはha
死shiぬもnumo 生iきるもkirumo命inochiがけgake
千代田chiyodaのno城shiroのno 奥深okubukaきki
あゝaa松matsuのno廊下rouka
花hanaにni恨uraみのmino 風kazeがga吹fuくku
「放hanaしてshite下kudaされsare梶川kajikawa殿dono 五万三千gomansanzen石goku 家ieをもwomo身miをもwomo省kaerimiずzu
上野介kouzukenosukeをwo討uつはtsuha、将軍家syougunkeのno御威光ikouとto役職yakusyokuをwo笠kasaにni着kiてte
私利私欲shirishiyokuにni走hashiるru人非人ninpininをwo斬kiるru為tameじゃそのjasono手teをwo放hanaしてshite討uたしてtashite下kudaされsare梶川kajikawa殿dono!!」
武士bushiのno
情nasaけをkewo 貴殿kidenがga知shiるならばrunaraba
止toめてmete呉kuれるなreruna 手teをwo放hanaせse
男otokoのno怒ikaりri 燃moゆるyuru時toki
あゝaa松matsuのno廊下rouka
床yukaにni 流nagaしたshita血chiのno涙namida
武士bushiのno
厳kibiしきshiki 運命unmeiがga恨uraめしやmeshiya
明日ashitaのno命inochiはha すでになくsudeninaku
無念munenがga残nokoるru 千代田chiyoda城jou
あゝaa松matsuのno廊下rouka
忠臣蔵chuushinguraのno 幕makuがga開aくku