雨夜譚～渋沢伝～ 歌詞 永井裕子 ふりがな付

人ひとの世よは 志こころざし杉すぎの如ごとく 葵あおいは義ぎを以もって 花はなと咲さく

雨あめの終おわりの ひと雫しずく
落おちて澱よどむか 利根とねの川かわ
風かぜは武州ぶしゅうの 如月きさらぎに
産うぶ声ごえあげる 赤子あかごあり
やがて白眉はくびと 知しる由よしもなし

「何なんと申もうされるか? 御用金ごようきんが五百ごひゃく両りょうとな!
我われはいまだ十七才じゅうしち いかに領主りょうしゅさまのご命令めいれいであろうと
手元てもと不如意ふにょいにござる 一途いちずに農民のうみん町人ちょうにんと卑下ひげされ
まさに人間にんげん以下いかに扱あつかわれては 歯牙しがにも掛かけられ
ぬ有様ありさまではあるまいか! 家柄いえがらだけが無闇むやみに重おもんぜられる
そんな そんな世よの中なかが…癪しゃくの種たね
同おなじ人間にんげんに生うまれたからには 何なにが何なんでも 武士ぶしになって見返みかえすこと…
それがそれが私わたくしの 栄一えいいちの生いきる道みちにございます」

勝かてば官軍かんぐん 負まければ賊ぞくと
非情ひじょう無情むじょうな 鳥羽とば・伏見ふしみ
暗雲あんうん流ながるる 都みやこの空そらに
時世ときよ時節じせつか 葵あおいが枯かれる
我われ主君しゅくん 徳川とくがわ慶喜よしのぶ公こう
臆病者おくびょうものと謗そしられようが
戦たたかわずして明あけ渡わたす 江戸えどの城しろ
なぜに汚名おめい晴はらさぬ
日陰ひかげ身みの 侘わび住居ずまい
あ…吾われ思おもう

天てんの使命しめいと心こころして
枯かれ木きに花はなを 咲さかせなければ
恩おんに背そむいて 男おとこが…男おとこが アンア…立たたぬ

「男おとこはいかに 丸まるくとも 角かどを持もたねばならぬもの
金かねはボロに包つつんでも 金かねでもあるが 石いしは錦にしきに包つつんでも
石いしのまま… 夢ゆめなき者ものは 理想りそうなし 更さらに信念しんねん・計画けいかく・実行じっこう
成果せいかなき者もの 幸福こうふくなし ゆえに
幸福こうふく求もとむる者ものは 夢ゆめなかるべからず」

「わが人生じんせいは 実業じつぎょうに在あり」

明治維新めいじいしんの 幕開まくあけが
八面六臂はちめんろっぴの 国くにづくり
明日あすの日本にほんの 礎いしずえに
算盤そろばん弾はじき 大暴おおあばれ
雨夜譚あまよがたりに 我われ姿すがたあり