近松門左衛門原作「心中 天の網島」より 小春 歌詞 島津亜矢 ふりがな付

浮名うきなを流ながす蜆川しじみがわ
小春こはる治兵衛じへえの エー道行みちゆきじゃぞェ…

帯おびも身幅みはばも 思おもいの丈たけも
痩やせて浪花なにわの 神無月かんなづき
治兵衛じへえさま…小春こはる…
まして浮うき名なの 曽根崎新地そねざきしんち
人ひとの噂うわさで 運命うんめいが変かわる
小春こはる 哀かなしや… 義理ぎりに泣なく

縁えんとは不思議ふしぎなものです
逢あうたびに、情じょうは深ふかまり 心こころが傾かたむく
そしていつしか、切きるに切きれない絆きずなとなるものです
これがこの世よの運命うんめいとあらば 小春こはるはすべてを
運命うんめいの川かわにまかせます 運命うんめいの川かわに流ながれます
さあ治兵衛じへえさま、この橋はしを渡わたりましょう
橋はしの名前なまえも梅うめ、桜さくら…
渡わたり切きれたら花はなとなり、
散ちって散ちってあの世よへ参まいりましょう

恋こいは気きまぐれ こころの迷まよい
それは世間せけんの 逃にげ言葉ことば
治兵衛じへえさま… 小春こはる…
引ひくに引ひけない 情なさけの狭間はざま
たかが一枚いちまい この誓紙かみきれで
小春こはる 涙なみだで… 帯おびを解とく

風かぜに誘さそわれて聞きこえて来くるのは大長おおおさ寺てらの鐘かねの音ね…
ここは小春こはるが治兵衛じへえさまと、最後さいごの場ばと決きめた綱島つなしまです
母かあさまに何なにの親孝行おやこうこうも出来できないまま先立さきだつ不幸ふこう
どうか、どうかお許ゆるし下くださいませ
そして先さきの世よに行いっても、小春こはるは大好だいすきな母かあさまの
娘むすめでいさせて下ください
小春こはるは、小春こはるは母かあさまが大好だいすきでした…

女おんないのちの 建たて前まえ本音ほんね
捌さばききれずに 袖そでを噛かむ
治兵衛じへえさま… 小春こはる…
死しぬも生いきるも 絵草紙えぞうしならば
夢ゆめの道行みちゆき 浄土じょうどの旅たびへ
小春こはる 治兵衛じへえに… 雪ゆきが舞まう

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ 南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
治兵衛じへえさま～