近松門左衛門原作「曽根崎心中」より お初 歌詞 島津亜矢 ふりがな付

命いのち追おわれて 力ちからも尽つきて
闇路やみじに光ひかる ふたつ星せい
泣ないてさめざめ 天満屋てんまやお初はつ
帯おびは裂さけても 心こころは裂さけぬ
お初はつ…徳とくさま…
忍しのび爪立つまだち 梅田うめだ橋ばし

「冬ふゆに耐たえれば春はるがくる
例たとえ…この身みは蜆川しじみがわの水底みぞこに沈しずんでも
あなたの側そばにいたい
徳とくさま…離はなさないで…
願ねがい叶かなわぬ夢ゆめならば 次つぎの世よでもその次つぎの世よでも
あなたと暮くらしたい
徳とくさま…きっと…きっと…幸福こうふくにして下くださいますね」

肌はだに白無垢しろむく 無情むじょうの霧きり道みちは
一足ひとあしずつに 消きえてゆく
風かぜの曽根崎そねさき 天神様てんじんさまよ
どうぞお願ねがい 一緒いっしょに泣ないて
お初はつ…徳とくさま…
恋こいの道行みちゆき 鐘かねの音こえ

「徳とくさま…浅黄あさぎの色いろの抱かかえ帯おび
この帯おびで二人ふたりの躰からだをしっかと縛しばって下くださいな
松まつと棕櫚しゅろとは根元ねもとでひとつ
この連理れんりの木きにすがって死しにましょう
あ…あれは暁あけの七しちッの鐘かね 六ろくッ嶋しまりて残のこる一いちッが
今生こんじょうの鐘かねの響ひびきの聞ききおさめ
徳とくさま…早はやよう迷まよわずその脇差わきざしを抜ぬいて下くださいな
徳とくさまと一緒いっしょに死しねることがうれしい…うれしいの…」

解とけた黒髪くろかみ 震ふるえる肩かたは
この世よのなごり 夜よるも別わかれ
抱だいて下ください 力ちからの限かぎり
永遠とわの契ちぎりは 誰だれにも断きれぬ
お初はつ…徳とくさま…
きっとあの世よで 添そい遂とげる