「吉澤嘉代子の発表会」
吉澤嘉代子が、何故今回のコンサートに「吉澤嘉代子の発表会」と名付けたのか。どうして、「子供編」と「大人編」に分け、内容も変えて届けたのか…。二日に渡った公演のうち「大人編」のみを見て語る内容のように、解釈が間違っていたら「すみません」と先に謝っておく。
「大人編」のライブの序盤に、彼女はMC変わりの短い芝居仕立てで、幼少の頃に飼っていた犬のウィンディと一緒に少女時代の自分を振り返る会話を繰り広げていた。まだ13歳だった思春期の頃、彼女は大好きな歌を部屋で歌いながら、壁の向こうにたくさんの観客がいるつもりで「歌の発表会」を開いていた。
「子供編」として構成した初日のライブは、13歳の頃の吉澤嘉代子の姿や想いを投影しながら物語は進められた。二日目となる「大人編」は、28歳の吉澤嘉代子が、少女時代の自分を俯瞰する形で捉えるように物語を綴っていた。何故、吉澤嘉代子が歌い手として、今、大勢の人たちの前に立ち、こうやって想いを届けているのか。彼女は、自身の持ち歌を二日に渡るコンサートメニューへ巧みに振り分けながら、みずからの歩みを語り継いできた。
よく一人で部屋で歌の発表会をしていたよね 。
二日目のライブは、廻るミラーボールに反射した無数の光が降り注ぐ中、ときめいた気持ちを弾ませるように、みずからの感情や姿を輝きの中で満たすよう『綺麗』を歌いながら幕を開けた。「よく一人で部屋で歌の発表会をしていたよね」。タイムスリップした13歳の頃の吉澤嘉代子の部屋で、二日目のライブは、廻るミラーボールに反射した無数の光が降り注ぐ中、ときめいた気持ちを弾ませるように、みずからの感情や姿を輝きの中で満たすよう『綺麗』を歌いながら幕を開けた。
「よく一人で部屋で歌の発表会をしていたよね」。タイムスリップした13歳の頃の吉澤嘉代子の部屋で、子供の頃に飼っていた犬のウィンディと再会し、交わした会話。
そこから13歳の頃の自分を思い返すように、吉澤嘉代子は『ねえ中学生』を、大人になった自分と重ねながら、ウキウキとした気持ちのままに歌っていた。
自分の腕に映えていた毛に驚き、始まった『ケケケ』
時は現代。今回のコンサートのリハーサルを終え、一人、吊り革につかまり電車に揺られながら帰る道すがら。自分の腕に生えていた毛に驚き、始まった『ケケケ』の演奏。まさか、こんなコミカルな展開で歌謡ナンバー『ケケケ』を披露するとは…と嬉しい驚きも覚えつつ、ホーンセクションの音色も華やかに、ファンキー&ゴージャスに鳴り響く演奏の上で、吉澤嘉代子は情熱的に歌いあげる。その姿に刺激され、会場中にも熱気が広がり出す。その勢いを広げるように歌った『月曜日戦争』でも彼女は、華やかさと浪漫な香りを振りまき、場内にきらびやかな発表会の様相を描き出していった。心の中に巡る想いや風景を歌のスクリーンに投影。
うきうきとした、華やかな演奏に乗せ、会場中の人たちと一緒に大きく手を振り、気持ちを嬉しく開放した『手品』。みずからギターも弾きながら、情熱抱いた歌声を魅力に、触れた人たちの心へ沸き上がる高揚とさりげなく妖艶な香りも振りまいた『化粧落とし』。
エレピの哀切な音色からの幕開け。次第にアンニュイな表情を滲ませながら、センチメンタルな香りも振りまき歌いかけたミドルメロウな『がらんどう』。吉澤嘉代子のアコギの演奏からスタートした『ジャイアンみたい』でも、身近に寄り添う優しい音色の上で、彼女は軽やかに歌声をはべらせ、流れる時を行き来しながら、心の中に巡る想いや風景を歌の(楽曲という)スクリーンへ投影しては、会場中の人たちと一緒に想いを分かち合っていた。
優雅に泳ぐ人魚に海の中で抱きしめられたような気分。
「私、よく子供の頃に、小さなお話を作っていたでしょう」。ウィンディとの会話が示すように、ここからは、吉澤嘉代子自身が浸っていた心に広がるいろんな世界へ、1曲ごとに脳内トラベル。
ちょっとGSテイストも組み込んだ??、イケイケなロックナンバー『ユートピア』を通し、会場中の人たちが、吉澤嘉代子と一緒に楽しいパーティ空間へトリップ。歌が進むごとに上がってゆく熱気と興奮。その熱をさらに上げるように、吉澤嘉代子は『シーラカンス通り』をドロップ。とてもスリリングなのに華やかさを感じさせる楽曲だ。情熱的な歌声と演奏に触発され、気持ちがどんどん熱くなる。このまま上がり続けるなら、とことんまで上がればいい。
高らかに響くブラスセクションの音色も刺激的、妖艶なムードも醸しながら、情熱的に心を揺さぶる歌謡&ジャジーな歌と演奏が飛び出した。『ちょっとちょうだい』に触れながら、感情の内側から沸きだす熱に嬉しく溺れていた。もっともっとヒリヒリしたい。
ヒリヒリ?。その気持ちを痛く刺激するように流れたのが、『麻婆』だ。「からい、からい」と連呼する吉澤嘉代子。高ぶったその歌声は興奮が導いたものか。それとも、麻婆豆腐のスパイシーな刺激によって導き出された感情か…。もちろん、ライブ中に麻婆豆腐を食べるわけがないように、そこはライブの雰囲気を伝える例えとして笑って受け止めてください。
「地獄タクシーで国際フォーラムまで」のセリフを受けて披露したのが、『地獄タクシー』。豪華なブラスの音色を背景に、妖艶なムードで歌う彼女。でも、その演奏からは、サスペンス要素満載なスリリングな香りが振りまかれていた。熱した気持ちを優しく冷ますように、吉澤嘉代子は『人魚』を歌いだした。壮麗な弦楽の音色やアコースティックな演奏へ導かれ、言葉を紡ぐようにひと言ひと言を大切に歌いながら、会場中の人たちをゆったり優しいうねりの中へ包み込んでゆく。それはまるで、優雅に泳ぐ人魚に、海の中で抱きしめられたような気分だ。
13歳の少女から28歳の大人として
物語も佳境へ。アコギの優しい音色と絡み合う吉澤嘉代子の歌声、その歌と三拍子の調べは、サーカス小屋の中、非現実な世界へうっとり酔いしれる姿と重なりだした。まるでサーカスミュージックのような音色へノスタルジーを覚える『ぶらんこ乗り』に触れながら、会場中の人たちが心地好い夢気分へ浸ってゆく。何時しか舞台の背景には、満天の星空が広がっていた。
巨大な星空のパノラマの上を、吉澤嘉代子の立つ舞台上を、たくさんの光の帯が自由に飛び交い出した。光と優しい星空の輝き、何より神秘的な夜の匂いに包まれながら、吉澤嘉代子は『一角獣』を歌いだした。とても心を開放する楽曲だ。どんどん心に光が射し込んでくる。そして…。
最後に吉澤嘉代子は、『ストッキング』を披露。その歌と演奏は、触れた人たちを未来へと連れ出した。もうすぐ夜明けが訪れると告げるように。この物語の続きには、もっと輝く景色を描こうと呼びかけるように、その歌は心を開放していった。それはまるで、13歳の少女から28歳の大人としての今の自分へ心を一気に揺り戻すようにも響いていた。
素敵なミューズの微笑みを届けてくれた。
アンコールの最初に届けたのが、アンニュイでノスタルジックな、穏やかな音の匂いで会場中の人たちの心を優しく包み込んだ『残ってる』。続く、最新シングル歌『ミューズ』では、弦楽の音色を軸に美しく軽やかな…優しくも華やかさを持った演奏と歌声を魅力に、触れた人たちの気持ちへ素敵なミューズの微笑みを届けてくれた。最後に、吉澤嘉代子は『東京絶景』を歌唱。ふたたび場内に心温まる嬉しい熱気を作り上げ、物語の幕を閉じていった。二度目のアンコールは、アコギを手にたった一人で舞台へ登場。最後の最後に彼女は、アコギとウィンディーの爪弾くトイピアノとのセッションという形のもと、ライブでは2年ぶりとなる『23歳』を披露。暖かく重なり合う演奏の上で、吉澤嘉代子は優しい歌声をはべらせ、最後の最後まで満員の観客たちの心を、その暖かな想いで握り続けてくれた。何より、吉澤嘉代子の搖れる心模様を、1本のライブという物語を通して感じ続けられたことが嬉しかった。
吉澤嘉代子は、年内に新しいアルバムを発売する。来年2月からは全国七大都市を廻るツアーも発表した。その前にも、イベント出演なども決まっているように、機会があるなら、一度彼女のライブに触れてもらえたら幸いだ。
TEXT:長澤智典
PHOTO:山川 哲矢