理屈抜き!己の魂に従い描く「これ描いて死ね」
「これ描いて死ね」は、少年漫画雑誌『ゲッサン』で連載されている漫画です。主人公は、物語の舞台となる伊豆大島に暮らす女子高生・安海相。
漫画が大好きな相は、なかでも『ロボ太とポコ太』という作品を熱烈に愛しています。
作中に登場する「ポコ太」をイマジナリーフレンドにするほど、その思いは並々ならぬものです。
ある日、相は『ロボ太とポコ太』の作者である漫画家「☆野0」が、同人誌即売会「コミティア」に出展するという情報をキャッチ。
伊豆大島から約120キロメートル離れた会場へ向かい、そこで数え切れないほどの同人誌を目にします。
「漫画は読むだけではなく、自分で描いてもいいんだ!」
創作の世界に衝撃を受けた相でしたが、さらに驚くべき事実が判明します。
漫画家「☆野0」の正体は、相が通う学校の教師であり、日頃から相の漫画好きを否定していた手島零だったのです。
そこから始まるのが、相を中心に結成された「漫画研究会」での創作の日々。
それぞれが抱える事情や漫画への情熱を通して、「なぜ創作するのか」という根源的なテーマが描かれていきます。
『これ描いて死ね』は、「漫画が好き」という純粋な思いと創作に一生懸命向き合う人たちをまっすぐに描いた名作です。
死を描く鬼才、キタ二タツヤが描く生
キタニタツヤは、独自の音楽性で注目を集める人気シンガーソングライターです。ボカロP「こんにちは谷田さん」として頭角を現し、現在はキタニタツヤ名義で数々のヒット曲を世に送り出しています。
なかでも、彼の知名度を大きく押し上げた代表曲といえば、TVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』のオープニングテーマ「青のすみか」でしょう。
そしてNHK紅白歌合戦にも出場し、アニメ作品と深く結びついた楽曲を数多く手がけてきました。
原作の世界観や登場人物の感情を巧みに音楽へ落とし込む表現力は、キタニタツヤの大きな魅力です。
その楽曲にはどこか仄暗い空気が漂いながらも、その奥で燃え上がる希望や不屈の意志、情熱が鮮やかに描かれています。
しかし、今回取り上げる楽曲は、彼の作品のなかでも珍しいほど明るく軽快な仕上がりです。
それでいてタイトルは「遺書」。
弾むようなサウンドと重々しい題名の組み合わせには、どこかアンバランスで不思議な魅力があります。
この対照的な表現には、どのような意味が込められているのでしょうか。
歌詞やサウンドをひも解きながら、楽曲の魅力を深く考察していきましょう。
自己救済のための創作、自分が救えなきゃ意味がない!
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例えば、
お散歩中に見た花、
無性に寂しくなる夕間暮れ、
いくつも表情を見せる青色、
言わん方がいい言葉も
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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「遺書」はそんな歌詞で始まります。
ここで描かれるのはまさに「日常」としか形容し得ないようなものたちです。
不意に目に入った美しいもの。
意味もなく悲しくなってしまう時。
自分の本心を飲み込む瞬間。
そういうもので人生はできています。

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このちまい人間の生活を、
目が離せなくなったものどもを、
ここに叩きつけたい
残らず書き尽くすまで
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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「ここ」とは、この場において「漫画」でしょう。
日常のちっぽけな喜怒哀楽を、何故か今でも覚えているささいなすべてのことを漫画へ込め、それがからっぽになるまで昇華する。
それは漫画を面白くするためのエッセンスでもあるでしょうが、それ以上に強い意味があります。
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おれはこうしておれの今をちゃんと救ってあげたい
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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どうにもならない平凡でちまちまとした自分の人生。
それが創作という形で自分でも愛せる素敵な形へ変わっていきます。
それは「楽しいからやっている」だけではない、自分を救済し、自分を生きるための行為です。

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知らねえ場所の、
知らねえ未来の、
知らねえあなたに、突き刺さって抜けなくなって…
そんなんはクソどうだっていい!
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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漫画が広く読まれるようになれば、そこから何らかのメッセージを受け取る読者が生まれることもあります。
どこか知らない場所の知らない未来の知らない人が、自分の人生で描いた漫画を読んで、勝手に救われる。
そんな様子は漫画でも描かれています。
人によってはまさに「報われる」ような出来事でしょうが、本楽曲では「そんなんはクソどうだっていい!」と吐き捨てます。
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眠ること、
飯を食うこと、
海を見ること、
この人生を消費すること全部で、これを描いて生きる
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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ただ自分を救いたい。
自分の人生をすり減らすのも、何もかもが自分のため。
自分の目で見えた綺麗なものも、悔しかったものも、自分が形にする。
承認欲求も金も感謝も何もかも投げ捨てて、創作に打ち込む姿が描かれています。
「描きたいと思うより先に手が動く」という喜び

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「無人島にひとつ、何持っていく?」
世界一くだらない質問に
馬鹿らしくも「この営み」と脊髄で答えてしまった
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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無人島で漫画を描いている暇なんてない。
しかし、そんな常識を追い越してしまうほどにそれこそが「日常」で「宿命」なのです。
どこにいても、自分にとっての必需品はこの営み。
それこそが夢と執着と遊びと、様々がぐちゃぐちゃに光る「自分にとってのすべて」です。
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誰もおれを知らない世界の隅っこにチマチマと傷を残していくような
贅沢な遊びで
死ぬまで生き急いでいたい
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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描きたいから描く。
救われるのは自分ただ一人。
生産性のないその行為は「贅沢な遊び」なのかもしれません。
この物語の主人公はそうして生きる以外の道を失ってしまいました。
しかし、それは悪いばかりのことではないとこの曲が全身全霊で表現しています。

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悲しい時は悲しいと言う…人と同じようにはいかない
このたましいのための寝床、こさえてやらなきゃな
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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悲しい時はぐっと抑える。
それは、その瞬間の悲しいたましいを、漫画のために消費するため。
激情をただ吐き出すだけでは何にもならない。
自分はこの悲しみを創作という寝床に寝かせることで慈しんでやりたい、そんな覚悟です。

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魂がすり減っていくほど、
自分を嫌うほど、
また愛おしくて手が心を追い越すから
これを描いて生きる
おれはここにいる!
≪遺書 歌詞より抜粋≫
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「遺書」はそんな歌詞で締めくくられます。
人生をこなし、すり減り、自分のことを愛せなくなって、それでも落ち込む心すら追い越して漫画を描くために手が動いている。
そんな時もまた、人は救われるのかもしれません。
そうして生きている。
創作に魂を売って生きる人々は、皆そうしてすり減りながらも確かに、そこで生きています。
ここからまた積み重ねられていく「遺書」
「遺書」は創作に救われ、囚われ、そんな人生を愛する人々の歌です。『創作とはつまり、「生きているかぎり上書き保存で更新され続ける遺書」である』。
これは、キタ二タツヤが本楽曲へ寄せたコメントです。
人生を積み重ねてすり減りながら創作をしているのは彼もまた同じ。
つまりこの「遺書」という楽曲は文字通り、キタ二タツヤの「ここからさらに上書き保存されていく遺書」なのでしょう。
本楽曲を聞き、この生き方に魅入られたという人はアニメや原作漫画をチェックしてみてはいかがでしょうか。
